第10話 婚約破棄と爵位返上8 流れ星に祈りを込めて(通常版)
最初の難関、城下町の城門前に到着する。衛兵達がこちらを調べに回るが、そこはミューテの手腕が再度発揮された。言わば賄賂である。衛兵に白銀貨1枚を手渡し、黙って通せと圧力を掛けたのだ。これには呆れ返ったが、現状は申し分ない手法である。
所詮この世は金次第、多額の資金を前にすれば、否が応でも応じてしまうのが通例である。特に白銀貨となれば、金貨1000枚の大金である。ここまでの金額を目にすれば、強引に押し通す事は可能だろう。
幸いにも、城門に配置される衛兵達には、王城で起きた各事変の通達はされていない様子。あそこまで超絶的な威圧も掛けたので、追撃はほぼ無いと思って良いかも知れない。一応、今後も警戒は必要ではあるが・・・。
衛兵達とのやり取りを問題なく攻略し、俺達はクレデガレア王国から脱出する事ができた。これで、一応一安心と言った形である・・・。
「はぁ・・・。」
「色々と、お疲れ様です。」
離れていく王国を目にし、深い溜め息を付く。そんな俺に対して、両肩にソッと手を沿えて来るティエメドラ。その労いの一念に、心から感謝した。
1週間以内の強行軍だったが、本当に劇的な出来事が数多くあった。それでも、こうして救える存在を救えたのだ、良しとしよう。
それに、今後は王国が敵に回るのは言うまでもない。次なる一手を考えねばならないしな。王国と対峙できる勢力との合流、エーディスリーア帝国が無難な所だろうか。
他は、リドネイの母国ヴァーレフィンドか、ナーシャの母国フィーオディーアだ。まあ、両国は愚王とのやり取りで、実質的に敵対状態になったとも言える。女王への暴言がそれだ。
ただ、リドネイは奴隷の身分だった事と、ナーシャは諸国放浪の旅をしていた事。それを踏まえると、両国は該当外となるだろうか。
となれば、次なる目的地は、エーディスリーア帝国だろうな・・・。
クレデガレア王国から脱出、街道を荷馬車で進む事、数時間後。辺りには、夜の帷が下りだしてきた。これ以上の移動は危険だと判断し、キャンプを取る事にした。
ちなみにこの間、念話経由でテネット達に連絡を入れてある。すると、直ぐに迎えの部隊を送ると即答してきた。どうやら俺達が街を出発した後、王国での事変を終えた後に、迎えに赴く段取りを取っていたようだ。
それに、諸々の流れは元男爵家の使用人達から伺っていたようで、直ぐに準備が可能だったとの事だ。本当に有難い事である。
キャンプに関しては、聖獣ティエメドラと創生者ティルネアの結界魔法を駆使して貰った。これに関しては、詳しい事は分からない。以前、俺とティルネアがキャンプした際の、あの結界力の拡張版らしい。
目視の散開は不可能に近いが、生体反応と魔力反応を打ち消す事により、魔物などから認知を阻害させる効果がある。実際にこれは経験済みなので、問題はないと思われる。ただ、近接された場合は、この限りではない。交代で見張りを立てるのが無難だろう。
だが、軽食を取る前に行う事がある。女性達の治療だ。
この時、ティルネアより範囲魔法の触りを得る事ができた。リドネイやルデ・シスターズへの治療の際は、個人毎で治療に当たっていた。今回は37人と大人数なため、一括して治療すべきだと助言してくれたのだ。
そこで、スーパーヒーリングとナチュラルキュアを広域化し、37人の女性達に放った。かなりの魔力を消費する事になったが、そこはティルネアより託された力である。問題なく行使する事ができた。本当に見事な力である・・・。
衰弱していた者、病弱の状態の者、その誰もが完全な健康体へと戻った。こちらの行動を一部始終を見つめていた彼女達は、今までの暗さが一変していった。涙を浮かべ、仲間達と歓喜し合っている。
また、彼女達の首に装着されている、奴隷の首輪も取り除いた。既に奴隷の身分ではなく、普通の女性として在って欲しいという意味合いだ。
それに、隷属魔法に関してもあり、それはティルネアが一括して解除してくれた。その際、顕現化された彼女に、驚愕の表情を浮かべる女性達である。そりゃそうだろうな・・・。
最後に身内達と一緒に、37人を見回っていったが、どの面々も健康体で全く問題はない。身形の部分は、この後の課題となるが、今は彼女達を助けられた事に胸を撫で下ろした。
その後は、元男爵一行の空間倉庫から、非常食を取り出して夜食会となる。非常食なので、贅沢品とは言えない。しかし、自由に至った女性達にとっては、感涙しながらの食事である。
明るい表情で和気藹々とする彼女達を見つめ、異世界へ召喚された事に心から感謝をした。この笑顔を守るのが、今後の俺の使命である。奮起していかねば・・・。
食後は、直ぐに就寝しだす女性達。気の弛みからか、爆睡状態そのものだ。俺達は交代で、周辺の警戒に当たる事にした。とは言うものの、他の身内達も相当眠そうである。
そこで、俺とティルネアとティエメドラで、夜通しの警護をする事にした。俺はティルネアの能力を与った事で、殆ど眠気は襲って来ない。ティルネア自身は精神体なので、眠気とは無縁の存在だ。ティエメドラも滅多に寝ないとの事である・・・。
(・・・星空が綺麗だな・・・。)
ボソッと呟く。声に出すと迷惑となるので、念話によるボヤきである。頭上に広がる満天に広がる星々は、今までの疲れを労わってくれるかのようだ。
(遂行者の生き様は、並々ならぬ努力が必要ですからね。)
(ティルネア様が託された遂行者の使命は、物凄く手厳しいものと。)
聖獣本体に戻ったティエメドラ。3mを超える体躯は、威圧も兼ねて周辺に幅を利かせている。ただ、幌馬車を引く馬達には効果がなく、安心して寝に入っているのが見事である。
その彼女が、遂行者の使命の重さを再確認したようである。ティルネアより賜った遂行者の使命は、言わば創生者代理そのものだ。ティエメドラが揶揄した通り、物凄く手厳しいとも言える。
だが、それを実行できる事は非常に光栄な事だろう。現に今の俺は、地球での警護者としての生き様が、実に遺憾なく発揮されている。警護者の生き様を経験していなければ、とても遂行者の生き様は貫けなかったのは言うまでもない。
(今後はどうされるので?)
