第3話 昇格試験への加勢5 防具の物色(通常版)
防具屋へと足を運ぶ。同店は武器屋の隣に位置しているため、数分で訪れる事ができる。
店内に入店すると、やはりと言うべき、ザ・ファンタジーを彷彿とさせる様相に遭遇した。店内に配置されている鎧や防具の数々には、とにかく圧巻としか言い様がない。
ただし、今回は主役となる4人の防具の見直しとなる。既に俺は銀貨91枚しかないため、新規に購入する事は若干不可能だ。攻撃力に重点を置いてしまった、悪い例かも知れない。
「いらっしゃい、何かご用ですか?」
「お初にお目に掛かる。彼らの防具の見直しに訪れた。」
俺達の入店を窺い、こちらへと歩み寄る店主。こちらも男性になるが、武器屋の店主とは異なり細身である。しかし、覇気の方は並々ならぬものを感じ取れる。
店主に詳しい話を語り、店舗を案内して貰う。先にも挙げたが、今回は4人の防具の強化になる。先ずは彼らの用事を済ませよう。
彼らが装備する各防具は、弱点を隠す一点集中型を施している。胸全体は無論、腰回り・両膝・両手である。全身鎧により覆い隠すのが一番良いが、それでは機動力が封殺される。一点集中型の防御は、実に理に適ったものだ。
4人が防具を見直している間、俺は残りの銀貨91枚のうち50枚で行動してみるとする。
「店主、銀貨50枚の予算で、彼女が装備できる防具は見繕えるか?」
「銀貨50枚ですか・・・。」
俺の言葉に、リドネイの全身を見渡す店主。彼の手腕からすれば、パッと見で適切な防具が分かるのだろう。粗方見渡すと、店内で一番価格帯が安い場所へと案内された。
そこには、鉄を主原料とした防具が並んでいる。特に鎧の類ではなく、革の鎧に近いものになる。所々に鉄を使っており、防御力を高めているようだ。
「あちらの方々の様な一点防御型であれば、こちらでギリギリ選べます。」
「了解した。」
置かれている防具を手に取るリドネイ。やはり選んだのは、胸回りを守る軽装鎧だ。実際に実戦を経験している彼女なら、何が大切なのかを熟知している。先の身体の無数の傷のうち、その殆どは実戦で負ったものもあるだろう。
今回は軽装鎧で我慢して貰うが、何れ通常鎧を購入したい所だ。無論、鎧だけではなく、足や腕の装備も忘れてはならない。
ここは、彼女に念入りに吟味して貰う事にした。俺が用いる防具ではないので、しっかりと納得して貰う必要がある。彼女が選び終わるまで、俺も店内を物色して回った。
ちなみに俺の防具に関しては、警護者の特殊兵装で問題はない。一見すると、普通の衣服を着用しているが、実際には非常に洗練された逸品の数々を用いている。
リドネイにも着用させた黒コートだが、特殊繊維を用いたオーダーメイドである。口径が小さい弾丸は通す事がなく、日本刀の斬撃ですら斬り付ける事ができない。ただし、異世界仕様の付与武器では耐えられないだろう。
ベストやロング、ズボンも特殊繊維を用いた逸品である。こちらは黒コート以上の防御を誇っている。更に下着の上、各衣類の間に特殊スーツも着込んでいる。
以前にも挙げたが、複数の衣類を着込む事により、防御面の加算は大いに期待できる。軽装で済むため、非常に身軽なのも利点だ。それに、意外なほど蒸し暑くない。
これらの特殊兵装を常用している事から、防御面を疎かにしてしまったのが実状だ・・・。リドネイには悪い事をしてしまったわ・・・。
ともあれ、俺の防具事情に関しては、今は全く問題ない。警護者の特殊兵装が、この異世界で何処まで通用するかは、今後の戦いが物語ってくれるだろう。
暫くすると、自分に合った防具を見繕ったリドネイ。革と鉄を用いた軽装鎧に、腰回りと両膝に両手の防具群だ。価格は銀貨50枚だったのだが、初利用という事で銀貨40枚へと値切る事ができた。
こちらは先に清算を済ませて、直ぐに彼女に着用して貰った。衣服の上から装備するので、店内でも問題なく着用できる。これで俺達の準備は完了だ。
ただ、今度は4人の方が、長時間の吟味をしだしている。先の昇格試験の様相を踏まえて、防具の見直しをして回っていた。こちらも資金の方は問題なさそうなので、納得できるまで動いて貰うしかない。
俺の方も武器屋と同じく、防具屋でも色々と手に取って物色して回った。実際に恩恵に与る事はないのだが、それでも異世界事情を踏まえれば、どれも逸品ばかりで興味をそそられる。
これも地球では、レプリカによる調度品でしかない。西洋の騎士鎧は無論、日本の戦国時代の鎧などもそうだ。しかもエラい重いため、機動力を殺がれるのは言うまでもない。
警護者の世界は迅速性を求められるため、これらの重装備は非常に厄介である。ただし、致死性を孕む獲物と対面する際は、重装備は非常に心強い相棒だ。俺が用いている特殊兵装よりも、更に重特殊兵装になれば、マグナムの弾丸すら防ぐ事ができる。
後はもう、直感と洞察力を駆使した先読みで動くしかない。殺られる前に殺れ、警護者界の暗黙のルールでもある。あくまで、護衛対象の完全警護が最優先課題なのだから。
ちなみに、道具に関しては問題はない。その最大の理由は、創生者ティルネアより与った、回復治癒支援魔法がそれだ。回復薬に治療薬は、各魔法で十分賄える。実際にリドネイの傷と病を完全回復させるに至っている。その効力は折り紙付きだ。
更に言えば、その効果は未知数だが、支援魔法も十分期待できる。身体能力の強化が可能とあれば、被弾率・・・被ダメージ率は激減する事になる。
ティルネアと念入りな打ち合わせをした際の恩恵は、ここで真価を発揮する形になった。万能戦闘戦術は警護者のモットーとする所なので、これは非常に有難いものだ。
余談だが、身内と遊んだ際のプレイスタイルでは、聖職者系の支援キャラが一番シックリときた。今回の異世界での立ち位置は、正に支援キャラそのものである。
ただし、食糧事情に関しては疎かにはできない。長時間の遠征となれば、キャンプ道具は必須となる。携帯食料で済ます事ができるが、できれば魔物を食材とした料理も考えるべきであろう。
となれば、それなりの調理器具が必要になる。そこで、4人が吟味している間に、道具屋へと足を運んでおいた。見繕ったのは、先に挙げた携帯食料と調理器具だ。調味料なども多く入手しておいた。
キャンプを張るなら、こうした調味料の方が断然必要になってくる。下手をしたら、調理器具以上に必要になる。幾ら美味たる魔物の食材でも、それを引き立たせる調味料がなければ宝の持ち腐れだ。
地球での喫茶店の運営でもそうだったが、各種の材料を揃える際は、やはり調味料が一番重要だったしな。その後に、各種食材となってくる。最後はまあ、調理をする者の腕次第だ。
俺も手料理ができるので、遠征の際の食事当番は申し分ない。全てにおいて補佐に回れる警護者は、本当に重宝されるわな。
とりあえず、合計で銀貨30枚ほど費やし、遠征の道具群は全て揃える事ができた。残りの銀貨は21枚である。予備の軍資金としては申し分はない。
道具屋での吟味を終えて、防具屋へと戻る。何と、まだ4人の防具調整は終わっていない。これには呆れてしまったが、それだけ本気である証拠だ。
リドネイの方は、防具屋の陳列を直しだしている。見事なお節介焼きだが、彼女らしいと思うしかない。防具屋の店主も嫌な顔をしていない。むしろ、彼女の配置の仕方に感心していた。
戦闘も可能であり、店舗の調整も可能な彼女。その潜在能力には脱帽するしかなかった。
「これで準備は完了だの。」
防具屋での吟味時間に物凄く時間が掛かり、時刻は既に夜を回っていた。それだけ、4人の昇格試験への意気込みが強いという現れである。彼らの方も満足がいく防具を選んだようで、疲労感はあれど清々しい表情を浮かべていた。
「結構な出費になりましたね・・・。」
「まあそう言いなさんな。後は報酬で巻き返せば問題ないさ。」
各硬貨袋を確認するサイジア。彼が4人の財政係のようである。幾分か出費がデカかったのだろう、顔が引きつっているのが何とも言えない。
俺の方も、資金は残り銀貨21枚に銅貨1000枚程度である。昨日得た銀貨315枚が、一気に15分の1まで減ったのは見事だわ。まあでも、必要な出費だったから致し方がない。
それに、銀貨100枚でリドネイを仲間に迎え入れられたのだ。ここは、幸運極まりないと言うしかない。
そう言えば、昇格試験でも討伐報酬は出るのだろうか。確かに討伐した魔物の素材を売却すれば、それなりの資金は得られるだろう。それとは別の報酬である。
「ミスター、そちら方の報酬に関してなんだが・・・。」
「ん? 俺達は無償で構わんよ。そもそも、こちらから踏み込んだ訳だし。」
こちらの言葉に、深い溜め息を付く彼ら。薄々は感じていたと思われるが、実際に言われると呆れるのだろう。それにこちらとしては、相手の魔物に何処まで通用するかが本音である。
ここで出鼻を挫かれるようでは、異世界事情に対応ができない恐れが高い。再度、戦力の見直しが余儀なくされる。逆に、もし柔軟に対応が可能ならば、そこから更に戦力を見直していく事もできる。全く問題はない。
どちらにせよ、初戦が非常に重要だ。気を引き締めて挑まねばな・・・。
再び、冒険者ギルドへと戻る。こちらでは飲食も可能とあるので、夜食を取る事にした。何でも彼らが奢ってくれるとの事だ。非常に有難い。
すると店内に入る際、慌てて出て行く人物とぶつかりそうになる。フードを被った幼子のようで、そのまま走り去って行った。その後に出てくる冒険者の面々。その面々の表情を見て直感する。
どうやら、何らかの“イザコザを起こした連中”なのだと。雰囲気からして、悪人の気質が感じ取れる。これに関しては最早、警護者の職業病そのものだわ。
初対面であろうが、一瞬の遭遇であろうが、相手の様相を瞬時に読み切る事が重要になる。これを怠ってしまえば、こちらの寝首を掛かれるのは言うまでもない。
ヘラヘラとした様相で去って行く連中を、背後から射抜くかの様な目線で睨んでやった。その俺の様相に、他の5人は驚いている様子である。
第3話・6へ続く。
防具屋へGO。そして、最後はイベントフラグ発生と(-∞-) 勢いに任せて進んでいるため、詳細は多くも展開は早いかも知れません><;
しかし、本当に小説は奥が深い。色々な方々の作品を拝見させて頂きつつ、まだまだ自分の腕が未熟だと痛感させられる次第ですm(_ _)m 今後も頑張らねば(>∞<)




