表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/43

レインスターとリズベット。

 





 ウィルフェンスタイン帝国。この国はずっと、慣習と伝統に囚われている。

有用な筈の歴史書や魔導書を禁じられているからという理由で禁書としたり、皇太子は皇妃の子でなければならないとか、様々な未来の可能性を潰すような決まり事ばかり。


 禁書に関しては俺が皇太子になってから何とかするとしても、まずは皇太子にならなければ何も出来ない。


 父上も一体何を考えているのか、どう考えたってあんな子供に帝国の未来を託すなど不安しかない。

慣習に従うなら長男である俺が皇太子になるのが一番間違いが無いだろうに、図々しく生まれてきたがゆえにあの子供が皇太子の椅子に座ってしまった。


 色々と手を回して、家庭教師に無能な者を付けたりしたが、全く堪えた様子のないあのクソガキが、心から、……ムカつく。

いくら腹違いの弟、末っ子とはいえ、アイツさえいなければ俺が皇太子だった筈なのに。


 皇帝になるのは俺であるべきで、あの子供になど務まるはずがない。それは決定事項で、覆りようがない事実だ。


だからこそ自覚の無いアイツに、己の無力さ、無能さを思い知らせる為に奴の婚約者に近付いた。

それが、あんなにも可憐な少女だとは思わなかったのだ。


『レイン様、ワタクシの婚約者はどうしてあんな子供なのでしょうか』


 悲しそうにそう言って宝石のような涙をぽろりと零した彼女は、小さくてか弱く、誰かが支えなければ折れてしまいそうなほどだった。

婚約者であるキャロラインとは正反対の、まるで飴細工のようなリズベット嬢は、俺の理想のお姫様だった。


 こんなか弱い令嬢をあんな子供が支えられる訳もなく、むしろ彼女の負担にしかならない未来しか見えない。

誇り高き皇族として、俺はあの子供から彼女を奪うことにした。

俺であれば、彼女を支えながら皇帝としてこの国を導ける自信があったからだ。


皇妃としての技量は確かにキャロラインの方が上だろう。しかし、あんな可愛げの無い女と一生を共にするなど、リズベットの可憐さを知ったあとでは無理だった。

彼女はまだ14歳。二歳上のキャロラインの方が技量が上なのは当たり前だ。

それに、皇太子妃になるよう育てられたリズベットには、キャロラインと同等になれる下地が出来上がっている筈だ。


 まだ出来ていない分はこれからやって行けばいい。この俺が皇太子となるのは決定事項なのだから。


 それに父上も、キャロラインとリズベットの婚約者交換をお許し下さった。普段はあまり見ない、朗らかなお顔だった。

きっと俺が皇太子になる為に動き出すのを今か今かとずっと待っていてくれたんだろう。

父上も慣習に囚われ、即位させられてしまった被害者なのだから。

もしかすると父上は、あの子供を皇太子とするのが本当はお嫌だったのかもしれない。


 そうだとしたら、今まで俺は父上を誤解していたことになる。表に出していないとはいえ、申し訳ない事をしてしまった。

今後はもっと気を引き締めて、物事に取り掛からなければ。


俺はレインスター・ウィルフェンスタイン。

この帝国の次期皇太子なのだから。







 ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱ ✱






 ワタクシはリズベット・アルミラン。

七年前、わずか七歳から皇太子妃教育を受け、皇家に嫁ぐ事を定められた悲しい女。

初めて会った皇太子は、女の子にしか見えないような綺麗な赤ん坊だった。


言葉も喋れない、歩くことも出来ない、そんな子供と将来的に結婚して、一生一緒に居なきゃならない。

しかも、なりたくもない皇妃として。


 今は少し成長したけど、身長は小柄なワタクシよりも下、むしろ胸よりも下。

まるでお人形さんみたいに整った顔はワタクシよりも綺麗で、どう見ても女の子にしか見えない。

男の子だって言われても、全然信じられなかった。


きっと、本当はお姫様なのに、皇妃様が皇子だって嘘をついたんだわ。


そんな風に思ってしまうくらい、ワタクシはこの子供を婚約者だと思いたくなかった。

将来は皇妃になる事を約束されているけど、全部強制的に勝手に決められたことだから、嫌でしかない。


 誰もが憧れる皇妃としての立場。でも、横に居るのがこんな子供だなんて耐え難かった。

10年もすればどうでも良くなるなんて大人は言うけど、見えない先の未来なんてどうでもいいの。

将来あの子供が皇太子として相応しくなるかどうか分からないし、もしかしたら本当に女の子かもしれないのに、どうしてワタクシの時間があんな子供に食い潰されなくてはならないのか、全然分からなかった。


 でもそんなワタクシにも王子様が現れた。


 レインスター・ウィルフェンスタイン皇子殿下。

スマートで優しくて、おおらかで男らしくてカッコイイ、ワタクシの理想の王子様。


 婚約者が子供だと嘆くワタクシを、とても優しく紳士的に慰めて下さった。

初めて会った時にも素敵な方だと思っていたけれど、その時にワタクシは殿下に恋をしてしまった。


 会えただけで嬉しくて、キャロラインとかいう年増と並んで歩いている姿に嫉妬して。


 だけど、奇跡が起きた。

レイン様があの年増との婚約を破棄して、ワタクシと婚約すると言って下さっただけでなく、皇帝陛下さえもそれをお認めになって下さった。

きっとワタクシが凄く頑張っていたから、神様がお慈悲を下さったのではないかしら。


 レイン様はこの帝国で皇太子となるべく育てられたお方。

あの子供はたまたま皇妃様から生まれてしまっただけの子供。


 きっとレイン様はワタクシの為に皇太子になって下さる。

ワタクシは皇太子妃になる為に教育されて来たのだから、それを全て無駄にするようなことは絶対にしないはずよ。そんな酷い人じゃないもの。


 あぁ、ワタクシはレイン様の為にこの世に生を受けたのね。

レイン様の為なら皇太子妃教育も全然苦じゃないわ。


 天にも登るような幸せの中、ワタクシは勉強に精を出すのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