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覆面の苦労人 ~遂行者代理の生き様~  作者: バガボンド
第1部 遂行者と警護者と
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第1話 創生者の願い事5 素材の獲得(通常版)

 街へと向かう際、初めて魔物と遭遇した。オオカミにも似たモンスターで、ティルネアが言うにはスピードハウンドとの事。任意鑑定能力でも、相手の様相が即座に分かった。


 その名の通り、素速さを活かした機動力がウリらしい。現れた相手の数は5体、機動力の問題ではこちらを圧倒している。地球であれば、かなりの驚異的な様相だ。


 しかし突然、物凄く怯えだした。その視線の先を窺うと、俺の背後にいるティルネアを見ている。そう言えば、彼女からとてつもないオーラが発せられていた。


 自然界とも言うべき場を生活圏としている、スピードハウンド達。地球のオオカミ達と同じ弱肉強食の理が働いていると思われる。つまり、ティルネアを生命体の頂点だと認識したのだろう。恐怖に震え上がるのは言うまでもない。


「・・・お前さん、相当な実力者だと再確認したわ・・・。」

(そうですか?)


 実にアッケラカンと語る彼女に、苦笑いを浮かべるしかない。この場合、怖じている相手を攻撃してよいのかと悩んでしまう。まあ、この考えは異世界では通用しないだろう。


 左手に魔力を込めつつ凝縮させ、それを目の前のスピードハウンドに放つ。黒い球体が相手に当たると、物凄い勢いで吹き飛んでいった。ただ、今では致死性はないようである。


 ところが、俺の攻撃を目の当たりにした他のスピードハウンド達は、更に怯えだしている。直後、脱兎の如く去って行ってしまった。


(そこそこの強さを持つ存在ですが、貴方からすれば雑兵そのものですよ。)

「はぁ・・・何とも・・・。」


 憎たらしいほどに自慢気に語ってくる。ティルネアから与えられた力は、どうやら相当な力を誇っているようだ。それに先程挙げていた概念がそれである。地球から異世界に到来した際の、力の加算が後押ししているようだ。


 この場合、ネズミ算式の比ではない。難しい計算は苦手だが、その俺ですらヤバいと思うぐらいの加算率だと確信が持てた。


 しかし、それに奢ってはならない。俺の基礎戦闘力は地球譲りのもののみだ。他の各力は、全て創生者ティルネアが与えてくれたに過ぎない。俺は何も持っていないのだから。



 不意の襲撃を受けた俺達だったが、その後も襲撃を受け続ける。別のスピードハウンドと思える固体は無論、初見となるサンダースライムやアーススネークなどなど。


 俺が知る限り、各作品より伺ったモンスター達とは、全く異なる生態系だと思われる。特にスライム自体は水属性が無難な所と思われるが、そこに相反する雷属性が追加されていた。


 それでも、一般的な雑魚モンスターの一部に過ぎないようで、軽く一蹴する事ができた。無論、それらの相手から得られる素材には大変感謝している。



 それに先程挙げた、魔物であっても生命体故に殺生は控えようという一念。それが無粋なものである事に気が付かされた。殺さなければ殺される、それが当たり前の世界なのだ。


 弱肉強食の理が働く世界ならば、魔物達の力を使わせて貰う以外にない。実に屁理屈染みた考え方だが、そうでもしなければ押し潰されそうである。


 ならば最早、一切の慈悲など無用である。冷徹無慈悲なまでに“引き金を引く”だけだ。警護者の世界では、慈悲を抱いた瞬間に負ける。容赦ない一撃が求められるからな。



 ともあれ、街に着いてからは情報収集と戦力増強を行わなければならない。そのためには、資金群が必要不可欠となる。魔物達を倒した事で得られた各素材は、大変貴重な収入源だ。


 問題は、それらの素材を売却できる場があれば、だが・・・。


 俺の生き様は地獄そのものだわ。それでも、明確な目標を以ての行動だ。躊躇する必要は全くない。前に向けて突き進むのみ。




「そう言えば、ティルネアは誕生してから、どのぐらい経過しているんだ?」

(大凡・・・1万年以上だと思われます。)

