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禁書庫に入ります。

 





 書庫の魔導書を読み漁った結果、ひと月程で全制覇してしまったので、爆笑したお父さまから禁書庫の立ち入り許可が出た。

僕なら悪用することもないだろうから、って言われたけど、それはちょっと買い被りすぎなんじゃないかと思ったりもした。

実際悪用するとどうなるかは簡単に想像出来るからやる気なんて一切無いし、それ以前にそんなこと僕にとってはどうでもいい事だから、ありがたく利用させて貰おうと思う。


僕の血筋にある万能という能力は本当に万能なようで、古代語も魔術言語も魔法式さえも勉強すれば理解することが出来た。

その上で応用やその他色々が出来ないか試していたけど、書庫の魔導書じゃ限界があったから禁書庫に入れるのは本当にありがたい。


 問題があるとすれば、禁書庫のどこになんの本があるのか、僕は一切知らされてないという事だろうか。

それはそれとして、歩いてれば自ずと見付けられるだろうと高を括って入ったのだけど、正直この国の蔵書量を舐めていたかもしれない。


ふと視線を感じたので目をやると明らかに人間ではない大きな目が本棚からこちらを見ていたり、誰もいない筈なのに人影がフラフラしていたり、なんというかフリーダムな禁書庫である。


 ちなみに僕は血筋的に聖属性持ちなので、幽霊とかは全く怖くなかったりする。近寄っただけで溶けて消えていく物に恐怖とか、ちょっとないかなぁ。

でも気持ち悪いとは思うから、ナメクジみたいな感覚かもしれない。

あと、この国のお城の魔導師達がそんな簡単に幽霊とかそういうのが入れるような事してないだろうし。

だからここに居るなんかよく分からない奴らは、本に憑いてるんだろう。さすがは禁書である。


 なお、書庫で勉強して魔法と魔術が分かるようになった僕からすると、この国の魔導師の技術力は無駄に高い。

軍事的にも生活力的にも応用力が素晴らしいのだ。

僕も勉強して初めて知ったけど、魔導師達の技術力が無ければ治水事業や上下水道設備の発展が100年は遅れていたかもしれないという論文さえあった。

他の国がどうだかはまだ全部調べてないから分からないけど、世界でもトップクラスに技術力が高い国なのではないだろうか。だからこそ魔導書含めて蔵書量がヤバイんだろうけど。


 そんな現実逃避をしながら歩を進める。

歩いても歩いても目的の書棚が見当たらないあたり、魔法や魔術の禁書はよっぽど危険なんだろう。

だとすると一番奥のめちゃくちゃヤバそうな雰囲気がしてるあたりか。


 うん、ごめん、遠い。


七歳の足じゃ限界があるなぁ、と遠い目をしたその時、突然目の前に人が現れた。


 白いお髭と白い髪の、カッコイイお爺さんだ。

年配の魔導師によくいる、まさに魔導師! って感じじゃなくて、髪を後ろで軽く縛って、髭をある程度短めに整えた、若々しいお爺さん。

頑固そうな、でも孫には甘そうなそんな感じの、カッコイイお爺さん。

そしてそのお爺さんは、怪訝そうに僕を見下ろした。


(わっぱ)、こんな所で何しとる?」

「奥の魔導書を読みに行きたくて」


やましい事なんて何も無いから素直に答えたけど、お爺さんは器用に片眉を上げながら首を傾げる。


「……ふむ、そりゃ何の為だ?」

「好きな人に振り向いてもらうために、魔法を知りたいんです」

「具体的には?」

「身体強化の派生でしょうか」


 答えた途端、お爺さんは思案するみたいに短い顎髭をさする。


「魅了や幻惑、洗脳のあたりが早くて確実だろうに、何故そっちじゃねぇんだ?」

「────は? なんで彼女の方を変える必要が? 僕はそのままの彼女を愛してるんです、人形なんて要りません」


 いきなり何言い出すんだこのじじい。

魅了、幻惑あたりはギリギリ許せても、洗脳なんて絶対許せない。

だってそんなのもう僕の好きな彼女じゃない。

自分の都合の良いように操って、一体何が嬉しいのさ。

僕はお人形遊びがしたいんじゃなくて、彼女と恋愛がしたいんだよ。


「その歳で愛を語るか。また随分とマセた童だ。童の言う『彼女』が望む事なら何でもするという事か?」

「公序良俗に反する事以外でしたら何でもしますが、それよりも彼女がそんな事を望んだとしたら監禁する為の口実が出来るので大歓迎ですね」


 イライラするじじいだなこの人。

なんでこんなに僕を試すようなことばっかり言うんだろう。めんどくさいからそういうのやめてほしいんだけど。

禁書庫の番人か何かなの? このじじい。


「ほう? ではその『彼女』が今とは違うものになっても平気という事か」

「勿論ですよ、彼女の魂、存在ごと愛してますのでどう変わろうと彼女である事に変わりはありません」

「矛盾があるな? 『彼女』が変わっても良いなら人形でも良いだろうに」


「何言ってるんですか? 彼女本人が変わるのと、僕が勝手に変えるのとじゃ天と地ほども差があるでしょう。どこにも矛盾なんてありませんよ」


 馬鹿なの? とばかりに睨みつけてやれば、じじいは心底楽しそうに破顔した。

こんな会話で笑えるなんて正直趣味が悪いような気がしないでもないけど、僕の人生経験が足りなさ過ぎて理解が出来ないだけかもしれないから、今は放置しようと思う。

大人になったら分かるんだろうか。早く大人になりたい。


「ハッハッハ! そうかそうか、それはすまなんだ。しっかし童、無駄に拗らせとるな」

「なんのことですか? 僕の愛は純粋ですよ?」


 ホントになんなんだろうこのじじい。失礼にも程があるよ。

僕のことを皇太子とは知らないのかもしれないけど、この金眼を見たら誰でも分かるだろうから、確信犯なんだろう。イライラするなぁこのじじい。


「まあ良い、それで身体強化の派生だったか。具体的に何をどうしたいんだ?」

「年齢を引き上げたいのです」


「なるほど? その『彼女』と同い年になりたいと」

「いえ、壮年になりたいんです」


「は?」

「壮年になりたいんです」


 ぽかーんと空いた口にお菓子とか突っ込んでみたい、という衝動に駆られたけど、我慢した。

僕、本当に偉いよね。


 

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