収穫祭の前準備
夏がそろそろ終わる。
この時期になると、ワーデルス領にて毎年恒例のとある行事が開催される。収穫祭だ。
オルシア王国の始まりは絵本にもある通り、海側からこの山にぶち当たるまで愚直に森を開拓し続けてきた経緯がある。
そのために、国土のほとんどが平地で、農業を行うのに適した肥沃な大地となっている。多少起伏もあるが、ウィルテュームみたいなでかい山はないしな。
しかも、ウィルテューム山と海という位置関係から、王国には端から端までに大きな河が数本通っている。ほんと、神に愛されてるのかねと思う程奇跡的な立地だな。
この神立地を活かして、いまやオルシア王国は農業大国として栄えている。そのメインを飾る農作物が小麦だ。
んで、まもなくそれの収穫を祝う祭りがワーデルス領で行われる訳だな。
起源は村や町がそれぞれに開いていた小規模のささやかなお祝い事だったらしいが、いつの間にか貴族が主催して行われる大きなイベントと化してたみたいだ。
今では収穫を祝うことの他に、戦勝の祝いも兼ねているそうだしな。なので祭りの時に開催される街中のバザーでは、戦争に使わなかったもしくは余った物資とかが安く買えるんだわ。冒険者も敵から剥いだ装備とかを露店で出品してるしよ。
それでもメインは小麦の収穫を祝う祭りであって。祭りが始まるまでに、ワーデルス街へ各村や町から麦の束を載せた荷車がやってくる。
だがここまで大々的に行われるとなると、国民全員がこの小麦の大移動を認知することになるわけで……まぁ、ちょっとぐらいとか魔が差したとかで、運搬される小麦を狙う不埒な輩どもが増えるんですわ。そうでなくとも、盗賊とかが活発になるしな。
そこで活躍するのが俺たち冒険者による街道警備や荷車の護衛って訳なんだが……。
「なぁ…ソフィア嬢よ……俺、ほんとに行かないとダメ?」
「はい。この時期はどこも人手不足ですので」
「でも、緊急依頼じゃないでしょ?これ」
「そうですが……これからはいい仕事を優先して回さなくてよろしいんですね?」
「ぐぬぬっ……それは困るんだが…」
「去年は街道警備の方に参加してましたよね?どうして今年はそんなに渋るんですか…」
「だってよぉ……街道警備って強制的にパーティー組まされるだろ?……去年まではリオがいたし良かったけどよぉ」
「はぁ……では、アレックスさんのところと組むようにお願いしてみますか?」
「あいつらにはもっと前に世話になってっから……今さらもう一度ってのはちょっとなぁ…」
「では、護衛の依頼にいたしますか?小さな村から運ばれるものであれば一人でも問題ないですし」
「護衛はイヤ!絶対に受けんぞ……」
「はぁ、面倒くさいですね…子供じゃないんですから……こちらから提示出来る選択肢は全て出し終えました。いかがなさいますか?」
ぐぅ………リオが豊穣の灯りに所属することで俺にこんなにもダメージがあるなんてな……あいつらは護衛依頼をパーティーで受けるそうだし。その類いの依頼を受注したくないあまりに誘いを蹴っちまったが…ついてけばよかったか?
いや、それくらいなら一人で行くわ。というか、銀級に昇格する条件を満たしたくないから断ってるんだぜ。そもそも行かねぇっての。なに悩んでるんだ、俺。
でもなぁ……俺はソロが一番いいんだよなぁ、精神的に。俺だけじゃなく周りの奴等も含めて、な。
だけど、街道警備の仕事だけは絶対に一人では受けられない仕様だ。最低でも三人から。悪さができないように、俺たちが見張っているぞ!という圧をかける意味合いがあるんで、数がいないと効果があんましないんだと。
その他にも、ならず者を捕まえたときにその場で見張る人、兵士を呼んでくる人と2対1の割合で役割を分担する必要がある。
だから、ギルド側でパーティーを一時的にでも組ませるわけだな。この世界では『俺はソロだ。キリッ』なんて出来ないんだぜ…。
「仕方ないか……んじゃ、街道警備の――」
「私、一晩考えましたの。護衛依頼を達成したという記録を残したくないのでしょう?それなら助っ人制度を使えばいいんじゃないかしら?」
「うぉっ!アリーか――いつの間に?それに助っ人制度って…えぇ……金級が銅級に助っ人を求めるって、ギルド的にどうなんよ、それ」
「……まぁ、助っ人制度にランクの制限はありませんし…できなくはないですね」
「でしょう!だから私は豊穣の灯りに助っ人としてレ、レオンを求めるわっ!」
「……だ、そうですが。レオンさんはどうしますか?」
「あー、えぇ?いや、いいんなら是非ともお世話になりたい申し出ではあるけどよ?……俺、他の冒険者連中に刺されたりしない?こう、背中とかをブスッと」
「………レオンさん程の実力であれば背後をとられても大丈夫でしょう……きっと」
「おぉいっ!そこはギルド側がなんとかしてくれないのかっ?」
「そういわれましても……個人の私的な感情やお想いをどうこうするような力はギルドにありませんので……街の衛兵の方がよっぽど頼りになるかと」
「そうだよねぇっ!……はぁぁ、知ってた。うん、胃がじくじくしてきたぜ、まったくよ」
謂れのない男どもの負の感情を一身に浴びるだなんて、考えるだけで胃が痛くなってくるわ。最近なんかは豊穣の灯りと関わるごとにそういう視線が突き刺さってくるんだからな?おい、お前らは俺が恐いんじゃなかったのかよ……DNAに刻まれてそうな程の根元的な恐怖になんで嫉妬やらの感情が勝ってるんだよ…。
クリムゾンの連中もそれをわかってて煽り立てるんだから質が悪ぃ。いやまぁ……煽ると言うよりか、理由は知ってるがそれはそれとして本心から出た言葉って感じではあるが……なおさら質が悪いなぁっ?!あいつらっ!
「ん?何の話かしら?」
「「・・・はぁ…」」
やめてくれ、ソフィア嬢。そんな目で俺をみるな。その同情は俺に効く…。




