家族で過ごすお正月
「………ん……あぁ……寝てたのか、そういや……」
まさしく有言実行。
家に着いてからは、リオと風呂に入ってさっぱりした後にダブルサイズのベッドにインしたんだっけか。
部屋なら他にもあるし、なにも一緒のベッドで寝なくともいいとは思うんだが……いやまぁ、抱き枕代わりにはちょうど良かったけどよ?体温高めで暖かかったしな。
「……月の位置からして真夜中……ってところか。だいぶ寝たな…」
あっちでは除夜の鐘が鳴ってる頃だろうか。それとももう鳴り終わったか?ウチではもう、年越し蕎麦を食べてるかもしれん。
まっ、残念ながらどの文化もこの世界にはないんだけどな。そもそも、日の変わり目からして朝日が登る頃合いだ。
つまり、今はまだ年明け前。
「……二度寝でもすっかね……ふぁぁ…」
年が明けた日の朝は領主館から光の柱が登る。オルシア王が各領主にそういう魔道具を渡してるんだと。
あとは、教会が鳴らしている朝の鐘が昼前まで定期的に鳴ったりとかな。年明けだからと言って、いつもと違うのはせいぜいこれくらいなんだわ。
出店が出たり領主貴族がなんかするみたいな、住民総出の祭ほど騒がしくはならない。祝うも祝わないも個人次第ってことよ。
「……ふぁ……んぅ…せんぱい…?……おきてたんですね…」
「ん?あぁ、おはようリオ。起きてたというか、俺もいま目が覚めたばっかりだ。んで、もっかい寝よっかな……ってね」
「……にどねも、いいですよね…ふぁぁ………でも、ちょっともったいない……ような、気もします…」
「そうか?……んじゃ、パパッと顔洗って…食いもんの用意でも始めますかね」
「……ふぁぃ…」
とは言っても、ある程度は既に出来てるんだけどな。
孤児院に寄った際にシスター・フィオナと、子供たちへの年明けスペシャルご飯を作るついででちょちょいっとね。思ったよりも時間が溶けてたのはこれが原因だったりする。
それに、あんまりリオを待たせるのも、な。あの様子じゃ、あいつこそ二度寝してもおかしくないしよ……うちは早くて美味しいをモットーにやらせてもらってるんですわ―――
「―――というわけで、どーん!三分クッキングも驚きのおせち料理だぜっ?」
「……ふぁい………わぁっ…美味しそうです…」
「一気に目が覚めやがったな……リオなら飲むかと思って酒もそこそこ用意してあるが、どうする?先に贈り物とかの交換を済ませておくか?」
「わっ!こんなにいっぱい……そうですね…酔っちゃう前に色々と終わらせておきたい感じはある、かも…です…」
「だよな……ほい、んじゃあそこに座れ」
空いてるスペースに正座をして、リオと対面する。
これは、俺がこいつの保護者となってから毎年してきたことだ。まぁ、お父さんがやってきた見よう見まねではあるんだけどな。
「まずは、そうだな……リオにとって、今年はどんな一年だった?なんでもいいから聞かせてくれや」
「はい――今年はいろんな経験があった年……だと思います。始まりはパーティーに所属することになったとこからで――」
「まぁ…かなり濃い一年にはなってるよなぁ……」
「あはは……忘れられない一年にはなってると思います……でも、すっごく楽しい一年でした!先輩との距離も戻りましたしっ」
「戻るどころか、変に近づいたような気もするけどな?ま、楽しかったんなら何よりだ……そんじゃ次は来年の抱負、だな」
「……来年はちょっと穏やかに過ごしたい、かもです。今年に色々あった分、来年はもう少し落ち着いた生活をしたいなぁ…って思います…」
「あぁ…ね?それには俺も同感だわ…」
いやぁ、今年は日々が過ぎるのを遅く感じたなぁ……それだけ充実してたってのもあるんだとは思うが……ははっ、さすがに疲れたぜ…。
余所の町に行くことはたまにこそあれど、ここから真反対の港街まで訪れるなんて、春頃の俺には想像すらつかなかったろうよ…。
「よし、んじゃ今年もお疲れさんってことで――これが、俺からのプレゼントだ。」
「――えっ?!わぁっ!かわいいですっ!……えへっ…もこもこだぁ……んふ、これから君の名前はゆーちゃんです………あっ、ありがとうございます!先輩っ」
「お、おう……よ、喜んでくれてよかったぜ…」
ただ、この喜び様……過去にプレゼントしたときのどの反応よりも……まぁ、いっか。次からはこういう系統の贈り物にすれば良いだけだしよ。
それにしても、ゆーちゃん、ね……雪鳥だからか?ぬいぐるみばっかり贈ったらその度に名前をつけるのかね……数が増えたら大変そうだなぁ…。
「それじゃあ、僕の贈り物は――っとと、その前にアリーさんとレイラさんからのを先に渡しておきますね!」
「んおっ?酒は間違いなくレイラだろうが……これは、鞘とベルト…か?」
「はいっ!アリーさんからの贈り物で、先輩の鉈用の鞘と剣帯だそうです。もとの素材はレイラさんの大盾と同じものなので、かなり頑丈みたいですよ?」
おぉぉ……それは、なんというか…ありがたいな……大通りで感謝の土下座も全然キメられる気分だわ…。
いやほんと、こいつの鞘に関してはけっこう困ってたんだよな……革製だと入れる位置がちょっとずれただけでもスパッと切れるしよ…。
「これはかなり嬉しい贈り物だな。今度アリーに会ったとき、しっかり礼を言わねぇと………この酒は……どうせだし、今から飲もうぜ」
「いいですね!レイラも感想を聞きたいそうですし、二人で飲んじゃいましょうっ」
「じゃ、飯を摘まみながらゆるーく宴会を始めていきますか!さっそく、その酒を開けるぞー?」
「はいっ!――あっ!僕の贈り物、まだ渡してないです!先輩っ」
「んー?……そういやそうだったな。でも、もう開けちまったし……まっ、どうせリオとは数日間一緒に過ごすんだからよ。今すぐじゃなくてもいいだろ。年が明けてからのお楽しみにさせてくれや」
「一緒に過ごす…えへ……もうっ…分かりました!年明けのぷれぜんと…にしますね?楽しみにしててください!」
「おうよっ――うぇっ、辛っ!なんだこの酒?!清酒っぽいが……わりぃ、リオに全部やるわ……俺、このタイプ、飲めない…」
「あ、はい……うーん…辛口も慣れると美味しいんですけど…」
むりむり!ってか、慣れてまで酒を飲もうとはまず思わねぇんだわ……やっぱ果実酒が一番よな!
………用意したお酒類、ほとんどがリオのためみたいなところもあって果実酒とかあんまし持ってきてなかったわ、そういや。
―――この後、俺たちは夜が明けるまで、ローテーブルの上に広げたなんちゃっておせちを肴に過去話で花を咲かせることとなった。
―――カラァンッ……カラァンッ―――
レオン「おっ?……遂に年明けかぁ…」
リオ「せんぱぁい……えへっ、今年もよろしくお願いしますっ!」
レオン「どわぁっ!急に抱きつくなっての…はいはい、今年もよろしくな。あと、リオはこれで十八歳になるん…だったか?ま、それもおめでとう、だな」
リオ「えへへっ……もっとあたま撫でて……」
レオン「あいよ……」
(はぁ……この世界じゃ俺ももう三十歳、か……そろそろ、この街に骨埋める覚悟…しなくちゃいけないのかもなぁ……地に足、つけねぇとな)
リオ「んぅ……?せんぱい、なにか悩んでますか?」
レオン「いーや、なんでもねぇよ……強いて言うなら、冒険者の辞め時を考えてたくらいだ。手に職持たねぇといけない年齢が近づいてきてるんでね」
リオ「せんぱい……ぼうけんしゃ、辞めちゃうんですか…?」
レオン「まだ先の話だけどな?でも、四十代にもなって続けてる奴なんてそんなにいないだろ?」
リオ「んふ、じゃあ僕がせんぱいのこと、養いますっ!……それなら、辞めたあともずっとせんぱいと一緒ですっ」
レオン「はぁ?……どういう思考回路してんだ…間が飛びすぎて訳分からんことになってるぞ――って、おいっ、リオ…ちょっと待っ!――」
リオ「誓いの――えへ、ちゅってしちゃいました……」
レオン「…はぁ………せめて、酒臭いのをどうにかしてからにしろっての、このあほう」
(まぁ……身内からのキスくらい弟にされたり兄にしたりとかはよくあったんで、気にはならねぇけどよ……酒入った状態ってのはさすがにないわ)
レオン「……ほれ、いったん酒飲むの止めて、水を飲みやがれ」
リオ「んっ……お水も美味しいですっ…」
レオン(…ははっ……宅飲みできる環境でリオと数日も生活すんの、なかなかハードかもしれんな………おかげさまで、さっきまで何考えてたのかを忘れちまったじゃねぇか……ったく、何歳になっても世話の焼ける子だぜ…この甘えん坊め)
レオン「ま、リオはそれでいいんだけどよ…」
リオ「んぅ、わわっ……えへへ…」
《あとがき》
本日、ここまで拙作にお付き合いしてくださった皆さん……ありがとうございます!
玲央の異世界生活の一年間をお送り出来たのは皆さんの評価や応援のおかげです!なんとブックマークにいたっては200件もいただけているんです!か、感無量です……っ。
急に感じる方もいらっしゃるとは思うのですが、この作品は今話をもって、"完結"とさせていただきます。もともと100話目を年明けのお話にして終わる予定だったので……。
ただ、読者による続きを呼ぶ声やまだ回収していないフラグがたくさん残っているのは事実なので……週一……月一……とにかく、不定期更新にはなりますが、2年目のお話も描いていけたらなと思いますっ!
ひとまず!ここまでお付き合いいただき本当にっ、ありがとうございましたっ!! m(_ _)m




