第4話 追放の獣人5 連携攻撃(通常版)
4愚物を瞬殺したブラックハウンドが、ゆっくりとこちらへと歩み寄って来る。ただ、幸いだったのは、即座に襲い掛かって来ない事だ。
そんな相手の様相を見て、ブラックハウンドの知能が高い事を直感した。つまり、俺達の実力を読んだと思われる。先程までのパワーベアー達との交戦を、陰で窺っていたのだろう。
不思議だったのは、4愚物を背後から即座に襲わなかった事である。連中が俺達と対峙した後に、態とらしく介入した感じだ。狙って行ったとするなら、相当な戦略家である。
「さて、邪魔者もいなくなった事だ、な感じか。」
「エラい皮肉地味てるのがな。」
ブラックハウンドの内情を読みつつ、その言葉を語ってみた。挙げた言葉は、ウェイスの方も同じ事を思っていたようである。そして、それを伺った周りの面々は小さく笑っていた。
今の圧倒的戦闘力を窺えば、恐怖に震え上がるだろう。しかし、そんな感情が殆ど挙がって来ない事に驚くしかない。小さく笑った事からして、他の6人も同じ思いのようだ。
「ウェイスとサイジア、奴の猛攻を受けてくれるか?」
「ああ、了解した。」
「その間に、ミスターとエルフィが速度の増減を行う、ですね。」
俺が挙げた言葉の意図を、即座に読んでくれた2人。ウェイスとサイジアが持つ盾は、俺が持つ大盾とはいかない。しかし、2人の体躯は俺を上回っている。
数分だけ相手の猛攻を防いでくれるなら、その間に機動力を殺ぐ事ができるだろう。同時に俺達の素速さも上がる。問題があるとすれば、相手に速度低下のスキルが発揮されるかどうかだが・・・。
「速度の増加は俺がやる。エルフィはブラハウの速度を低下させてくれ。」
「了解です!」
現段階では、これが理想的な戦術だと思われる。技の発動を踏まえれば、恐らくエルフィの速度低下の能力が先に繰り出される。俺の速度増加は魔法になるため、若干の遅れが生じると思われる。
どちらも“思われる”となるのは、不確定要素が複数存在しているからだ。特に速度低下がブラックハウンドに効かない場合、俺達の速度を上げるしか手立てがない。
ブラックハウンドが、あそこまで素速い動きができるなら、先ずは機動力の殺ぎ落としだ。どの道、相手の一撃は必殺的な火力を誇っている。防御力を上げるよりは、機動力を落とした方が断然いい。
「マスター、私の叱咤激励もお役に立てると思います。」
「命中と回避の増加か、了解。追加能力として頼む。」
ゆっくりと陣形を取り出しつつ、それぞれの役割を定めていく。その中で、攻撃手となるリドネイが語った。彼女のスキル、叱咤激励である。命中率と回避率の増加を望めるものだ。
ただ、そのスキルがどのぐらいの効果を発揮するのかは未検証となる。実質的にぶっつけ本番となるので、スキルを使っても効果が確認できるまでは油断しない方がいい。むしろ、効果が出ていないと踏んだ方が無難だ。
「ミスター、俺とトーラちゃんは?」
「攻撃を任せたいが、今は“向こう側”を警戒してくれ。」
「わ・・分かりました!」
リドネイと同じく、攻撃手として待機しているナディト。また防御手として待機しているトーラ。両者には、俺達の背後の警戒に当たって貰う。
サッとチラ見してみたが、今もパワーベアー達と死闘を繰り広げているブラックハウンド。本当に、不幸中の幸いとしか言い様がない。向こう側は向こう側で暴れてくれているため、こちらとしては目の前のもう1体のブラックハウンドを何とかするべきだ。
パワーベアー達が全滅する前に、目の前のブラックハウンドを倒すか戦闘不能までに追い込む必要がある。最悪の展開は、2体のブラックハウンドに囲まれる事だ。それだけは、何としても避けねばならない。
(我が魔力よ、我らの力となりて、脚力を高めよ。スピードアップ、ムーブアップ。)
一触即発の状態を維持しつつ、俺は胸中で魔法を唱えた。速度増加のスピードアップと、移動力増加のムーブアップだ。スピードアップは先程効果を実証したが、ムーブアップは今回が初めてとなる。
淡い光が放出され、俺と他の6人を包み込む。先程とは異なる、非常に身軽さを感じさせる力である。それを窺い知ると、エルフィがスキルの速勢操作を発動させた。
黒いモヤ的な力が、俺達と対峙しているブラックハウンドを取り巻く。それに驚くような表情を浮かべたのを見逃さなかった。相手に効果が発揮されたと思われる。