「1万年か・・・。」


 魔物の素材を“空間倉庫”に格納しつつ、彼女の境遇に思い浮かべる。


 普通から見れば、1万年以上も生きている事自体に驚愕する。しかし、それを普通に受け入れる事ができたのは、やはり身内の各ネタが淵源だろう。つまり、免疫力である。


 後訊きで知ったのだが、この異世界の名前はベイヌディートと呼ばれているらしい。命名者はティルネアだが、それを現地住人達に浸透させるのは大変だったとの事だ。


 この定着だが、人間は無論、魔族や獣族など魔物族全てに当てはまる。後者の方が直ぐに定着したらしいが、前者の人間側には時間が掛かったとの事である。


 それと、先程“空間倉庫”と挙げたが、素材の格納を鑑みてティルネアが追加してくれた“空間倉庫能力”である。俗に言う巨大なアイテムボックス、実に見事だわ。それに空間の規模は、ベイヌディートと同規模を倉庫として使えるらしい。何ともまあ・・・。


 超貴重な能力を出し惜しみせず与えてくれる彼女に、ある意味恐怖心を抱かざろう得ない。まあ、俺としてはそれらに奢る事はせず、有難く拝受させて頂く限りであるが。



(ミスターT様は、地球で生誕されてからは、どのぐらいの時間を?)

「地球歴で言うなら、今年28になる。まだまだ28年しか生きていない若造よ。」


 皮肉を込めて言ってみた。それに苦笑いを浮かべる彼女。相手との実年齢差は1万歳で、年輩も年輩の超年輩者だ。そして、各知識や能力などを保持している事を窺えば、どれだけの努力を積み重ねて来たか想像すらできない。


 その彼女をしても、異世界ベイヌディートでの行動には手を焼いている感じである。そこに住まう人物達が、独立した意思を持つ生命体であると痛感させられる。


(そんな事はないと思います。貴方の警護者としての生き様を窺えば・・・。)

「過大評価に過ぎんよ。警護者は所詮、人殺しに過ぎんしな。」


 己の境遇を鑑みて、痛烈なまでの皮肉を込めてボヤいた。警護者の生き様は、人殺しの繰り返しだ。過去に依頼遂行のため、どれだけの人間を屠ってきたか・・・。先の魔物を実験台と言った考えの出所は、ここにも由来してくる。


 ただ、唯一救いと思えるのは、相手が悪人や極悪人であったという点だろう。警護者が受け持つ依頼は、大体が弱者の立場の人物を守る事が多い。逆を言えば、権力に溺れたカス共には一切加担はしない。これは警護者界の共通認識である。


 故に、権力者共からは痛烈なまでに目の仇にされている。それでも、今もこうして無事でいられるのは、警護者が超越した存在である“痛烈なまで”の証拠だ。それに、各スポンサー自体が強烈過ぎるしな。


「実際の所、“引き金を引く”事ができれば、至極簡単に解決する事ができる。」

(・・・相手を殺害すると言う事ですか。)

「そうなるわな。だが、私利私欲で動く事はない。あくまでも依頼を前提にしている。」


 自己満足と言われたら、それまでだと言わざろう得ない。しかし、好き好んで相手を殺害する阿呆はいない。少なくとも俺はそうだと思っている。


 ただし、相手が理不尽・不条理な対応をする存在なら、問答無用で引き金を引くに限る。躊躇する事により、更なる災厄をばら撒く事になるからだ。相手を阻止するという意味合いを踏まえれば、皮肉なまでの行動としか言い様がない。


 あくまで弱者のための力を振るう、それが警護者の生き様だ。ここは絶対に履き違えてはならない概念である。



「ティルネアは、今までに“そういった”行動は?」

(いえ・・・ありません・・・。ただ、誰かしらの“遂行者”を用いてならば・・・。)

「そうか・・・。」


 直接的には手を下さないも、間接的には数多く手を下している、と言う事か。罪悪感が感じられる言い回しだったが、そこに後悔の念は一切感じ取れない。創生者の役割を、徹底的に演じているからだろうな。


 今回の俺の転移により、間接的には彼女が手を下した事になる。だとしたら、そこに介入する事で彼女の負担を軽くできる。


「分かった。お前さんの強い思いは、俺が全て受け持つ。重荷となる存在は、貴方だけには絶対に背負わせない。」

(・・・ありがとうございます・・・。)

