第2話 奴隷のダークエルフ4 ダークエルフのリドネイ(通常版)
暫く歩きつつ、表通りに差し掛かった。そこで、着用していたコートを脱ぎ、彼女に掛けてあげた。今の出で立ちでは、完全にミイラそのものだ。奴隷服を着用はしていたが、包帯の露出の方が遥かに多い。
俺の行動に驚愕の表情を見せてきたが、その彼女の頭を優しく叩いた。こちらを信用してくれているとは思えないので、一歩ずつ信頼して貰うしかない。この手のコミュニケーションなら全く問題ない。
先ずは、その足で衣服店へと向かう。彼女の体躯からして、女性用衣服よりは男性用衣服の方が良いだろう。俺の背丈に近い体躯だ、男装の方が似合うと思われる。
「忘れていた。俺はミスターTという。お前さんの名前は?」
「・・・私の名前は、リドネイと申します・・・。ですが・・・商館では、番号で呼ばれていました・・・。」
「リドネイか、了解した。」
なるほど、彼女の名前はリドネイと言うのか。しかし、店舗では商品と言う事で、番号で呼ばれていたようだ。それでも、しっかりとした名前があって良かったと思う。
外見は弱々しいが、気品や気質を踏まえれば、かなりの強者に見て取れる。これは推測の域だが、もしかしたら態と弱々しく見せているのかも知れない。
「あの・・・ご主人様、私の名前は新たに付けても構わないのですが・・・。」
「何を仰る。リドネイと言う名前は、お前さんの親御さんが命名してくれたと思うが? ならば、その名前で呼ばせて貰うのが正しい行動よ。」
彼女の言い分も確かに理解できる。奴隷の身分に至ったのであれば、既にある名前は意味を成さない。しかしそれは、ベイヌディートでの仕様であり、地球人たる俺の仕様ではない。
それに、彼女の両親が命名してくれた名前があるのなら、それで呼ぶのが当たり前である。それに言葉は悪いが、名前の違いにより、些細な行動の行き違いを起こしても意味はない。
「・・・ありがとうございます、ご主人様・・・。」
「あー・・・1つ頼みがある。そのご主人様は止してくれ。」
「・・・では、マスターと呼ばせて頂きます。」
「ああ、頼むわ。」
前者の呼び名では非常に落ち着かない。まだ後者の方が落ち着く。この呼び名も、異世界仕様と言うしかないのだろうな。俺には受け入れ難い概念である・・・。
それでも、自身が持つ名前で呼ばれる事を承認した事で、表情が少し明るくなったと思う。ただ、本調子ではないのは明白だ。こちらを信用してくれるまでは、まだまだ時間が掛かりそうである。
彼女が笑顔を見せた時、それなりに救えたのだと思う。ともあれ、今は彼女の身形を完全に解放するべきだ。
ちなみに先刻にも思ったが、彼女の気品からすれば、結構な身分の人物だと思われる。奴隷に至った経緯は不明だが、今後は彼女を奴隷と見ずに1人の女性として見るべきだ。まあその一端を垣間見せたから、奴隷商に怪訝な表情をされたのだが・・・。
ともあれ、今は彼女の身形を何とかしよう。簡単な対話を終えて、衣服店へと向かった。
奴隷商館を出てから、衣服店へは数分掛かった。リドネイの外見に関して、当初は問題が出ると思っていた。全身に包帯を巻いており、奴隷の服を着用している状態だ。
幸いにも、俺が着用していた黒コートが役に立っている。俺の身丈に合った一品なので、長身の彼女も問題なく着こなす事ができた。恐らく彼女、身長は180cmぐらいはある。
この体躯で戦闘経験者となれば、それなりの武装を施しても問題ないだろう。後は彼女の適正の問題だが、まあそれは行く行く考えればいい。
衣服店へと到着し、店内に入店する。内部に入ると、カウンターで作業をしていた女性店員が駆け付けて来た。
「いらっしゃいませ。」
「お初にお目に掛かる。こちらの女性の身丈に合う衣服を頼みたい。」
そう言いつつ、傍らにいるリドネイを指し示す。すると、女性店員の表情が曇り出した。黒コートを着用しているが、首元の首輪や両手や両脚に巻かれている包帯を見て、彼女が奴隷であると察したのだろう。
「・・・かしこまりました。こちらでご着用されますか?」
「ふむ・・・いや、着用できる衣服を貰うだけでいい。できれば、男性用のを頼む。」
「かしこまりました・・・。」
非常に怪訝そうな表情を浮かべている。如何わしい事をしでかすのかと思ったのだろうな。しかし、これには理由がある。この場で着用すると、後で宿屋などで“治療”を行う前に脱がなければならないからだ。
ただ、実際問題はどうフォローするかで思い悩む。ティルネアに実体があれば、彼女に補佐を任せられるのだが、実際には俺しかいないのが実状だ。かといって、俺の身体に付与しての行動は、文字通り如何わしいとしか思えない。どうしたものか・・・。
見繕って貰った衣服だが、長袖と長ズボンをベースに、ジャケットという男装を狙った。戦闘スタイルにも寄るが、女性用の衣服では肌蹴る可能性が高い。
下着に関しては、女性用のを着用して貰う。男性用のでも良いのだが、流石にそれは彼女に失礼だ。汎用性の問題では、確かに男性用の下着の方が有利ではある。今の俺も着用しているステテコもそれだ。
まあ、この異世界では流石にステテコは存在しなかった。オーダーメイドをすれば得られるだろうが、今はそこまでする必要はないだろう。ただ、行く行くは考えるべきか。
