銅級冒険者の1日
「あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁぁぁぁぁーー!
――めっちゃ怖かった…」
拝啓、地球で暮らす知り合いの皆さま方へ
異世界に飛ばされて苦節12年。
私は今日も、なんとか生きています……いやほんとなんとか、ギリギリで。
今年で29歳、そろそろ安定した仕事に就きたいのですがまだまだ見つけられていないのが現状っす。
「はぁ……冒険者も辛いよ…とほほ」
でも、冒険者以外に続けられそうな仕事がないのも事実なんだよねぇ……
「自分のペースでできるだけ遥かにマシって考えるかね……よし!とりま、こいつらの解体だな」
地に伏せているのは、三匹の豚さん。
筋骨たくましく2㍍以上のタッパでお手製のこん棒を振り回してくる姿には、きっと狼も息を吹きかける前に逃げ出すことでしょう。
逃げ出すにもプロの短距離走者なみの速さがないと厳しいけどな。
こいつらデカくて重そうな体してるくせに、二足歩行で豚と同じくらい脚が速いんだよなぁ。連携とって動く程度には頭も良い。
こいつらの単体危険度は星3つ。これはギルドから発足された公式のものだ。化け物共だけではなく、場所や依頼内容にも目安として付けられている。
俺が所属している冒険者ギルドはこういった化け物を駆除する仕事が委託される。
街やそれらを繋ぐ道から脅威を取り除くのは本来、領主様の私兵の役割なんだがな。
他にも薬や道具に使われる、ゲーム風に言う素材の入手のお仕事に商人の護衛がある。いわゆる、何でも屋が冒険者の役割って認識で間違いはないだろう。
「しっかし……薬草採取しに来たタイミングでこれかぁ。多少奥の方に行ったとはいえ、だな」
俺の冒険者ランクは銅級。危険度星3つまでの依頼を受託することが出来る。一番下の石級から鉄級の次に来るランクだ。上にはあと3つのランクがあるが、なる気もなれる気もしないので割愛する。
今いる場所は、危険度が高くても星2つの森。辺境伯が治める街の近場ということもあって、石や鉄のような成り立てのやつらが足繁く通う所だ。
「こりゃ、近くに巣が作られでもしたのかね……ギルドに報告しないと、か」
ひとまず、討伐証明部位のみ剥ぎ取りを終えたので今日の仕事は終了。薬草採取の予定だったから、さすがにこいつらの肉とかを入れる袋がないんだよなぁ。中途半端に解体しても、ギルドの確認が入るとなればこっそり持ち帰る手も使えない……仕方ないか。
味付けの薄い料理ばっかのこの世界じゃ、かなりのごちそうなんだが――くうぅーっ、もったいない!
後は、ギルドに報告することも考えると……近くの木に適当な色つきの布を縛り付けて目印にするか。
街へと戻りギルドに報告したのち、いつもの宿場で飯を食べる。
今日得た収穫は、薬草の常設依頼達成報酬と報告ご苦労様代。それと、美人な受付嬢のお小言と心配の声。
うん、今夜もよく眠れそうだ。
――もうちょっと飯の味濃くならねぇかな。醤油が欲しいぜ、まったく。




