第6話 聖獣と神獣と魔獣と1 模造品=量産品の完成(通常版)
異世界ベイヌディートに到来してから約3週間。ラフェイドの街を活動拠点とし、マイナス面の力をプラス面の力に転換する行動を繰り返す。
先のテスト試合後からが目覚ましく、こちらが遂行者だと知ったテネット達からの助力も得られるに至っている。彼らと各依頼を攻略する事で、プラス面の力を得る形だ。
創生者ティルネアより伺ったが、どうやら異世界組の面々が取り組む事で、全体的にプラス傾向に至るのだとか。これは彼女も知らなかったようで、非常に驚いていた。
そもそも、これらの行動は地球で行う行動と何ら変わりない。言わば、ボランティア精神そのものだ。それが異世界でのプラス面に至るのだから、実に皮肉としか言い様がない。逆を言えば、それだけベイヌディートにはボランティア精神が根付かなかった感じだろう。
テネットより冒険者事情も伺ったが、その殆どが私利私欲に近く、ボランティア精神には程遠い感じとの事だった。それなりの実力を有する冒険者達だが、本当の冒険心を抱いてない現状には落胆してしまう。
ボランティア精神に冒険心を掛け合わせるのは、非常に烏滸がましい事ではある。しかし、何事にも挑戦するという意味合いでは、十分なほど理に適ってもいる。
挑戦するという概念からすれば、ボランティア精神は正に相応しい。しかも、そこには利他の一念が色濃く根付いている。もし、冒険者に利他の一念が根付けば、今より更に良い世上となるだろう。
プラス面の力とマイナス面の力。これはもう、前者は慈愛の一念、後者は私利私欲の一念としか言い様がない。そこに回帰できたのは、これも幸運であると言うしかないだろうな。
地球での各行動による経験が、異世界でも十二分に通用している。遂行者としての道は、臨機応変に対応すれば十分可能だと痛感させられた。
テスト試合から2週間以上が経過したので、武器屋へと足を運ぶ。店主に依頼した、日本刀の模造品の作成だ。この2週間ほど、リドネイは代理品のシミターを使っている。
シミターやファルシオンは曲剣に分類されるのだが、流石に日本刀ほどの切れ味はない。どちらかと言うと、相手の攻撃を逸らす方には非常に向いている。防御を得意とした剣となるだろう。
俺も曲剣を実際に使った事はない。以前、リドネイに借りて扱ってみたのだが、非常に厄介極まりなかった。慣れもあるだろうが、どちらかと言えば日本刀の方が性分に合う。
まあ、俺の場合は携帯シリーズの獲物の方が断然良いのだが・・・。
「何とか完成したぞ!」
武器屋に入店し、店主の元へと向かう。俺とリドネイを見るなり、やり切ったと言った感じで語り掛けてきた。まるで少年の様な表情だ。
一旦、店舗の内部へと引っ込み、直ぐに4本の武器を持って現れる。そのうちの2本は、サンプルとして預けていた通常日本刀と太刀型日本刀だ。そして、残りの2本が今回の目玉となる。
その目玉となる獲物を受け取り、それぞれを鞘から抜き放つ。見た目からして、通常日本刀と太刀型日本刀と全く遜色ない獲物だ。ただ、使われている金属が白銀なため、オリジナルの刀身とは全く異なる色を放っている。
「うーむ・・・見事な業物だな。」
「強度の問題で苦戦したよ。お前さんが渡してくれたオリジナルが、どれだけ凄い業物なのかも痛感させられた。」
「折れそうで折れない刀身ですよね。」
粗方見定めてから、アレンジの方を彼女へと手渡す。それぞれを両手で持ち、じっくりと吟味しだした。オリジナルの方も鞘から抜き放ち、それぞれと見比べてみる。
現状からして、ほぼ寸分狂いなく再現されている。相異点としては、やはりその刀身の色だろう。それに、日本刀の特徴となる美しさが、模造品には一切なかった。
