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おでんの屋台


「いやー、相変わらず生活感の無い部屋だね!あ、でも机と椅子、寝袋は買ったんだ……いや、それでもボク的に心配になる生活レベルだけどさ」



 あと三日もすれば梅雨も終わるだろうか。最近は雨が降ったり止んだりを繰り返すようになった。今日にいたっては、しばらく太陽が顔を覗かせている。雲が占める割合で判断するなら、まだ曇りの天気ではあるんだけどな。



「というか、あれだけ稼いでても内職してるんだねー。ちょっと意外かも?でもでもっ、解釈違いでもないんだよね……ちょっとお堅いところというか、生真面目な部分がある、みたいな?おっさんってどこか不真面目になろうとしてる節あるよね」



 俺の内職もほとんど終えてるし。後はギルドに持ってくだけだ。ちなみに、俺が書いている図鑑の内容はこの近辺で確認できた動植物に限ったものになっている。ま、当たり前だわな。

 それを更に区分けして、魔物図鑑、植物図鑑、毒を持つ生き物図鑑の3作品でまとめている。最後の作品はどちらかというとおまけみたいなもんだが。

 前2作品から毒性のある物をピックアップしてちょっと細かく書いただけ。しかも、俺の考察とかも載せちゃってるんで、図鑑というには不適だ。



「でも、まさかこの図鑑の制作者がおっさんだったなんて!てっきり、各ギルドの有力者たちが共同して作ったんだと思ってたよ……。


――あのねー?ボクの精神力がいくら強くたってね?ずぅっと無視されるのは、ちょっと心にクるものがあるんだよ?」


「知るか、アホウ。不法侵入でこちとら訴えてもいいんだが?」


「受付のおじいちゃんからは許可もらってるんで、その訴えは通りませーん」


「はぁ?何やってんだあのじいさんは……で、何のようだ」


「えー、何か用がないと来ちゃいけないんすか……ボクとおっさんの仲じゃん、水くさいよ~」


「それほど親密になった覚えはないな。それになんだかんだ言って、お前さんは職務に対して真面目だろうが。現に、俺への無意味な接触はしてこない」


「えっ、それボクにぶっちゃけます?………と、とりあえずっ!リオ君の銅級祝いのパーティーをしようという話になったんだよね!」


「急だな……あー、もしかして銅級のギルド証が届いたのか?」


「そうそうっ!これで誰から見ても、立派な銅級冒険者の仲間入りだよ!そのお祝いをしましょってアリーがねー?」



 そういやこのドッグタグって再発行もそうだが、昇格による更新時にもちと時間がかかるんだったな。しばらくそんな事態になってないもんで、記憶からすっぽりと抜け落ちてたわ。

 しかし、アリーが昇格祝いねぇ……パーティー内でやればいいのに、なんで俺を誘うかなぁ。



「招待客は他に誰がいるんだ?」


「もっちろん、おっさんだけだよー」


「だろうな……はぁ、贈り物とかの用意はできてないから手ぶらになるぞ?」


「んー、いいんじゃないかな?てきとーに騒ぎながら飲み食いするだけだと思うし……リオ君なら、おっさんが来てくれるだけでもかなり喜びそうじゃん?」



 あー、確かにな。目をキラキラさせながら駆け寄る姿が容易に想像できる……しかし、招待客が俺一人かぁ……リオの元保護者とはいえ、特別扱いはちょいとマズいかもな。

 ただでさえこの街で、いろんな意味で有名なパーティーに新規が参入したんだ。同業者からの注目はもちろんのこと、素性や関係性と言う点においては貴族や有力商人らも探りを入れてるっぽいしな。



「今から向かう感じか?」


「いちおう、会場は貴族街になるからね。こっちで移動手段は用意してあるんだー。裏手で待たせちゃってるから、準備できたら来てね?」


「あいよ……さすがにクランハウスだよな?本邸ではないだろ?」


「もっちろん!……あれだったらおっさんの家にする?」


「………いんや、アリー主催なら素直に従うさ。それに、長居するつもりはないぞ?軽く祝いの一言をいったら帰るさ」


「えー……この薄情もの~!どうせ梅雨が明けるまでは暇なんでしょー?ちょっとくらい泊まりであそんでこうよ!」


「泊まりは全然ちょっとじゃないだろうが……そんなことよりも、明日はギルドにこれを渡しに行く予定があるんだよ」


「むぅー……それくらい、いつでもよさそうな気がするけどなー。言い訳としては弱いんじゃないんですかー?まぁ、いいっすけど……。

 その言葉、ちゃんと自分の口でアリーとリオ君にも言うんだよ?わかった?ボクはなんの口利きもしてあげないからねっ」



 まっ、さすがにこんな理由じゃ薄いわな。言われなくともわかってらぁ。


 やっぱ、さすがに保身優先でアリー達を軽く扱う態度には少し怒りもするよなぁ……忠誠の対象は辺境伯よりもアリスに重きをおいていると見て良さそうか?直情型の性格ならそれでもいいが。これが演技じゃないと言い切れはしないんだよな。


 はぁ、貴族の身分があるだけで人間関係がこうも面倒なものになるとは……お祝い会も長居は危険だな。どこで誰に見られてるかわからん。俺には後ろ盾どころかスキル証すら無いんだぞ。リオはこの事を知らないんだろうが…。


 はぁ、悪いね……リオ、アリー。

 

 今度、そこら辺の店で飯を食わせてやるから、それで許してくれや。


 俺の祝いのやり方は、酒と飯を奢って他愛のない雑談で盛り上がる程度の、静かなもんなのさ。この世界におでんの屋台があったなら、俺主催のお祝い会場は間違いなくそこだっただろうよ。



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