(先ずは、ラフェイドの街に向かおう。現地に到着したら、暫く休息を取る。)
(皆様の疲労度も、かなりのものになりますからね。)
今後の流れを訪ねてくるティエメドラ。次はラフェイドの街に向かい、暫く休息を取るのが無難な所だ。俺達だけなら動けなくないが、加入した女性達の身辺調整が必要である。
それに、今後は同街が王国から警戒対象及び、攻撃対象になりかねない。それなりの設備を整える必要も出てくる。備えあれば憂い無し、である。
(・・・いっその事、街民全員で帝国に移住するか。)
(超大規模大移住ですか。)
端的に解決策を挙げてみた。エーディスリーア帝国への移住である。ラフェイドの街に住む人物全てを移住させる事だ。王国からの横槍が熾烈を極めるなら、先手を打って動くのが無難だろう。
ただ、それには事前に帝国へアポを取る必要がある。となれば、先行部隊として俺達が動く必要がある。その役目は申し分ないが、上手く行くかは今の所不明である・・・。
(帝国には、神獣ヴィエライトが潜伏しています。彼女の力を得られれば、皇帝に直接打診をする事ができるでしょう。)
(皇帝、か・・・。)
神獣ヴィエライト。ナーシャが探している、3種の獣の神の1人だ。その彼女が帝国にいると挙げるティエメドラ。同族に近い存在なため、その気配を察知する事ができるようだ。
それよりも、次の謁見対象は皇帝陛下である。ウェイス達が言うには、帝国は王道を貫く国家との事だが、皇帝自身の様相は窺い知れていないと言う。王国の愚王の様な輩でない事を切なく願うしかない。
(はぁ・・・一介の警護者には、荷が重過ぎるわ・・・。)
(そう仰らずに。貴方様は本当に良く動かれています。心から感謝していますよ。)
溜め息と共に、色々と大変だとボヤきを入れる。特に俺の場合は、何処にでもいる一介の警護者である。それが、ある日突然、異世界へと転移させられて、遂行者の使命を託された。これを荷が重いと言わずに何と言うのやら・・・。
そんな俺に、労いの言葉を掛けてくれるティルネア。彼女に対しての愚痴に近いが、実際には感謝し切れないものである。ただ、それでもボヤかずにはいられないのが実状だ。
(私も、貴方様には心から感服しています。それに、下界と接するのも悪くはないと思いました。貴方様やナーシャ様には、心から感謝しています。)
(お役に立てて、光栄な限りですよ。)
同じく、労いの言葉を掛けてくれるティエメドラ。聖獣という役割から、下界に接する事は禁忌とも言える。これはティルネアも同じである。
しかし、下界に接する事で、その良し悪しを感じ取る事もできる。己自身で直接行動する事により、得られるものもあるのだ。これは、高位な存在ほど顕著そのものであろう。
(・・・まあ何だ、一歩ずつ前に、だな。)
(オフコース、です。)
(ハハッ、何とも。)
俺の決意に、地球は“英語の勿論”と語ってくる。以前、俺が語った事があるのを覚えていたようだ。見事な返しである。その意味は知らないようだが、こちらのやり取りを窺い、小さく笑うティエメドラだった。
彼女達の笑顔が、今の俺の前に突き進む起爆剤である。この笑顔を絶やさぬために、今後も獅子奮迅の行動をしていかねば・・・。
そう思いつつ、再び満天の星空を見入った。すると、夜空に流れ星が流れ落ちていくのを見る事ができた。それを見て、総意の幸せを心から祈った・・・。
第11話へ続く。
王国からの脱出と、37人の女性達の完全治療と。そして、後の展望を思案する。外部的に見れば、実に殺風景な展開かも知れませんが、彼らの方は実に波乱万丈の展開だったと思います。何とも(-∞-)
次の視点話で、通常の運行に戻します><; 残りのストックを確保しつつ、探索者の方も何とかしないといけませんし。更に警護者が完全完結していないので、このままでは何れ同じドツボにハマりそうで怖いです><; 創生者(執筆者)は辛い(-∞-)