すると、一瞬構えの姿勢から、ダッシュアタックを繰り出してきた。肉薄する際、鋭い爪を俺達の方へと一閃させてくる。しかし、先程の様な勢いは全くなかった。スローモーション風の動きに驚くしかない。
先程までの凄まじい速度であれば、対処不能になっただろう。だが、そのスロー状態の相手の猛攻は、見切れるまでに低下していた。その一撃を、ウェイスとサイジアが盾を構え、身体を張って受け止めた。
驚くほどの激突音だった。今のは本来の速度での激突ではない。それなのに、固形の物質同士がぶつかり合う凄まじい音だ。その勢いに押されて、2人が後方の方へと押されていく。幸いだったのが、彼らが無傷である点だ。
「ぐぅ・・・これはなかなか・・・。」
「滅茶苦茶・・・響きましたね・・・。」
2人の声色が、今の激突の凄まじさを物語っていた。体躯が良い彼らが押されるぐらいだ。勢いが殺がれているとはいえ、相当な威力である。しかし、同時に反撃のチャンスでもある。
動き出すと同時に、叱咤激励のスキルを発動するリドネイ。直後、俺の身体に意気揚々と力が湧き上がってくる。それは他の全員も同じ思いのようだ。
その中を駆け抜けつつ、両手で持つ太刀型日本刀を一閃させる。ウェイスとサイジアに受け止められた、ブラックハウンドの右前足を見事なまでに切断させた。これには驚いた。
ブラックハウンドの巨体を踏まえれば、相手の部位を切り落とすのは相当難しいと思った。だが、そんな考えを見事に一蹴したのだ。
そして、追撃と言わんばかりに、左前足に鞘から抜き放った通常日本刀を突き刺す。そこに渾身の一撃と言わんばかりの蹴りを放った。刃が左前足を貫通し、地面へと突き刺さる。
「お2方、今です!」
「「任せろっ!」」
右前足を失い、左前足は通常日本刀と共に地面に釘付け状態。そんなブラックハウンドに猛攻撃を繰り広げる2人。それぞれの武器を喉元へと突き刺した。正に渾身の一撃である。
流石のブラックハウンドも、静止した状態で猛攻を受ければひとたまりもない。それに、堅固と思われた皮膚は、思いの他脆弱だったようである。ウェイスとサイジアの渾身の一撃が深々と突き刺さっている。
そして、駄目押しの一撃を放つ彼女。目の前の2人の背中へと跳躍し、両手で持つ太刀型日本刀をブラックハウンドの頭へと突き刺したのだ。見事な連携技である。
断末魔も挙げる事ができないぐらいの猛攻を受け、そのまま地面へと倒れていく。胸と頭を同時に攻撃されたのだ。これで即死しない場合は化け物だわ・・・。
まあ、この手の魔物はタフガイの極みとも言える。再度、胸と頭を念入りに武器で突き刺す3人。一切の油断を排し、容赦のないトドメの一撃を加えるのは定石だろうな。
「ふぅ・・・恐ろしいわ・・・。」
「本当ですよ・・・特に・・・。」
「な・・何ですか・・・。」
そう言いつつ、傍らにいるリドネイを見つめる2人。呆れた表情に気付いた彼女は、顔を膨らませて怒りだした。それを見た彼らは噴き出してしまう。
即興で行われた連携攻撃には、ただ脱帽するしかない。攻守共にマッチングしたからこそ、見事なまでの猛攻となったのだ。警護者界でも、ここまで凄い業物は滅多に見られない。
「でも、叱咤激励の効果は確認できませんでしたね・・・。」
「いや、多分命中の方に効果を発揮していると思う。」
自身のスキルの効果を懸念するリドネイ。だが、少なくとも効果はあったと思われる。命中の精度が上がる事は、必然的に火力の増加にも直結してくる。先の3人の猛攻を踏まえれば、如実に効果が出ていた。
それに、命中力が上がる事は、相手の回避力を無視する形にも繋がる。もし3人の命中力が高くなければ、ブラックハウンドは直前回避を行っただろう。それだけ、非常にシビアな状態だったと推測できた。
「ま・・まあともあれ、何とか倒せて良かったですよ。」
「本当にそう思うわ。」
事切れたブラックハウンドを見つめ、俺達は深い溜め息を付いた。それなりの実力は持っていたと思われる4愚物。その連中を、物の見事に瞬殺した。
その相手を倒せたのだ。今はただ一安心と言った所である。ただ、まだ戦いは終わってはいない。
第4話・6へ続く。
連携プレイは偉大です(何 そして、途中から追加した、各キャラに1つずつ施される個人スキル。これらが大いに活躍するのは言うまでもないかと。まあ、元ネタは“聖戦の系譜”ですが><;
今回も長い話になりそうだったので、6分の1+1に分けましたm(_ _)m 第4話はあと2回更新があります><;




