第10話 婚約破棄と爵位返上2 その時を待つ(通常版)
「・・・何だか、これから先に起こる事が、まるで死刑宣告のようで怖いですね・・・。」
「確かにな。だが、それを狙っているようなものだし、気にする事はない。」
徐に一服しつつ、これから先の出来事を危惧するミューテを労う。彼女やセアレス達が狙う流れは、そう言った危惧するようなものだ。彼女達が決意した思いとは別の、戦いに発展する可能性がある部分への恐怖なのだろう。
これに関しても、警護者の世界では日常茶飯事に巻き起こっている。むしろ、温和にできる依頼など非常に希だ。大多数が相手の完全駆逐、そして殺害などが定石である。警護者とは、非常に業深い生き様であると言わざろう得ない。
「他の汚れ役は全て俺が担う。貴方達は成し遂げようとする悲願のみ思えばいい。」
「・・・ありがとうございます・・・。」
深々と頭を下げるセアレス。彼女の心境としては、恐らく悲願以外に復讐心もあるだろう。実際に自分の顔は傷付けられたのだ。しかも、高位聖職者でなければ治療不可能なレベルだ。
それに、俺自身へも少しは疑心暗鬼もあるだろう。実際に自分の顔を治療できるかどうか、と言う部分だ。これに関しては完全治療は可能なので、全く以て問題はない。
彼女には大変申し訳ないが、ヒューレイム男爵家を陥れようとする輩の驚く姿が見物だ。普通ならば、治療は不可能なレベルのセアレスの顔を、見事に元に戻せるのだから。これを連中への強烈な一撃と代えさせて頂きたいものだわ。
その後も、ゾロゾロと貴族共が大広間へと集まってくる。どの輩も煌びやかな衣装に身を包んでいる姿が滑稽である。逆に、大広間の周辺で警備中の衛兵達の方が、よっぽど立派に見えてしまう。
ただ、彼らは王国に仕える兵士となれば、この後のイザコザで対峙する事になるだろう。できれば、悪道に走った連中のみ潰したい所だが、そうは言っていられないかも知れない。
何にせよ、本題はヒューレイム男爵家一同の護衛だ。そして、悲願となる男爵家の爵位返上である。ミューテやセアレスは、これを心から望んでいるのだから。
大広間の一角。俺達が居る場は、非常に浮いた空間となっている。既に招かれた客人達は出揃ったようで、色々な相手と談話を繰り広げている。こちらへ語り掛けて来る相手は、一切いないのが見事だろう。
と言うか、俺達が居る場は沈黙の場とも言えなくない。だが、裏では念話による雑談をしているのが何ともだわ。仕舞いには噴き出しそうになったりするのを、必死に堪えねばならないのが厳しい所だが・・・。
そんな中、辺りの喧騒さが一瞬にして止む。そして、一同が視線を向ける先から、続々と人物達が現れる。ここに居る誰よりも煌びやかな衣装を身に纏う存在、王族のご一行である。その中の1人、銀髪の青年に周囲の視線が向かっている。
(アレが、クレデガレア王国皇太子です。)
(ふむ・・・。)
セアレスが挙げた皇太子は、確かに一国の皇子なため、端正な顔立ちの好青年と言った感じである。だが、明らかに気質的にマイナスなのが痛感できた。これは俺だけではなく、周りの面々も同じ思いのようだ。
今の俺達は、ティルネアと同期している状態だ。相手のプラスとマイナスの力を見抜く術を持っている。この大広間に居る貴族共や王族共は、どれもマイナスの力を放っていた。先に挙げた通り、まともな気質なのは衛兵の兵士達ぐらいである。
(それと、彼の傍らに居るのが伯爵令嬢です。)
(・・・これは・・・。)
・・・酷かった、とにかく酷かった・・・。皇太子と同じく、端整な顔立ちで、非常に美女ではある。だが、皇太子以上のマイナスの力を持っているのが感じ取れた。腹黒さを超越していると言える。
内在するその気質を察知できなければ、その美貌に惑わされるのは言うまでもない。事実、ボンボンたる貴族共の目が魅入られているのを感じ取れる。魔物で有名な、淫魔サキュバスを彷彿とさせる。
と言うか、実際にサキュバスを見た事はない。だが、彼女達の方が自然的に生きていると思える。それだけ、伯爵令嬢の気質がドス黒い証拠だ。どうしようもない悪党である。
(俺は、女性を立てる生き様を貫いているが、アレは立てようがない。)
(私も正直な所、直接介入して叩き潰したいです。)
俺のボヤきに、周りの面々は苦笑いを浮かべる。しかし、一際応じたのがティルネアだ。普段は温和で中立的な存在だが、ここまで敵意を剥き出しにしている姿は珍しい。
(・・・クサく聞こえるが勘弁な。お前さん達の様な、心から可愛く美しい女性達と知り合えた事に、心の底から感謝するわ。)
(・・・確かにクサい事ですねぇ・・・。)
再度のボヤきに、周りの女性陣は苦笑いを浮かべている。だが、非常に嬉しそうな雰囲気を醸し出していた。実際に彼女達の良さは、短い間ではあるが痛感させられている。
地球でも、女性を立てる生き様は健在だ。前にも挙げたが、俺は過去には男尊女卑の気質があった。だが、身内の面々から絶対にダメだと“蹴飛ばされ”続けられた。その結果が、今の女尊男卑である。
無論、それは男性を蔑ろにする訳ではない。女性を前面に立ててこそ、その彼女達を支える男性も冴え渡りだすという事だ。共に進むからこそ、栄光の道に至るのだから。
ここに回帰するには、俺だけでは絶対に無理だった。実際に男尊女卑の流れがあったのが原因である。身内達がいなかったら、大広間に巣食う愚物連中と全く同じだっただろうな。
・・・持ちつ持たれつ投げ飛ばす、か・・・。身内達の生き様が、改めて凄まじいものである事を痛感させられた。
(・・・マスター、貴方がお住いの世界は、女尊男卑が基本なのですか?)
