第2話 奴隷のダークエルフ5 治療と解放(キャラ名版)
荷物をソファーに置きつつ、部屋の隅に棒立ちしているリドネイをソファーに座らせた。その彼女の前に片膝で屈み、彼女の身体の様子を窺う。
着用している黒ローブを脱いで貰うと、身体中に巻かれている包帯が露わになった。実に痛々しい様相だ。しかも全身に巻かれている事から、彼女の症状が深刻である事が分かる。
ミスターT「リドネイ、その包帯は傷と病に対してか?」
リドネイ「はい・・・。」
静かにそう呟く。どうして、そう至ったのかは語らない。もし、語ったとしても、制するつもりで構えていた。今はそれでいいだろう。
不安そうに見つめる彼女に、小さく微笑んでみせた。とは言うものの、覆面に仮面を装着している手前、微笑みが現れたかは不明だが・・・。
ミスターT「お前さんには今後、俺と共に戦って貰いたい。その前に傷と病の対処をしよう。」
リドネイ「えっ・・・マスターは、聖職者なのですか?」
ミスターT「いや、しかない風来坊よ。まあ何だ、全て任せてくれ。」
驚愕の表情を浮かべるリドネイを前に、静かに右手を掲げる。ティルネアより託された力の真価が問われる。体内の魔力を高めつつ、その力を右手に集約させていく。
地球人たる俺には、魔力や魔法の詳しい概念は全く以て分からない。だが、直感的にはその力が何であるかは判明していた。先刻の魔力を放射したのがそれに当たる。となれば、俺の“師匠”たるティルネア縁の回復魔法と治癒魔法を魔力に乗せて、それを放つのが正しい選択だろう。
この手の行動は、とにかく直感と洞察力がモノを言う。最後は間違いなく、治療対照者となるリドネイ自身を、心から癒したいと思う一念だ。それが回復魔法や治癒魔法の真髄だと確信が持てた。
ミスターT(癒しの力よ、この者に活力と希望を。スーパーヒーリング、ナチュラルキュア。)
創生者ティルネアより与った力の1つ、回復魔法と治癒魔法。回復魔法の最上級魔法は、スーパーヒーリングというらしい。治癒魔法の最上級魔法は、ナチュラルキュアという。実にシンプルな魔法名と思ったが、その効果は抜群らしい。
右手から繰り出された回復魔法と治癒魔法に、ティルネア直伝の魔力が重なり合う。それが目の前のリドネイに放たれた。淡い光が彼女の全身を覆い尽くす。本当に暖かい光だ。
彼女の症状は、恐らく重度に近い怪我だ。それらを放置した事による、感染症的な病気も襲い掛かっていると推測できる。しかし、流石は異世界仕様の魔法様だ。彼女に渦巻く病魔を一撃必殺の如く治療している。
包帯上や奴隷の服上からは分からないが、直感的に彼女の傷が癒えているのが感じられた。それに、治療対象となるリドネイの表情が、先程までとはまるで違う。苦痛と不安が渦巻いていた顔が、驚愕の表情と変わっていた。
ただ、彼女の病状期間がどれだけだったのかは分からない。そのため、体内に内在している病魔自体を完全駆逐する必要があるだろう。これも推測の域だが、ティルネア直伝の回復魔法と治癒魔法なら全く以て問題ない。
驚き続ける彼女を一旦無視し、今は治療を続けた。完全回復治癒を以てして、それから語り掛けても遅くはない。
回復魔法と治癒魔法を放ち続けて、どれだけ経過したのか分からない。ティルネアより、終了の合図が感じられたので治療を終えた。
掲げていた右手を下げつつ、目の前のリドネイの様子を窺う。今も驚愕の表情を浮かべているのだが、その顔には苦痛は一切感じられない。回復と治癒は成功したとみて良いだろう。
ミスターT「・・・治療はされていると思う。申し訳ないが、可能な範囲だけ肌蹴てくれないか?」
俺の言葉に小さく肯き、奴隷の服を脱ぎつつ、両腕・首回り・腹回りの包帯を取り除いていく。胸回りは流石に見る訳にはいかないので、後で彼女自身に確認して貰うしかない。
取り除かれた包帯から現れたのは、見事なまでの艶やかな褐色肌だ。奴隷商人が話していた通りの、ファンタジー世界で有名なダークエルフの種族である。
リドネイ「す・・凄い・・・傷が消えている・・・。」
ミスターT「傷は表面上だが、病の方が気になる。身体に痛みは感じられるか?」
リドネイ「い・・いえ・・・何の苦痛も感じられません・・・。」
目の前の現状に一段と驚愕したのか、身体中の包帯を取り除いていく。驚きの方が遥かに勝っているようだ。と言うか、隠して欲しい場所の包帯すらも取り出しており、慌てて顔を背けるしかない。そんな俺を見て、苦笑いを浮かべているティルネアである。
しかし、ここまで興奮している事から、回復と治癒は問題なくできたと思われる。彼女の身体に巣食う病魔も根絶できたのだろう。リドネイを通して痛感させられたが、魔法という超常的な力に脱帽するしかない。
リドネイ「凄いです! 傷と病が全て消え去っています!」
ミスターT「そ・・そうか・・・それは良かった・・・。」
全ての包帯を取り除いた事により、今の彼女は全裸である。その彼女が幼子のように大喜びする姿は微笑ましいのだが、大人の女性という事で顔を背け続けるしかない・・・。
実際の所は嬉しいには嬉しいが、それを現実とすると流石にシドロモドロになる・・・。
そんな俺の言動を見て、我に返っていく彼女。先程脱いだ黒ローブを手に取ると、前面に押し当てて恥らいだした。とりあえず、秘部を隠してくれた事により、彼女に対面する事ができる。彼女が落ち着くのを、暫く待ち続けた。
落ち着いたのか、俺の方に向き直る彼女。だが直後、俺の背後を見て驚愕しだした。前面に抱えていた黒ローブを抱くのを忘れ、その場に落としてしまう。折角隠してくれていた秘部が露わになり、慌てて顔を背けた。
同時に、彼女が驚愕した理由を窺い知れた。それは、俺の背後に浮遊しているティルネアを見たからだろう。俺自身は彼女の力を与る事により、精神体の姿を見れるようになっている。その彼女をリドネイ自身も見えている証拠だ。
リドネイ「あ・・ああ・・・。」
ティルネア(え・・えーと・・・マスター、ど・・どうすれば?)