「フッ、お節介焼きの世話焼きだからな。」


 俺の言葉に、涙を流しつつ礼を述べてくる。創生者たるティルネアは、今後も望まぬ行動を強いられる。ならば、その彼女を支えてこそ、俺の警護者としての生き様が役に立つ。


 彼女に必要なのは、遂行者ではない。苦楽を共にする相棒である。もし俺以外の人物が召喚されていたら、この境地には至らなかっただろうな。


 ティルネアとの巡り逢いは、不思議な縁が巡ったとしか言い様がないわ。




 更に魔物達を倒しつつ、街の方へと進んで行く。ここで誤算が生じた。俺がベイヌディートに召喚された場所は、街から相当な距離があった事だ。


 そこで活躍したのは、“生物解体能力”と“料理作成能力”だ。こちらもティルネアより与った。野宿をする際に必須となる。本当に至れり尽せりだわ。


 ちなみに俺は、喫茶店の運営を行っている手前、調理師免許は取得済みだ。既に数十年と料理作成を行っている手前、手料理は簡単に賄う事ができる。


 今の喫茶店は、身内達が運営してくれていると思われる。それに地球からベイヌディートに移動した際、現地での俺の時間は完全停止をしている。つまり、向こうの事を気にする必要はないだろう。



(す・・すみません・・・。)

「誰だって失敗はあるさ。」


 ベイヌディートに到来してから半日が経過。街に到着していないため、野宿が確定した。そんな中、任意鑑定能力により、食材に適している魔物を生物解体能力で解体する。


 その俺を見つつ、非常に申し訳なさそうに謝罪してくる彼女。転移場所のミスではあるが、コミュニケーションを取るには実に申し分ない。


 火魔法により火を熾しつつ、焚き木を作った。火魔法に関してだが、魔力に熱を込める事により発生させる事ができたのだ。これには非常に驚くしかない。


「むしろ、火魔法が使えた事に驚いてるが・・・。」

(思われていた通りですが、魔力に一定の力を念じれば顕現できます。)

「熱を込めれば火魔法に、寒さを込めれば氷魔法に、だな。」


 魔法という概念を、再度覆された感じである。


 前にも挙げたが、身内が言っていたのは、魔法とは予め存在している魔法を行使する事で顕現できるとの事だった。それが、魔力に一定の力を込める事で、各属性魔法を顕現できた。


 ただし、どうやらこれは俺だけのようである。それでも、その様な概念が異世界自体にも根付いているのは間違いないらしい。実際に各属性魔法が独立して実在しているようで、更に属神という存在もいるとの事だ。


 となると、魔力自体は実に万能的な力を言えるだろう。詳しい事は全く分からないが、万能である事は間違いない。簡潔に言えば、増幅力か増幅機と思える。これを身内達が知ったら、さぞかし羨む事だろうな・・・。



「異世界を救ってくれと言っていたが、時間制限がないと聞いただけで安心している。」

(確かにそうですよね・・・。言い方がおかしかったのもありますし・・・。)

「魔王達が暗躍していたり、大災厄などが発生するとかじゃないしな。」


 この部分は本当に、大助かりとしか言い様がない。ティルネアが挙げた、異世界を救って欲しいと言う願いは、直ぐさま実行せよと言うものではなかった。ただし、急を要するという矛盾点も孕んでいる。


 この場合は、長期的にベイヌディートを救っていくという事になるだろう。例えるなら、マイナス面に支配されている場を、プラス面に転換していく形である。


 これに関して推測すると、その進行度合いは劇的に変わるというものではなさそうである。しかし、今から対策を講じなければ、確実に間に合わなくなるというのは間違いない。


 それに恐らくだが、急激にプラス面に転換すると、確実に弊害が起こると推測ができる。言わば治療にも言い当てられる。パワーバランスの調停は、実に難しいとしか言い様がない。


「なるほど・・・調停者、か。」

(そうですね。貴方の立ち位置は、遂行者よりも調停者に当てはまります。)

「皮肉にも、警護者自体が調停者の役回りだしな。」


 己の立ち位置を再確認して、我が事だが笑ってしまう。地球だろうが異世界だろうが、俺の貫く生き様は全く変わりないのだ。それに心の底から安堵ができた。


「旅路は始まったばかりだが、お前さんと共闘できる事に感謝しているよ。」

(ありがとうございます・・・。)


 俺の言葉に、今まで見た中で一番の笑顔を浮かべてくる。創生者たる生き様を貫く彼女を見る限り、何処か恐々しい雰囲気だった。だが、この笑顔を窺えば実に無粋な感じである。