手に持って痛感したのが、その強度だろうか。店主も苦戦したと言っている通り、製造過程で色々と悪戦苦闘したようだ。それでも、目の前の模造品は日本刀群に限りなく近付いたと言って良い。
「費用はどのぐらい掛かった?」
「合計で金貨600枚ぐらいだな。むしろ、時間の方がエラい掛かったよ。」
「了解した。残りの金貨400枚は、手間賃として貰ってくれ。」
「すまない、ありがとな。」
お釣りとなる金貨400枚を、カウンターへと置く彼。だが、現状の業物のクオリティに、手間隙を考えれば非常に安過ぎる。依頼を出した時に告げた通り、置かれた金貨群を再度店主へと手渡した。
白銀貨1枚こと金貨1000枚で、この依頼を出したのだ。余った分は彼への追加報酬とすべきである。ここまで見事な模造品を作ってくれたのだ、当然の厚意だわな。
取り引きが終わり、それぞれの獲物を持つ。オリジナルの通常日本刀と太刀型日本刀は、俺が持つ事になる。いや、元に戻ったと言うべきか。
アレンジの通常日本刀と太刀型日本刀は、リドネイが持つ事になった。もっとも、彼女の専用武器として製造して貰ったものだ。彼女に持って貰わねば本末転倒である。
「今度、鋼鉄などの素材で、同じ様な獲物を作ってみるわ。」
「いいねぇ。上手くすれば、武器のバリエーションが増えるしな。」
意気揚々と語る店主。既にノウハウは得ているので、後は素材次第で模造日本刀が作れるだろう。しかし、大剣などの堅固な獲物ではないため、破損率は非常に高いと思われる。
ただ、既存品にはない技量品となるため、玄人志向としては申し分ない。何れ、冒険者が模造日本刀を振るい、暴れているのを目にする日が来るだろう。盗賊が持っていたら、流石に泣けてくるが・・・。
「また何かあったら言ってくれ。」
「ありがとう。連絡がある場合は、冒険者ギルドに伝えておいてくれれば助かる。」
「分かった。」
「本当にありがとうございました。」
「こちらこそよ。」
俺とリドネイは、店主と握手を交わす。知り合ってから日は浅いが、実の父親の様な感じに思えてくる。こうして逸品を作ってくれた事を考えれば、本当に良い出逢いだったと言えた。
ともあれ、これでリドネイの装備に関しては申し分ない。防具は軽装備になるが、弱点を守れるなら現状は問題ない。むしろ、先のテスト試合を踏まえれば、彼女は攻撃力特化の方が性分に合う。
それに、テスト試合ではシミターとファルシオンを振るっていたが、今度からは模造品の日本刀を二刀流の状態で暴れる事になる。火力は以前の比ではない。
こうなると、実際に討伐依頼に繰り出し、その業物を見せて貰いたい所だ。早速、冒険者ギルドへと向かう事にした。
武器屋を出てから、冒険者ギルドへと向かう。今日も陽差しが暖かく、ノホホンとした日和である。しかし、ここが地球ではないため、殺伐さが存在するのがご愛嬌か。
街中を行き交いする冒険者や行商人を見れば、異世界であると痛感せざろう得ない。まあ、それこそ醍醐味だと言い切れば済むだろう。今も現実的解釈をしてしまうため、こうした差異が生じてしまうのだから。
これが身内達と一緒にいたら、劇的に変わっていただろうな。異世界仕様に憧れている彼らである、目を白黒とさせている姿が想像に難しくない。
もし機会があるのなら、彼らと共闘できれば幸いである。まあ、それが実現するのはまず無理な話だが・・・。
そんな俺の内情を、同じ身体に同期するティルネアが察知していた事。これに、今の俺が気付くはずもない。そして、これが後々の大きなキーポイントとなるのである・・・。
「賑やかだねぇ・・・。」
冒険者ギルドの店内に入ると、相変わらずの様相が目に飛び込んでくる。カウンターに並ぶ冒険者の数が尋常じゃない。かなりの長さの状態である。