周囲の注目を浴びている王族連中。それを尻目に、ミューテが語り掛けてくる。先程思っていた心中を、念話を通して知ったのだろう。
(いや、それは俺達や所属する組織でしかない。向こうの基本は、男尊女卑が蔓延っていやがるしな。)
そう言うしかなかった。実際に今の地球は、男尊女卑の流れが色濃い。だが、警護者界やそれに属する組織は真逆の女尊男卑を貫いている。これは、身内の一撃が発端だ。
別に男尊女卑でも構わないとは思う。そこに女性を蔑ろにする行為がなければ、だ。実際にはそれらはあり、何処までも女性を蔑ろにされている。地球だろうが異世界だろうが、基本の愚行は全く変わらない。
(貴方達が、その突破口を開く開拓者になるのも一興よ。それらの痛みを知っていれば、容易く動けるだろうしな。)
(・・・そうですね、それが次の使命かも知れません。)
俺の言葉に、力強く返してくるセアレス。実際に彼女が受けた行為は、男尊女卑からなる流れの極みである。彼女が男性であれば、ここまで酷くはならなかっただろう。
しかし、セアレスやミューテは女性だ。そして、その状態で男爵家を切り盛りした事が全てである。この姿勢を窺えば、既に突破口を開きだしているのは間違いない。
(・・・マスターは、何処までもお人よしなのですね・・・。)
(皮肉にしか聞こえんがな。)
(フフッ、全くですよね。)
現状では、一番接している時間が長いリドネイとティルネア。その彼女達がボヤいてくる。俺は正にお人よしの極みだろう。だが、それがあるからこそ今がある。それも間違いない。
それに、これは身内達を見れば平然と貫く通常運行だ。その彼らと共に居れば、否が応でも感化されるのは言うまでもない。むしろ、同調しなければ異常にも見えてくる。その生き様が異世界でも通用する事に、今はただただ感謝するしかない。
大広間が、一段と王族パーティーの様相となっていく。その中で、“意図的に”注目される事がない俺達は、裏で念話を繰り広げた。黙っているように見えるが、実際には爆笑寸前の会話まで飛び出している。
ティルネアが力、念話力。これがなかったら、本当に黙りの状態で待ち続けていただろう。本当に、創生者の力は偉大である。だが同時に、何処までも危険な力とも言うしかない。
そして、その念話会話中に常用できるプランが思い付いた。過去にも挙げたが、指輪や腕輪に念話力を内在し、それを媒体として念話を展開するものである。これには、ティルネアも太鼓判を押してくれた。
ただ、発動条件を付けなければならない。そうしなければ、悪用される事になる。その条件は至ってシンプルで、善心や善心寄りの中心のみだ。悪心寄りの中心や悪心を持つ者には、絶対に使えない仕様にするべきである。
今も王族パーティーに興じる連中には、絶対に扱えない業物である。それを考えると、何か変な優越感に浸ってしまうのは愚かであろうか。
まあ、俺達とは確実に生き様が異なる。確実に言えるのは、敵対同士であるという事だ。それらも踏まえて、先程危険な力だと挙げたのだ。本当にそう思わざろう得ない。
第10話・3へ続く。
偽りの断罪イベント、の前哨戦な感じと。まあ、主人公達が態と相手を罠に陥れようとしているのですがね(-∞-) 逆断罪イベントとも@@; 何とも><;
ちなみに、王国だと王子で、帝国だと皇子なのですかね? 国王の子供だから王子、皇帝の子供だから皇子、な感じで@@; これが合っているなら、同話の皇太子は王子という事になるのかも><; う~む・・・調べた方が良さそうです(-∞-)




