第10話 婚約破棄と爵位返上7 奴隷の解放と王国からの脱出(キャラ名版)
リドネイ「と・・とりあえず、奴隷商館の奴隷達を解放すべきです。」
セアレス「言葉は悪いのですが、解放と言う名の買い占め、ですね。ともあれ、私達にできる事があれば、その役割を是非とも担わせて下さい。」
ミューテ「元男爵家で培った資金群は、潤沢にあります。全てお任せを。」
そう言いつつ、使用人の如く頭を下げてくる2人。足枷から解き放たれた彼女達は、自由人そのものとなった。そして、元男爵家のある程度の資金群の貯えもあり、相当な力を有していると言える。
奴隷商館の奴隷達を全員得るとなると、相当な資金が必要となる。ここは、彼女達の力を借りるしかない。
ミスターT「すまない、恩に着る。」
ミューテ「何を仰いますか。貴方様には、多大なる恩があります。」
セアレス「このぐらいでお役に立てるなら本望ですよ。」
俺の言葉に、両者とも胸を張る。清々しい表情を見れば、他者に役立てる事が嬉しいのだと思える。男爵家の枷から解放された2人による、新たな第一歩を踏み出す形となるだろう。
颯爽と行動を開始するミューテとセアレスに、慌てて付き従うサミナとユミア。そして、アルデ・カルデ・セルデの3人。若さを前面に出しての言動は、漸く乙女心を醸し出したと言えるのかも知れない。
7人とも、出逢う前までは非常に表情が暗かった。それが今では活気好く元気全開である。そんな彼女達を見つめて、徐に一服を・・・できなかった・・・。
仕方がないので、携帯煙草ケースから吸い殻を取り出し、口淋しい口元に咥える事にした。着火はできないが、今はこれで我慢するしかない・・・。
王城前から城下町へと戻り、そして奴隷商館へ怒濤の如く進軍をする。正に進軍である。
その間、サミナとユミアに三姉妹は、街で一番デカい荷馬車の確保に走り出した。不測の事態を想定し、護衛にはティエメドラが着いてくれている。
俺達は奴隷商館へと雪崩れ込み、新たに配属された店主に宣言した。商館にいる奴隷達を全員招き入れる、と。これには驚愕する店主だが、そこは交渉術が上手いとされるミューテの出番だろう。
流石は元男爵家当主、その手腕は恐ろしいまでに手際が良い。相手に要らぬ間を与えないために、通常の価格の2倍で交渉を開始しだしたのだ。ある意味、ごり押しそのものである。だが、今はこれが無難だろう。
入り口付近では、ナーシャとリドネイが周辺の警戒に当たってくれている。王城からの追撃があるのを想定してだ。俺はその間、セアレスと共に商館内の奴隷達を解放していった。
セアレス「・・・一般庶民に至ったからでしょうか。物凄く怒りが湧き起こるのですが・・・。」
ミスターT「ハハッ、ありがとな。」
衰弱や病弱の奴隷達を目の当たりにし、怒りを露わにしだすセアレス。普段は邸宅を中心に活動を行っているようで、城下町の細部には触れていなかったようだ。
特に奴隷商館に関しては、滅多に触れる事はない。使用人の人数も足りていたので、利用する事は希か無いに等しい。彼女は今、街の暗部に初めて触れていると言えた。
ミスターT「全員を招き入れるから、全ての鎖を破壊してくれ。“新たな獲物”で可能だろう?」
セアレス「・・・フッ、望む所です!」
檻や足枷などの鍵は、今も奴隷商人が持っている。ミューテとの交渉は続いており、待っているのは時間の無駄である。既に全員招くと豪語しているので、ここは強引に進めても問題はない。
背中に背負う聖剣を、鞘から抜き放つセアレス。変幻自在の聖剣の名の通り、大剣から短刀程度の大きさに変化する。それを振るい、檻の鍵を一刀両断していった。
流石は聖剣だ、見事過ぎる切れ味である。と言うか、何処か“レーザーブレード”を彷彿とさせるのは気のせいだろうか・・・。それだけ、特殊な獲物である証拠だろう。
先ずは檻の鍵を片っ端から斬り捨てていく彼女。俺の方は、中にいる奴隷達の安否を見て回った。できればこの場で完全治療をしたいのだが、奴隷商人に見られるのは非常にマズい。下手をしたら、金額の上乗せをされる恐れもある。
完全治療は、王国を脱出した後にでも大丈夫だろう。幸いにも、全ての奴隷達は衰弱と病弱の面々が多かったが、致死に至るような人物はいなかった。ある程度の行動は可能だろう。
全ての檻の鍵を斬り捨てると、次は奴隷達の足枷や手枷を斬り捨てていく。短刀と化した聖剣を一心不乱に振り続けるセアレス。その姿を、奴隷達は羨望の眼差しで見つめていた。
どうやら、彼女の身形や獲物の神々しさ、そして自分達への行動を踏まえて、伝説の勇者と思っているようだ。奴隷解放のために現れた、正に救世主である。
実際には、ミューテが多額の資金を投じて、彼らを買い占めているのが実状である。だが、奴隷達からすれば、それは些細なものだろうな。