先のテスト試合の影響からか、訓練場を使わせて欲しいと申し出る冒険者が数多い。こちらとしては、当たり前の“スパーリング”だったのだが、それが彼らの冒険者魂に火を着けたようである。
それでも、実戦となる討伐依頼などには到底敵わない。幾ら相手が魔物であれ、相手は独立した意思を持つ生命体だ。油断すればやられるのは言うまでもない。まあ、何もせずに燻っているよりかはマシなのだろうな。
こうして、今もカウンターに並ぶ面々を見れば、修行が重要である事を痛感させられる。
「マスター、何か依頼を受けてみませんか?」
「そうだな。新調した獲物の確認もあるし。」
今の彼女の興味は、新調した獲物の効果だろう。素晴らしい業物であっても、実際に使ってみない事には分からない。ここは実戦あるのみだ。
そのまま、依頼掲示板の方へと足を運ぶ。今現在は、大多数の冒険者が訓練場へと意識を向けている。そのため、掲示板の方は非常に疎らだ。普段なら、結構な数の冒険者が屯しているのだが・・・。
掲示されている依頼を見て回る。今回こうしてマジマジと見回るが、本当に色々な依頼がある事に驚かされる。
薬草などの採取、魔物の討伐、多岐多様の雑用など。日本での区役所での、職業案内所な感じだろうか。まあ、掲示板の依頼は職業案内ではないため、当てはめるには無理があるが。
そう考えると、異世界仕様の冒険者の存在に関しては、こうした手頃に仕事が行える機構を踏まえると非常に便利である。日本では考えられないものだ。
ちなみに、ウェイス達4人だが、トーラと共に討伐依頼に繰り出している。彼女の冒険者ランクを上げるのを目標としているようだ。彼女の方もオールマイティに動けるため、4人の補佐に回っている。
あの愚物冒険者共に所属していた時は、非常に痛ましい様相だった。しかし今は、凄腕の4人との共闘で真価を発揮している。あの4人からしても、妹ができた感じで嬉しいらしい。
それに、俺はトーラを救出したにはしたが、リドネイの様な関係性を持っていない。ここは彼らと行動を共にした方が良いだろう。
「お前さんも、彼らと一緒に行動すれば良かったのにな。」
「ご冗談を。貴方様には、全てにおいて救われたのです。それに、貴方の良き相棒として居続ける事も。」
改めて、己の使命を語る。リドネイとは、表向きは主従関係となる。実際には師匠と弟子的な感じだと思いたい。まあ、彼女の種族がダークエルフ族なため、母と息子な感じに思えてしまうのが実状だが・・・。
「そうだったな、悪かった。」
「いえ、お気になさらずに。私は私の生き様を貫くまでです。」
そう言って、にこやかに微笑んでくる。すっかり俺の言動に感化された彼女は、生き様などの言葉を良く使っている。俺より年上の彼女だからか、強く感化された部分があるのだろう。
それに、約3週間の付き合いとなるが、彼女は間違いなく高貴なる出の者だ。気品溢れる姿や言動は、王族や皇族に近しい様相である。
何にせよ、リドネイが何者であってもリドネイ自身、それは一切変わらない。俺としては、個々人の生き様を尊重するので、この部分は一切気にしてはいない。
第6話・2へ続く。
話数に余裕ができたので(更に執筆が進んでいる現状)、今回も毎日アップとさせて下さいm(_ _)m 恐らく、通常話数+視点話数の合計6話か7話となると思います。
しかし、模造日本刀って作れるのですかね?@@; 日本刀は日本独自の技術力の集大成ですし。まあ、異世界仕様としては魔法などの類もあるので、加工や強化もお手の物かも知れません。オリハルコンとかで仕立て上げられた日本刀って、どんな獲物になるのやら(>∞<)




