第6話 聖獣と神獣と魔獣と6 次の流れへ(通常版)
ラフェイドの街に戻ったのは、辺りに夜の帷が下りた頃だった。一度、冒険者ギルドへと戻り、ナーシャの非公開依頼を終える事にした。
とは言うものの、今現在は全体の3分の1しか終わっていない。残りは3分の2である。それに対象となる存在は、王国と帝国にいるらしい。この依頼に関しては、当初思った通りの長丁場になりそうだ。
特に王国は、相当アクドイ感じらしい。普通ならば、帝国という場所がアクドイ存在の位置づけとなっている。この異世界ベイヌディートは、聊か状況が異なるようだ。
まあ、王国が善であり、帝国が悪であると、一体誰が定めたのやら。そこに住まう人々や、布かれている法律などにより悪となる。国自体は、運営する存在で全て変わってくるしな。今現在は、王国が悪で、帝国が善という感じである。
ただ、何処まで酷いのかは、やはり現地に赴いて確認するしかない。まあ、地球での権力機構を目の当たりにすれば、恐らく微々たる悪態の様な気がするがな。
「あ・・あの・・・初めまして、狼人族のトーラと言います・・・。」
冒険者ギルド内に入ると、何時もの席にウェイス達が屯しているのが見えた。その中にいるトーラが慌てて駆け付けて来た。駆け付けた先は魔獣ミオルディアである。
トーラは狼人族で、魔獣の下位種族だ。となれば、ミオルディアは彼女の大先輩となる。恐縮染みた雰囲気を見れば、それが如実に現れているといえる。
「トーラと申すのじゃな。我はミオルディアじゃ、よろしゅうに。」
「は・・はいっ! よろしくお願いしますっ!」
自己紹介を行った後、深々と頭を下げるトーラ。彼女自身、かなりの実力者に分類される。その彼女が、ミオルディアに対して頭が上がらない状態だ。相当な格の違いが見て取れる。と言うか、どちらかと言うと姉妹の様な感じに見れる。
しかし、人型のミオルディアを一目見て、即座に反応したトーラは凄いわな。野性的感覚というべきか。魔物族群は、直感と洞察力がズバ抜けて優れている。それが現れていると言えるだろうな。
まあ、人間の中でも、人知を超えた能力を持つ人物はいなくはないが・・・。
昼間にナーシャから受けた依頼に関しては、非公式ながらもテネットが受け持ってくれた。一旦俺達から離れ、受け付けの方へと向かって行く。今回の依頼は無報酬である。
ただし、事の次第が世上の流れに絡んでくるため、この場合は無条件参加依頼であろう。警護者でも、無報酬の無条件参加の依頼があったりした。難易度が恐ろしく高い依頼ほど、こうした事が起こり得る。
無論、後々で評価によっては、多大な報酬を頂ける場合もある。まあ、事の次第がヤバいレベルであれば、無報酬だろうが構わないだろう。下手をしたら大変な事になりかねない。
それに、ナーシャからの依頼は、全体の3分の1しか終わっていない。残り3分の2がある現状、まだまだ気を緩める訳にはいなかった。相手が相手なだけにな・・・。
ちなみに、ウェイス達とも顔合わせをしたミオルディア。彼らの気さくな雰囲気に、直ぐに打ち解けていく。と言うか、声色は妙齢の雰囲気を醸し出す彼女だが、実際にはトーラと同じ若々しさを感じさせている。
魔の獣の主という重役のミオルディアだが、まだまだ乙女心が溢れ出る女性そのものだ。使命という概念には、ホトホト嫌になってくるわ。まあ、それでも引けない道ではあるが。
生まれた場所や生きた時間は違えど、同じ生命体として持ちつ持たれつ投げ飛ばすの気概で進めれば幸いである。まだまだ膝は折れないわな。
「なるほど、諸々了解した。」
「街の守りを固めた方が良さそうですね。」
全ての報告を終えた後、遅い夜食を取る事にした。テネットも加えた大パーティーである。何時の間にか大所帯になっている事に驚くしかない。
その中で、今後の流れをウェイス達に伝えていく。王国や帝国の動きが気になるからだ。特にこの一件は、4人が非常に懸念していたものである。警戒していて損ではない。
「我は街を守れば良いのじゃな?」
「ああ、そうしてくれると助かる。トーラも二人三脚で守護に回ってくれ。」
「了解しましたっ!」
大先輩との共闘が実現して、大張り切りのトーラ。ミオルディアの方も、彼女をまるで妹の様に可愛がりだしている。まあ、本当の所は師匠と弟子であるが。
ラフェイドの街の防衛に関しては、先に挙げた通り彼らがいれば申し分ない。幸運的な参戦となったミオルディアもいるのだ、“ほぼ”問題はないだろう。