衣服に関しては、複数着用していれば、それだけ負傷する確率が激減する。上半身は複数着用するから問題ないが、下半身は下着以外ではズボンだけの場合が多い。そこにステテコが加算されると、意外なほど守られる場合がある。
実際に過去に足を負傷した際も、ステテコを着用していたお陰で軽傷で済んだ事がある。それこそ、金属性のレギンスなどを着用していれば、更に負傷率は激減するだろう。しかし、流石にそれは聊か実用的ではない。
非常に動き難くなるが、ズボン2枚穿きが一番守られる。保温性も高くなるため、冬場は非常に重宝される。まあ、真夏の場合は地獄と化すのだが・・・。
「こちらになります。」
「全部で幾らになる?」
「銀貨11枚となります。ですが、初めてのお客様ですので、銀貨10枚で構いません。」
「すまない、ありがとう。」
微笑む女性店員に小さく頭を下げる。銀貨11枚の価格で1枚の割り引きは、店にとってそこそこ痛手になる。それを初見特価という事で割り引いてくれた。本当に感謝に堪えない。
ちなみに購入した衣服は、女性店員がリドネイの身体を採寸して選んでくれている。彼女自身が大柄なため、必然的に男性用衣服となったのは言うまでもない。ただ、先に挙がった通り、下着だけは女性用を選んでくれたようだ。
衣服の購入を終えて、店舗を後にする。そして間隔空けずに、その足で宿屋へと向かった。時刻は夕方を迎えており、そろそろ日が暮れる。その前にリドネイの治療と着替えを済ませてから、夜食を取るとしよう。
「リドネイ、お前さんだけで着替えはできるか?」
「あ・・はい、問題ありません。」
「了解した。」
宿屋に向かう際、懸念していた事をリドネイに告げる。着衣に関してのフォローは、問題ないようである。となれば、近場にティルネアに居て貰い、フォローして貰うのが無難か。
(ティルネア、リドネイの着替えの補佐をしてくれるか?)
(問題ありませんが・・・大丈夫ですかね・・・。)
今度は彼女が懸念を挙げてくる。現在のティルネアは精神体、肉体を持たない存在である。実体が無ければ、物理的に物体に触れる事ができない。誰かの肉体に付与こと憑依をし、その筐体を操って行動するしかない。
流石に女性の着替えに、俺の筐体を用いる訳にはいかない。俺が女性だったら、全く問題はないのだが・・・。ここは奥の手として、ティルネアに委ねるしかない。
それに彼女が懸念している本当の理由は、リドネイが奴隷であるという事だろうな。彼女を疑うのではないが、逃げられると思われても仕方がない。幾ら首輪やら隷属魔法があれど、それが完全的なものでもないのが実状だ。
となれば、リドネイ自身に最大限の信頼を抱いて貰うしかない。全ては俺次第という事になるだろうな。今後の事を踏まえれば、責任重大な行動である。
ラフェイドの大通りを、行ったり来たり繰り返す。再び、冒険者ギルドの前へと到着する。その真向かいに宿屋があった。多くの冒険者も用いる事から、この街での最大の店舗らしい。
店内へと入り、カウンターに向かう。カウンター前はそこそこ広いラウンジになっており、冒険者ギルドと同じく冒険者達が屯している。流石に酒場の常設はなく、簡単な雑談などを行うだけの感じである。
冒険者ギルドでは、ウェイス達4人と出逢ったが、宿屋では誰とも遭遇する事はなかった。この場合はマイナス面の行動、所謂要らぬ横槍である。それを踏まえれば、あの4人と出逢う事ができたのは、超絶的に幸運だったと言うしかない。
「いらっしゃいませ。」
「お初にお目に掛かる。とりあえず、1日分だけ頼む。」
「・・・かしこまりました。」
カウンターにて、宿屋の主人に語り掛ける。案の定、俺とリドネイを交互に見つめてくる。ただ、今回も深く詮索せずに対応してくれた。
一泊銀貨1枚、日本円で1000円とは格安な感じだ。しかも連泊する場合は、その日数に応じて値引きされるようである。これが日本だと、一泊素泊まりで3000円以上する場合もある。豪華な場所ではそれ以上だ。
やはり異世界は、地球は日本の宿泊事情とは全く異なるわ。この点は、実に有難いとしか言い様がない。魔物達の素材の売却で得られた資金は、十全に活躍してくれている。
一泊分の銀貨1枚を支払い、宿泊できる部屋を指定された。その部屋へと向かう。その中で緊張した面持ちのリドネイに気付いた。如何わしい事をされると思ったのだろう。頼むから、その考えだけは勘弁して欲しい・・・。
指定された部屋に入室する。部屋はこじんまりとしており、ただ家具とベッドが置かれているだけの質素な感じだ。それにベッドが1つなのは、宿屋の主人がアレを想定しての配慮と思われる・・・。
ただ、身内のネタによると、奴隷は床で寝る事が定石とされているらしい。つまり、ベッドは俺だけが使い、リドネイは床で寝させるという流れになる。流石にそれは絶対にしないが、かと言って一緒に寝る訳にもいかない。
幸いにも、同室にはソファーが置かれているので、こちらを俺が使う事で済ませよう。今の彼女には十分な休息が必要だしな。
ともあれ、先ずは治療だ。創生者ティルネアから託された、回復魔法が役立つ時が来たわ。
第2話・5へ続く。
彼女の名前はリドネイ嬢、と。各種物品を揃えつつ、本題の解放へと着手するミスターT君。次の話で劇的に変わると思います・・・一応><;
ともあれ、今回も連続投稿となりましたm(_ _)m お納め下さいませ><;