 ちなみに、野宿時の軽食に関しては、俺だけが取る形になった。だが傍らで見守る彼女が不憫に思えてしまう。すると、何と俺の身体に“付与”してくるではないか。この場合は同期とも言える。


 その状態で俺が食せば、同期している彼女も同じ味わいが経験できるらしい。これは過去に同じ様な事を行ったようだ。まあその時、相手の人物が驚愕したのは言うまでもないが。


 地球での各概念を悉く打ち壊してくれる彼女。それでも、1人の生命体である事実は間違いない。神的存在な創生者という部分を除けば、何処にでもいる女性なのだから。



 この考えだが、散々身内にボヤられたのが淵源だ。彼らと出逢った頃は、俺の気質は若干の男尊女卑的なものだった。それが大間違いだと何度も言われ続けた。今後の世上を鑑みれば、女尊男卑な様相が望ましいのだと。


 ただし、それは決して男性を蔑ろにしろというものではない。あくまで重要なのは、今まで蔑ろにされていた女性を立てる事なのだ。その補佐が男性であると豪語していた。これにより男性自体も輝きを放ち出し、結果的に総じて良い方向に進むのだとも。


 これを伺った時は疑心暗鬼だったが、今はそれが大いに正しいものだと痛感できる。俺達男性は所詮、母たる女性から生まれ出なければ顕現できない。そして、力を持たない自身を、最大限の慈しみの心で見守り育ててくれた。


 孤児である俺は、孤児院の母達が該当するが、当時はその有難みを感じる事はなかった。今思えば、それがどれだけ愚かな行為であったか・・・。己自身を恥じずにはいられない。




「・・・ティルネアは、母たる存在を覚えていたりするか?」


 夜食を済ませて、近くの大木に寄り掛かる。周辺への警戒は魔力を高めて渦とし、それを焚き木を中心として“置いて”おいた。言わば見えないバリアやシールド的な感じである。


 満腹度が上がった事により、心地良い眠気が到来して来る。その中で、先程思った母という存在を彼女に語った。ティルネア自身も生命体であれば、そういった人物がいたのだと思ったからだ。


 徐に懐から煙草セットを取り出し、久し振りの一服に酔い痴れる。異世界ベイヌディートに到来してからは、初めての喫煙だ。非常に落ち着く事この上ない。


 ちなみに、吸い殻は携帯灰皿への投入である。そこらに放り投げる事はしない。喫煙者たる者の最低限のマナーである。そう言えば、身内の喫煙者の誰もが携帯灰皿を持参しているな。今では一種のステータス化となっている。


(いえ・・・全く記憶にありません。恐らく、自然発生したのだと思われます。)

「自然発生、か・・・。」


 超常的な物言いだが、彼女の存在からすれば理に適っている。生命体ではあるが、神的存在なのだ。俺の様な人間の物差しで測れる物事ではない。


 それでも、一生命体としての自我が芽生えているのなら、母たる存在がいたのだろうと思うのは不思議な話ではない。それだけ彼女が生命体らしいのだ。


「・・・今まで大変だっただろうな。」

(・・・ありがとうございます。)

「・・・烏滸がましいが、当面は淋しくないとは思う。」

(フフッ、そうですね。)


 傍らで微笑む彼女の顔が、居たであろう母親の表情に思えてきた。創生者たる存在は、このベイヌディートに住まう全ての生命体の母的存在だ。そう思えるのは、一時的に俺もここの住人に迎え入れられた証拠だろうな。


 徐に瞳を閉じると、そのまま深い眠りに入っていく。その際、傍らの彼女が心配するなと俺の右手に触れてきた。その厚意に眠気が増していった・・・。


 今後の流れは、翌日の自分に委ねるとしよう。非現実な世界に到来した自分自身。何とか対応してきた事に対して、今はお疲れ様と言っておきたい・・・。


    第2話へ続く。

 異世界到来後の、初の魔物の討伐と。そして、キャンプという流れ。正にチュートリアルの続編とか?(何 ともあれ、次の「ティルネアの視点」という、第2者の視点を追加した形で、第1話は終わります。この話数だけ早めにアップしておきますね><;


 以後は、5日毎に5分の1話(第2者視点を含めると6分の1)ずつアップさせて頂きますm(_ _)m 一気にアップした結果が、探索者と警護者の末路となりましたし@@; もう少し時間を空ければ良かったと後悔しています><; 何とも@@;

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