「何か、気になる点があるようですが?」
「ん? ああ・・・。」
徐に口を開く彼女。顕現化した状態のティルネアが、俺の傍らで佇んでいる。先程ウェイス達も彼女の事を語った。当然ながら驚愕されたのだが、魔獣ミオルディアがいる事を考えて、何を今更と言った感じになっていた。
順応力が高いというのか、黙認するのが早かったのか、何ともまあな感じである・・・。まあ、ティルネアの存在を知っておいてくれれば、以後の作戦は立て易くなる。
「俺の見立てでは、帝国は周辺などへの侵略はないと思う。問題は王国の方だ。」
「ああ、限りなく黒そのものだしな。」
こちらの言葉に、深く頷くウェイスとサイジア。戦略に関しては、4人の中で一番詳しい。初対面時でも、2人は王国の動向を気に掛けていたぐらいだ。
それに、後押し的なミオルディアとなる。彼女も王国の動向を、非常に気に掛けている。数千年もの長い間、生き続けている彼女である。今後の様相は粗方掴めていると思われる。
「聖獣様と神獣様は、向こうにいらっしゃるのですか?」
「多分いると思うぞ。王国に聖獣ティエメドラが、帝国に神獣ヴィエライトじゃな。」
「彼らが利用される可能性はないのか?」
「姑息な人間如きに誑かされる事はない。逆に、上手く“潜伏”していると思うがな。我ほど、世上の様相に関わりを持とうとしようとしないしの。」
丁寧な作法で夜食を取り続けるミオルディア。流石は数千年生きているだけはある。まるでお嬢様そのものである。ただまあ、語られる内容は、非常に皮肉が込められているが・・・。
これに関しては、彼女もティルネアも懸念している要因のようだ。それだけ、現状を踏まえれば、非常に厄介さを孕んでいるといえるだろう。人間種は何処までも、多種族を困らせる存在なのやら・・・。
地球でも、人間種は多種族を絶滅に追い遣っている。これを踏まえれば、どれだけ罪深い存在なのかと思わされる。何時かは分からないが、何れ必ず痛い目を見るわな。
「まあ何だ、次の目標は王国だな。先ずは男爵家に接触してみよう。」
「了解しました。」
食事を取り終えつつ、藁半紙のメモに詳細を記載する彼女。それらの行動に必要な資材も記載しているようだ。こうしたリドネイの行動は、まるで執事な感じに見えてくる。
それに、初対面時の怖じた雰囲気は、今は一切感じられない。これなら、現地に同行しても問題はなさそうだ。
「お主も大変じゃな。」
「まさか。私はマスターの忠実な部下ですから。この身を賭してでも付き従います。」
「部下、ねぇ・・・。」
今もメモに記述している彼女の頭を、ポンポンと軽く叩いた。そこに込められた意味合いを察したのか、若干悄気だしている。俺が過去に話した事を忘れていたようだ。
「相変わらずですね。盟友という定義は、共に戦う存在を意味しています。マスターはそれを望まれていますからね。」
「そ・・そうでした・・・。」
「もう少し気楽に、ね。」
ティルネアと俺の言葉に、一段と悄げだすリドネイ。その彼女の頭を、今度は優しく撫でてあげた。俺よりも高齢な彼女だが、こうしたやり取りはまだ慣れていないようだ。
ただ、彼女の言動の方が、よっぽど人間らしい。幼子にも見えなくはないが、それはただ単に慣れていないだけである。リドネイが対人関係に関して成長すれば、俺達以上に他者に寄り添える存在になるだろう。
今後も課題は山積みとなる。特に今度は、依頼の様な小規模のものではなくなる。男爵家の問題となると、下手をしたら指名手配になりかねない。
まあでも、世上のマイナスの力をプラスの力に転じるなら、この程度に怯んでいては話にならない。ならば、臆せずに突撃するべきである。
幸いにも、創生者ティルネアに魔獣ミオルディアという超絶的に凄腕の人物がいる。彼らがいてくれるなら、どんな苦難の道でも問題なく進める。
一歩ずつ前に、今はそう決意していくしかない。
第7話へ続く。
何か、予想よりも多めの文面でした><; 今回のサイクル(自前小説群)のアップが、丁度重なったため、夜は視点話となりますm(_ _)m
しかし、詳細描写は良いですね><b 描くのに物凄く苦労しますが、後々読み返すと、それなりに構成されている感じです@@b 自分は思った事を即座に書くクチなので、変な文法とかでれば申し訳ないです><;
まだまだ修行が足りませんわ。今後も頑張らねばねU≧∞≦U