ティルネア(セアレス様は、何れ奴隷解放の女神と謳われるようになりますね。)
ミスターT(そうだな。)
再び精神体に戻ったティルネアが、俺の背後でセアレスを見守る。今の彼女は、自発的に動いている。顔の治療や男爵家からの解放、そして聖獣の巫女という役割。これらが彼女を成長させたと断言できる。
痛みを知るからこそ、他者に優しくなれる。これは俺の経験談でもあるが、セアレスも苦痛に苛まれていたからこそ、奴隷達の境遇に共感できたのだろうな。やはり、最後の壁は己自身だと言わざろう得ない。
ミューテ「支払いの方は終わりましたよ。」
全ての奴隷達を解放し、裏口の方へと招いていく。そんな中、ミューテが駆け付けて来た。奴隷商人とのやり取りを、全て任せ切りにしていたが、その表情は非常に満足そうだ。
ミスターT「色々とすまない。」
ミューテ「いえ、お気遣いなく。」
ミスターT「ところで、どのぐらい掛かったんだ?」
ミューテ「白銀貨100枚で即決しました。」
・・・恐ろしい、ただただ恐ろしい・・・。ミューテが挙げた資金群は、普通の生活では数十年は豪遊できる程の金額だ。過去に道具屋で物品を窺った時、大凡の見当は付いている。
リドネイの時は破格であり、アルデ・カルデ・セルデの時はそこそこの高額ではあった。それらを踏まえれば、奴隷商館の奴隷達の総合金額は凄まじいものになっただろう。
ちなみに、今回招き入れる奴隷達の人数は37人となった。その中で、全員が女性であり、男性は1人もいない。この事実に、非常に苛立ちを覚える。それだけ、彼女達を資金目当てに売り払った人物がいるという事だ。
更に言えば、その大多数は幼子に近い面々だ。これが異世界事情だとしても、とても看過できるものではない。全ての奴隷商館が、こうした様相なのだと痛感させられた。
サミナ「お待たせしました。」
ユミア「街で一番大型の“幌馬車”を入手してきましたよ。」
裏口に出て数分後、颯爽と現れる大型の幌馬車。サミナとユミアが行者を担っており、内部には三姉妹にティエメドラがいた。今も周辺に警戒心を向けている。
ミスターT「“幌馬車”とは、恐れ入るよ。」
ティエメドラ「気にしないで下さい。我々も、全会一致で幌馬車にしましたので。」
ニカッと笑みを浮かべるティエメドラ。他の女性陣も、同じ様に笑みを浮かべている。全てを想定しての行動には、本当に恐れ入るとしか言い様がない。
幌馬車にしたのは、俺達をカモフラージュするためだ。当初は荷馬車を考えていたが、荷台が剥き出しとなるため周知され易い。そこで出たのが、幌馬車である。布地の覆いが装備してあるため、荷台側を窺うには覗き見るしかない。
これは“女性達”を隠すには打って付けである。今も身形は奴隷服なため、周囲には目立つ事この上ない。全ての準備を整えてから出発したかったが、王城側からの横槍が読めないのも実状だ。
ここは、ラフェイドの街に到着するまでは、身形だけは我慢して貰うしかない。身体の治療だけは、移動中でも問題なく可能である。
女性達を全員、幌馬車へと乗せていく。流石の大型幌馬車でも、37人の女性陣には非常に狭い。そこで、身形が軽い三姉妹には幌馬車の上部に載って貰い、周辺の警戒に当たって貰う事にした。
行者をセアレス・ミューテ・リドネイ・ナーシャに一任し、サミナとユミアは2頭いる馬に乗って貰う事にした。俺は今は馬車の後方、踏み台の部分に座り込む。後方への警戒が可能な場所だ。その真後ろ、幌馬車内にティエメドラが陣取る事になった。
食糧事情に関しては、セアレスとミューテ、それにサミナとユミアが持つ空間倉庫が役立つとの事だ。粗方の非常食を蓄えているようで、それを女性達に宛がう事になった。
今の王国は、俺達にとって悪の巣窟そのもの。このまま居続けるのは非常に危険である。直ぐにここから脱出した方がいい。
準備が完了し、直ぐに幌馬車を発車させる。外見的にはキャラバン的な様相になったが、今はこれで何とかするしかない。
第10話・8へ続く。
王国事変は、もう少し大暴れしても良かったのでしょう。けれど、所詮は噛ませ犬程度の愚物なので、この程度の扱いで良いのです(何@@;
覆面シリーズのコンセプトは、あくまで目玉は主人公サイドの行動であり、その周囲の描写のみとなります。敵側の様相とか第3者視点とか、普通なら“色々なツール(詳細を挙げると問題があるので、お察し下さい)”を用いないと分かりませんし。よって、常に相手側の状態を考え、予測して動く事が重要でしょうから。とまあ、これは自論なのですがね@@;
何はともあれ、詳細描写側の修行は、ほぼ大成功に傾き掛かっています><; 今後も継続していかねばと思う次第ですm(_ _)m




