突撃、スゴイ宿
「ちーっす!いやー、今日も結構かせげたみたいだね~!――ねぇねぇ、やっぱり採集依頼って穴場だったり?」
「………はぁ、なんで俺に付いてきてんだ?豊穣の灯りとしての活動はどうした、レイラ?」
「べっつにー?他のパーティーとおんなじ感じで、ボクたちだって常日頃一緒に動いてるって訳じゃないし……依頼仕事をしない時はアリーも家にいるからね。それこそ侍女のエマくらいじゃないかな?べた~ってくっついてるのなんてさ」
ほう?まぁ、さすがに護衛とはいえ交代制ではあるか。今の発言からして、レイラは依頼仕事をするときの護衛担当か?んー、決めつけるのは早計だな。
ってか案の定ギルドで換金してたときに来たよ、こいつが。査定待ちのタイミングでいきなり肩を叩いて呼ばれたんで、やっぱ来たかと思いながらふり返ったらな……ほっそい指が見事ささったよ。俺の頬になぁ!
やーい引っかかったなんて言って笑いやがって、こんちきしょおっ!
「あっれ~……もしかして、さっきのことまだ根に持ってたり?」
「……さてな。で、俺の質問にまだ答えを返してもらってないんだが?」
「そんなこと言ったら、ボクの質問にも答えて貰ってないんですけどー?」
「冒険者の飯の種を聞くのはご法度だぜ?そんな暗黙の了解も知らねえのか、金級冒険者ってのはよ」
「ぐぬぬ……いいもーん。ボクはまだ銀級ですしー?」
「お、そうなのか?豊穣の灯りイコール金級ってイメージがあったもんでな。てっきり全員がそうなのかと思ってたわ」
「あはっ、全然そんなことないよー。金級なのはアリーとお姉ちゃんだけだよ?他はみんな銀級だもん。あ、リオ君は銅級だけどね」
「どちらにせよ暗黙の了解くらい誰かに教えてもらっとけ。じゃないと、余計な衝突を生むだけだぞ」
「その辺はいつもアリーかエマが対応してくれてたからなー……こうして単独で冒険者するのも何気に初めてだし…うん!後で聞いとくよっ」
「ならよし。で、どうして俺についてきてるんだ?話を逸らそうとしても無駄だぞ」
「ピュぅ~♪……」
口笛吹いて顔逸らすなんて、どんな誤魔化し方だよ。こんなん実際にするやついるんだな……創作の世界だけかと思ってたわ。
「言いたくないから言わないのは結構だがな?ほれ、もう俺の泊まってる宿についたぞ?」
「えっ、あー……よ、よしっ!今日はボクもここに泊まってくよ!どのみち、家に帰る頃には深夜になってそうだし。宿もまだ見つけてなかったからさ」
「その選択を止めることはしないが……いいのか?この宿で」
「そ、それってどういう……」
おいおい、こいつは知らんのか。この俺を泊められるような安宿だぞ、ここは。お前さんが普段暮らしている環境とは大違いに決まってるだろうに。
ま、何事も見ないと始まらないか……突撃、隣のスゴイ宿ってね。
「うげ……おっさんってば、こんなとこに住んでるの?……ボクがお金出すから、もっといいところに泊まろうよ?体壊しちゃうよ?冒険者にとっての一番の資本なんだよ?」
そんなこと百も承知だよこのアホウ。お前さんがいなけりゃ、インベントリにしまってる諸々を取り出せたんだよ。そうすりゃ、少しは快適な空間になってただろうな!
「机も椅子もないし、ベッドまでないなんて……おっさんは綺麗好きってうかがってたんだけど…」
「あっちの家から石鹸の類いは持ってきているし、そこに木桶と布があんだろうが。体はこれでもかというくらいに清潔にしているぞ」
「あ、ほんとだ……ってちがーう!そうじゃなくってさ?ほら、綺麗好きって聞いたらもっと、こう、さ!魔道具をふんだんに使った生活をしてるのかなって想像するじゃん?」
まぁ、この世界で身綺麗とかに気を使う人たちは貴族とか商人とかの裕福な奴らがほとんどだもんな。俺の稼ぎもあらかた予想できてるだろうし、そういう生活をしていてもおかしくないと思ってたんだろう。
「宿の見た目からしてボロボロだし、なんか嫌な予感はしてたんだけどねっ?乱雑に置かれた本たちに、1ヶ所にまとめられたいろんな種類の武器……あとそこの木桶と布……生活感無さすぎに思うのは気のせいかなっ?」
「それは、俺が泊まってる部屋だからだろうな」
「はっ!ということはじゃあ、他の部屋は!」
「あるのは窓くらいだな。物一つないただの部屋だ」
「うそぉ……」
「だが安いぞ?夜飯つきで1日たったの銅貨5枚だ。一人部屋の他宿の平均と比べたら5分の1の価格だぜ?」
「………いいっす。今日はもう遅いんでここに泊まりますー……明日、近場でいい宿探そっかな……」
「そうか。なら一階に戻って、受付で寝てたじいちゃんのところに行ってこい。4部屋しかないとはいえ、俺以外に泊まってる奴なんていないから空き部屋はあるだろ」
「う、うぃーっす……」




