いつものやりとり
「いつものことですけど、なぜ採集を専門にしてるんですか、あなたは」
ギルド内でボア肉の査定を待っている時、受付のソフィア嬢がかけてきた言葉がこれだ。
「いや、なぜと言われてもな?単純に常設依頼なら採集の方が稼げるからだが」
「それは常設依頼ならの話でしょう。そもそも、採集したものは、薬屋や薬師ギルドに直接卸した方が高く買い取ってくれるはずですが?
獲ってきたものも同様に、肉屋や狩猟ギルドで買い取ってもらう方が色々とサービスされるはずです」
ギルド職員としてそんなことまで言っていいのかよ、おいっ……と思わずツッコミを入れてしまう発言だが、ソフィア嬢の言ってることは概ね正しい。
ギルドで買い取ってもらう場合はあくまでも依頼という形のため、ギルドから素材を必要とするお店への仲介料が発生する。まあ、他にもギルド側に一定の金額が入る仕組みになってるんで、俺の手元に来るお金は適切な場所で買い取ってもらうよりも安くなるのは必然だな。
だが、ギルドで買い取ってもらうことに大きな利点が俺にはあるんだなぁ。
「おいおい、ソフィア嬢もここに来て五年くらい経つんだっけか?それなら、俺が街の人たちからどんな風に見られてるかなんて知ってるはずだぜ?」
「……腐ってますね、ここの人たちは」
「辛辣ぅっ!何も全員が全員って訳じゃないけどな?ただまぁ……肉屋の人が買い取ってくれても、俺が狩ってきた肉は闇で穢れているなぁんて言ってさ。ダメになる寸前まで売れ残っちまうんだよ」
こっそり買い取ってくれる奴も居るにはいるんだがな……そいつらの好意に甘えて、経営に支障をきたさせちゃぁ、それはただの恩を仇で返す行為と何の変わりもないんだよ。
店を経営してる人ほど、取ってきた素材にクオリティ以外の貴賤なんか無いってのは理解してる。だが、いかんせん消費者側の気持ちはそうじゃない。んでもって、商売なんて信用勝負だ。そんな真面目な奴等の邪魔なんてしたかねぇよ。
「その点、ギルドは匿名性があるからな。仮に俺が狩ってきた物だとバレてても、既に依頼としては達成して金はもらえてる。それに、常設依頼からギルドが卸し先として懇意にしている所の人は、みんないい奴だって俺は知ってる。それで十分だぜ?」
「はぁ―――どうやら査定が終わったようです。評価はいつも通り最高ランクですね。おめでとうございます………で、このあともいつも通り裏の厨房を使うんですね?」
「あぁ、悪いね。泊めさせてもらってる宿じゃあ自由に料理ができないもんで」
「……ギルド職員になるなら職員専用の寮で個室が与えられますが、どうですか?」
「ははっ……そっちもいつも通り、断らさせてもらうぜ。まだまだ現役冒険者なんでな!」
これも慣れたやり取りだ。ギルド職員はあまり外見で偏見を持たない人が多い。冒険者は仕事のない奴の受け皿にもなってる分、低いランクに性格がやべーやつとかいるしな。もちろん犯罪を犯せば衛兵にしょっ引かれるんで治安は大丈夫だ。
ため息をつきつつも、裏に併設されている厨房への道を開けたソフィア嬢に、ひとこと礼を言って進む。
さぁて、おまちかねの……焼き肉パーティのはじまりじゃぁっ!
――残ってたら、仕事上がりの職員さん達に少し分けてやりますか……残ってたら、ね!