ミスターT「俺に聞くな俺に・・・。」
ティルネアの姿を見て、呆然とするリドネイ。そのリドネイの姿を見て、助け船を求めて来るティルネア。そんなティルネアを見て、俺は溜め息を付いた。正にカオスである・・・。
リドネイが落ち着くのを待ってから、ティルネア同伴の元で着替えを済ませてくれた。既に姿が見えるとあって、何も隠し立てする事なく接する事ができる。これはこれで実に有難い。
その間、俺は一服しつつ、部屋の表で待ち続けた。何だか一気に寿命が減った気がするわ。それでも、リドネイを救えた事は素直に感謝したい。ティルネアより与った力で、初めて他者を救う事ができた。
これの繰り返しにより、異世界ベイヌディートの救出が可能となるのだろう。ただ、流石に先程の様なシドロモドロ事変だけは勘弁願うが・・・。
暫くしてから、念話でティルネアよりお呼びが掛かる。室内に戻ると、男装したリドネイが立っていた。
頭部も包帯のグルグル巻きにより分からなかったが、金髪のロングヘアーが見事なまでに輝いている。エルフの種族でも印象的だが、ダークエルフでも印象的な尖り耳も健在だ。
そして、何よりデカい・・・。男装はしているが、その上から窺い知れる程の巨乳の持ち主である・・・。そう思った瞬間、傍らのティルネアより殺気に満ちた目線で睨まれた・・・。
それとは別に、彼女の体躯も非常にデカい。負傷時は幾分か前傾姿勢に近かったが、今は直立不動の状態だ。推測だが、身長は180cmを軽く超えている。それに、非常に筋肉質だという事も窺えた。これなら、共に戦闘を行っても問題ない。
ミスターT「うーむ、見事だわ。」
ティルネア(それは・・・何処の事ですか?)
ミスターT「この野郎・・・。」
改めて、素直にリドネイの体躯を褒める。すると、再び茶化しの一撃が入ってきた。傍らのティルネアが、何と俺の左肩を力強く掴んで来るではないか。以前、俺の手を触れて来た事もあるため、その応用であろう。
流石は創生者たる彼女の力は、物凄く恐ろしい程に力強い。左肩に食い込む指に、顔を歪めつつも小さく反論した。そんな俺を見て、小さく笑う彼女である。この美丈夫は・・・。
ティルネア(とりあえず、リドネイ様の様子は把握できました。)
ミスターT「治療の方は、完全に済んでいる感じか?」
ティルネア(はい、見事なまでの完全治癒です。)
力強く掴んでいた左肩をポンポンと叩いてくる。そのまま左手親指を立ててきた。彼女、何時の間にフランクになったのやら・・・。
まあ、この言動を窺えば、先の治療事変が完全解決したと確信が持てる。創生者お墨付きの行動だ、確信を持たねば失礼極まりない。
ミスターT「了解した。あと1つは・・・。」
そう言いつつ、直立不動のリドネイの前へと進み出る。俺を見上げてくる彼女の首元に、静かに手を回して奴隷の首輪を外した。それに驚愕しだす彼女。
リドネイ「そ・・それはっ!」
ミスターT「最早、こんなの要らんでしょうに。」
更に追撃として、再び右手を彼女の胸の近くに掲げる。その行動を察知したティルネアが、俺の傍らから自分の右手を重ねてきた。脳内に浮かぶのは、隷属魔法の無効化だ。
これは治療とは異なり、隷属の魔法である。ティルネアより与った回復魔法と治癒魔法は、どんな症状や病状だろうが治療が可能だ。だが、隷属の魔法を無効化するには、別の魔法が必要となる。
先刻、奴隷商が施した隷属魔法による契約は、一種の状態異常に属するらしい。どちらかと言うと、支援魔法に近い感じとの事だ。確かティルネアより与った支援魔法の中に、支援の無効化が可能なものがあった。それをリドネイに施してみる。
奴隷商が施した隷属魔法の魔法陣が浮かび上がり、そこに俺とティルネアの支援無効化の魔法が重なっていく。直後、隷属魔法の魔法陣が木っ端微塵に砕け散った。無論、魔法陣という光の集合体なので、物理的な音は発生はしない。
だが、それが何を意味するのかを、目の前のリドネイが痛烈なまでの表情で物語っている。つまり、これが成功したと言えた。
