平穏と幸せを
「お、おはよー……」
「あぁ、おはよう。よく眠……れてはないようだな」
「そりゃそうっすよ!……初めて床で眠ることになったんだもん…全身凝り固まってて、なんもしてないのに疲れたよー」
「そうか。ご苦労なこって」
「そうなんだよー……こっちだって苦労してるのさ!ねぎらいの意があるなら頭よしよしの褒美を所望するっ!」
「はんっ、ガキかお前は。つーか、出会って二日程度の相手にするわけないだろ?どんな関係性だよ。コミュ力お化けかこのやろー」
「失礼だなー。そもそも野郎じゃないですぅーだ」
ボーイッシュな見た目と態度してる癖にどの口が言ってるんだか……まぁ、おしゃれな格好ではあるし、その辺りのセンスは高いようだが。ただ、服装が地味なものになったら、もう少年か少女かわからんぞお前。
というか、露骨に距離間縮めようとしてきてんなこいつ。ふむ……苦労してる、ねぇ。言葉通り、なんだろうな。
こんなおっさん相手に付きまとわなきゃいけないって、そりゃあ年頃の子にとってはきつい仕事だろうさ。護衛として今まで研鑽積んできた身なら、尚更アリーから離れたくなかっただろうに。ま、そこに同情までする気はないが。
「んぅぅーっ!よいしょー……身体がバキバキだぁ……ふぅ、で?今日はおっさんなにするのー?」
「昨日と変わらん。仕事だ仕事。貧乏暇なしってよく言うだろ?」
「おーっ!採集依頼だよねっ、ねぇねぇ!ボクもそれについて行っていいかな?おっさんのその採集技術は長年、最高の評価を取り続けてることで有名なんだよねー」
「どこ情報だそれ。聞いたことないぞ……まぁ、勝手についてくるのは別に構わんが」
「いいの?!やったー!てっきり、『そういった技術は俺の稼ぎ口だ。そう簡単に見せられん』とか言われるかなぁって思ってたよ」
「似てないな。俺の声はもう少し低いぞ。んで、技術についてだが、俺は特に秘匿はしていない。というよりもだ、正しい採りかたは薬師の奴らに聞けば大抵のものは教えてくれるぞ?」
「えっ、そうなの?」
「そりゃあ、技術を独占して儲かろうとするやつもいるが……質のいい素材が手に入らなきゃ薬師とかの商売もうまくいかなくなるんでね。
まぁ、冒険者が独占するとしても狩り場とか採り場になるだろうな…」
「ほへー……知らなかったよ。ちゃんとベテランなんだ……」
「こんな知識でベテラン気取れるなら楽でいいな……見習うならアレックスさんのクランの奴らにしとけ。俺の知識や経験ってのは、あくまでも銅級相応のものなんでな」
「またまたぁ。そんなこと言っちゃってさ、ほんとはギフト証さえあれば銀級に上がれるんでしょ?」
「さぁ、どうだろうな」
「銅だけに、なーんてねっ!あははー……あ、アハハ。うん、なんかごめんねー?」
「・・・はぁ……ついてくるのはいいが、お前さんは今日もここに泊まるつもりなのか?」
「はっ!宿探ししなきゃいけないんだった……ぐぬぬ――仕方ないかー、うん。今日は宿探しと諸々の買い出しに行くことにするよ。宿が決まったら教えるねっ。用があったり、いい環境で寝たいときはおいでよー!」
「そんな情報いらねーし、そもそも行かねーよ。ほら、さっさと行け。時間は金で買えねーんだぞ」
「へいへい、じゃあ行ってきますよっとー。また後でねーっ!」
はぁ……朝っぱらからテンションたっけぇな…。変にエネルギー使わされた気がするわ。頭使いながら会話もしなきゃだし。
「ふぅ……よし!今日もいつも通り採集に励んでいこうぜ」
いつも通り、変わることのない日常があればそれでいいんだ。精神的な疲れっていうのは、感情に波が立つからこそ生まれると俺は思う。人間社会も同じように、波を起こさず目立たずに生きていくのが一番楽だって思うだろ?
なぁ……俺はただ平穏に、そして幸せに過ごしたいだけなんだ。
――だから頼むぜ?波乱は呼ばないでくれよ、レイラ。その一線だけは、どうか越えてくれるなよ。
ま、あのお調子加減が続く限りは大丈夫そうでもあるがな。何だかんだ言いながらも、人の心の距離感を測るのが上手いようだし。言動や行動を見るに、こっちの踏み込んではいけないラインはなんとなくでも把握してそうだ。
「さぁて!今日はどこで採っていこうか……あぁ、たしかに技術は秘匿してないさ、技術はな…ふっふっふっ」
「ねー、おかーさん。あの黒い人、ぼろぼろな家のまえで笑ってるー」
「しっ!見ちゃいけませんっ!呪われたくないでしょっ」
「う、うん…」
いや、まぁ聞こえてるんだが……たしかに端から見れば不審者然としてるか。
あー、うん……いや、全体的に黒っぽい服装はそりゃ怖いわな。俺もレイラみたいに色のあるファッションに変えたほうがいいのか?
今度、あいつにコーデをお願いしてみるのもアリかもしれんな…。




