表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覆面の苦労人 ~遂行者代理の生き様~  作者: バガボンド
第1部 遂行者と警護者と
7/272

第1話 創生者の願い事4 異世界ベイヌディートへ(通常版)

「よし、得られる基礎情報は持った。そろそろ行くとするかの。」

「はい・・・。」


 ほぼ準備万端となり、後は異世界へと赴くのみとなる。そんな決意を抱いていると、俺を不思議そうに見つめる彼女。時間が経てば経つほど、その表情は強くなっている。


「・・・力を持った俺を、信用できなくなったか?」

「い・・いえ・・・そんな事はありません・・・。ですが・・・。」


 言葉では否定してくるが、雰囲気が疑いの一念を放っている。もし俺が右往左往する存在だったのなら、創生者たるティルネアが主導権を握ったのだろう。だが実際には、その真逆となっている。


 前にも挙げたが、ここまで落ち着いているのは、最早職業病である。警護者の世界では、右往左往をした瞬間に即死する恐れが出てくる。常に冷静沈着でいなければ、とてもではないが任務遂行には至らない。


「大丈夫よ、そのための貴方の同伴だ。もし俺が信用に足らぬ行動をした場合、殺して貰って構わない。」

「そ・・そんな! その様な事は決して致しません!」

「フッ・・・ならば、貴方の顔に泥を塗る真似はしないように心懸けねばな。」


 そう言いつつ、再び彼女の頭を優しく撫でてしまう。こうなれば最早、目の前の創生者は何処にでもいる普通の女性そのものだ。下手な肩書きなどに一切囚われず、一個人として見るべきである。


 ともあれ、これで準備は整った。後はティルネアが望む異世界へ赴くのみだ。



 そんな俺の心情を察知した彼女が、徐に俺の両手に触れて来る。そのまま胸の前に合わせ、静かに瞳を閉じた。


 すると、彼女の身体が眩いまでに発光しだす。しかし、それは目を背けなければならない程の閃光ではなかった。何処までも実に優しい、暖か味に溢れた光である。


 ただ、事の顛末を見守るのも野暮ったいのかも知れず、ここは彼女と同じく瞳を閉じた。




 どのぐらい時間が経過しただろうか。徐に瞳を開けると、見知らぬ平原に棒立ちしていた。微風が非常に心地良い。しかし、何処か殺伐とした雰囲気を醸し出している。


 そう、明らかに地球ではないのが理解できた。殺伐とした雰囲気は、その平原に異形の魔物が根付いている証拠だと直感ができる。


 即座に腰に手を回し、格納されている武器を展開した。先日、身内が試作品として提供してくれた、携帯方天戟なる獲物だ。ゲームを題材とした槍状の戟である。


 獲物を構えつつ、周辺の様子を探る。一瞬の油断が命取りになるのは言うまでもない。



「・・・姿は見えないが、ティルネアは近くにいるのか?」

(はい。こちらの世界では、私の姿は“一部を除き”見えなくなるみたいです。)


 そう言うと、俺の背後に彼女が現れる。先程までの完全体ではなく、半透明の身体だった。その姿に一瞬驚くが、神的存在の創生者なら可能であろうと苦笑してしまう。


 近場に彼女が居るのを確認し、再度携帯方天戟を構え直す。恐ろしいまでに、直感と洞察力が訴え掛けて来ている。しかしそこには、魔物と思われる存在は見て取れなかった。


「・・・敵が居ると思ったが、気のせいだったか・・・。」

(恐らく、死した魔物の残滓を感じ取られたのでしょう。)

「なるほど、霊魂的な感じか。」


 流石の俺の獲物でも、魔法的な概念には対処できない。非常に不安は残るが、再び獲物を縮小させて腰に戻す。挙がった魔物の残滓が霊魂的な存在なら、回復魔法を魔力で放った方が効率がいい。


 ゲーム感覚的な感じだが、それらが十全に通用する世界に到来しているのだ。そう思うと、不謹慎ながら興奮してしまう。



「・・・とりあえず、先ずは情報収集と資金確保、だな。」

(転移先ですが、街の近くだと問題があると思い、遠方へと飛ばさせて頂きました。)