ミスターT「よし、これで完了だわ。」
ティルネア(はぁ・・・普通、絶対に考えませんよね・・・。)
ミスターT「束縛は嫌いだしな、当然の事よ。」
態とらしく胸を張って見せた。その俺を見て溜め息を付くティルネア。目の前のリドネイは茫然自失の状態である。
しかし次の瞬間、その場に土下座をしながら平伏しだした。そんな彼女の行動を見て、呆気に取られる。それでも、彼女が抱いている思いは、痛烈なまでに感じ取れた。
リドネイ「お・・恐れ多くも・・・。」
ミスターT「今は、何も言わんで良いよ。」
俺もその場に片膝を付きつつ、彼女の上体を両手で起こし上げた。目には涙を浮かべつつ、こちらを見つめてくる。その俺達の隣に、静かに佇むティルネア。
リドネイ「な・・何故、この様な事を・・・。」
ミスターT「俺はリドネイには奴隷としてではなく、盟友として接して貰いたい。それには、こんな奴隷の首輪に隷属の魔法など無用よ。」
リドネイ「し・・しかし・・・。」
非常に困惑した表情を浮かべている。奴隷の身分から解放されたのは確かだが、それが逆に彼女を束縛させているかのようである。
その彼女の傍らに静かに座りつつ、床に置かれた手に手を添えるティルネア。そちらを窺うリドネイに、小さく微笑み返した。
ティルネア(では尋ねますが、貴方は今後、マスターを裏切るつもりはあるのですか?)
リドネイ「そ・・そんな事は、一切考えていません! それに・・・その様な事を行うつもりも、一切ありません! この生命を以て誓います!」
ティルネアの問いに、明確にそう言い切るリドネイ。本来ならば、大声で叫び返したいのだろうが、既に夜となっているため声色を抑えている。見事としか言い様がない。
ティルネア(ならば、マスターの意向を汲んで下さい。マスターが望まれるのは、貴方が戦友以上の盟友として有り続ける事です。)
リドネイ「・・・かしこまりました・・・。」
ティルネア(それと、私とマスターに敬語は不要ですよ。)
リドネイ「それだけはご勘弁を・・・。」
既に腹が据わったのか、ティルネアの言葉に力強く頷く。しかし、敬語無用に関しては、逆に力強く反論してくるリドネイ。明確なまでの応対だ。それに苦笑いを浮かべるしかない。
ミスターT「直ぐには慣れないだろう。今は普通に接してくれれば良いよ。」
リドネイ「・・・了解致しました。」
ティルネア(はぁ・・・まあ良いでしょう。)
小さく溜め息を付くティルネア。彼女は無論、俺の方もリドネイの意固地なまでの一念を痛感せざろう得ない。その据わりは尋常じゃないぐらいのものだ。
奴隷商館で感じた、気品と気質の力強さ。それに対して半信半疑だったが、今は確信を以て彼女の強さであると痛感している。同時に思う、彼女は何処かの貴族かも知れないと。
ただ、ダークエルフの種族に貴族があるのかどうかは不明だが・・・。それに、人間社会に溶け込むとしても、その容姿からして忌み嫌われると思われる。
更に貴族となれば、爵位を持つ事になる。ダークエルフ族がそれを得る事が可能なのかと思ったりもするが、今現在は不明である。
ともあれ、これでリドネイを半完全に救う事ができた。外面と内面の両者である。後は、彼女自身の境遇に関してだが、これは追い追いで良いだろう。
そして、ティルネアを除けば、異世界ベイヌディートで初めての仲間となる。先程は盟友と謳ったが、実際に盟友の間柄に至るには時間が掛かるだろう。
彼女に心から信頼されるように、今後も誠心誠意対応をせねばならない。
第3話へ続く。
今日も連続投稿でしm(_ _)m リドネイさんの“半”解放と。真の彼女は体躯も凄かったようです(何@@; ちなみに、今現在も彼女の素性を考えてもいますが、ストーリーを描きながら設定していこうかと思います><;
次の話はリドネイさんの視点ですが、ここまでは順調に進んでいる感じですね><; 今後も気を引き締めて進まねば・・・(=∞=)