「ああ、ありがとな。」


 正に英断、流石は創生者だわ。彼女は無論、俺は異世界人そのものだ。見慣れない格好の覆面と“仮面”を装着した人物が、突然街中に現れたら大変である。


 それらを鑑みて、彼女は人知れない平原へと転移させてくれた。ただし、同時にここから街への距離は結構あるようで、彼女の表情が若干焦っているのを感じ取れた。


 まあ、先の街中への到来よりかは遥かにマシである。街へ赴く際に、己の力を確認するには打って付けだろう。再び腰の携帯方天戟を展開し、静かに肩に担いだ。


(面白い武器を使われるのですね。)

「あー、これか。身内が製造してくれた、ゲームの中の獲物の1つよ。他にも1つ持っているが、俺はこっちの方が性に合う。」


 そう言いつつ、肩にあるそれを指し示す。肩に担ぐ携帯方天戟以外に、格納式の携帯十字戟も持参している。こちらは背中に格納しており、背後からの攻撃を軽減させる役目も担ってくれている。


 警護者の獲物は、大体が重火器が多い。致死性が強い獲物の方が、断然有利に運べるしな。何故この2つの獲物を持っていたのかだが、ティルネアにここに召喚される前、近接戦闘武器の試験運用を行っていた。それがこの2つの格納兵装である。


 通常の日本刀と仕込み刀との明確な差がある様に、携帯兵装は従来の獲物より強度と耐久度の面からして脆弱ではある。そこは身内の腕の見せ所か、相当な強度と耐久度を誇る逸品となったようだ。


 異世界転移にて、その実力を窺う事になるとは。これも実に皮肉としか言い様がない。



 ちなみに、携帯方天戟と携帯十字戟以外に、日本刀を2本持っている。通常の刀以外に、太刀と呼ばれる巨大な刀だ。もし仲間が現れるなら、この2本の刀が役立つと思われる。


 斬り付けという分野に特化するなら、日本刀に敵う獲物は存在しない。流石の携帯方天戟と携帯十字戟も足元にも及ばないだろう。それでも、俺としては携帯方天戟が一番扱い易い。


 今度、身内にこれらの検証実験を語る必要がある。彼らの方も更なる獲物の製造を狙っているため、良い情報となるだろうな。



 ティルネアとの軽い雑談をしつつ、そこから目に留まった街並みを確認した。結構な距離があるが、道中に遭遇する魔物に期待を抱いている。


 その理由は、俺の戦闘力の確認と、魔物を倒しての素材群の確保だ。これに関しては、身内がプレイしていたゲームの情報が役に立った。確か、魔物狩りを主軸とした作品だったか。


 地球の娯楽作品には、本当に脱帽するしかない。フィクション的な作品が数多いが、まさかそれらの知識や経験が異世界で役に立つとは思いもしなかった。


 そもそも、こうして異世界転移をする事自体、理路整然と解釈できる物事ではない。明らかに異常としか言い様がないのだ。



 それに、幾ら魔物であっても生命体には変わりない。その彼らを実験台にするなど、本来はあってはならない行為だ。それでも、全ては明確な目標に向けての一歩である。


 もし無害となる魔物なら手出しは無用だ。こちらに有害となる魔物のみ、対応していけばいい。降り掛かる火の粉を払うが如く、である。


 創生者ティルネアの願い。理路整然と解釈すれば、理不尽的にも思えるだろう。しかし、この異世界が現実であるなら、そこで苦痛や苦悩に苛まれる人物は実在している。


 ならば、彼女の願いを引き受けるしかない。警護者たるもの、一度受けた依頼は絶対に完遂させてみせる。


    第1話・5へ続く。

 漸く、異世界へと旅立つと。長いチュートリアルでした(何@@; まあ、正直な所、分割した1話から4話までは、詳細描写のテスト運用も兼ねていました。故に、各能力を吟味するという描写が現れた訳ですが@@; 意図的に狙っていた訳ではなく、自然とそうなってしまった訳ですね><; 何とも@@;


 ともあれ、“ここからが本当の遂行者(苦労人)の旅路だ”ですにゃ(=∞=)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