第1話 創生者の願い事5 ティルネアの視点
~ティルネアの視点~
・・・本当に不思議な方です・・・。
私はティルネアと申します。ここベイヌディートの創生者を司る存在です。住まう全ての生命体を見守り、間違った行動を取る存在を戒め続けている。本来ならば、私が行うべき行動ではなく、彼らが自発的に律するべき事なのです。
それでも、こちらの想像を超えた行動をする輩もいます。生命体とは、実に不思議な存在だと言うしかありません。それでも、彼らが可愛いのは間違いないのですが・・・。
だからこそ、間違った行動を行う存在を戒める必要があります。過剰な行動を取れば、実力行使で阻止に走る必要もあります。当然、そこには相手の殺害を以て止める場合も・・・。
過去に多くの遂行者を代理人として、その愚行を阻止してきました。ですが、その誰もが遂行者の力に酔い痴れ、本来の目的を見失ってしまった。その様な輩は、力と記憶を消してから解放しますが、内在する生命力は邪悪に至り、悪人に至る道を進んでしまう。
痛感しました。ベイヌディートに住まう存在は、遂行者たる力には耐えられないのだと。そこで、異世界からの召喚者に委ねる事にしたのです。
その初めての人物こそが、目の前で眠る彼こと、ミスターT様でした・・・。
彼は驚く事に、召喚の間たる白色空間に現れるも、気が動転する事がありませんでした。常に冷静沈着であり、その目線は恐ろしいまでに据わっていた。並の人間が出せるものではありません。
かつての遂行者達は、まず間違いなく気が動転していた。この世のものとも思えない様相に震え上がっていた。それが普通の言動でしょう。ですが、彼は全く違っていた。
直ぐに彼の内情を察知すると、筆舌し尽くし難い生き様を経てきた事を痛感しました。一介の人間が経験するようなものではなかった。後に分かったのですが、それは警護者という役職が彼を昇格させ続けたようです。そう、今でも彼の成長は止まっていないのですから・・・。
そして、現状を直ぐに察知し、自身が成すべき事を冷静に把握しだした。私からほぼ全ての情報を得ようと対話を試みて来たのです。
今までの遂行者は、その殆どが私利私欲に溺れた輩のみ。こちらと胸襟を開いて対話をする存在はいなかった。無論それは全てではなく、一部の良識人は私との対話から全てを察してくれていた。
遂行者の役割が何故必要なのか。ベイヌディートの様相を見て、それを思い知ったからだと挙げてくれていた。それ故に、最後まで遂行者を担えたのだと思われます。
そんな彼らの考えを超越していた。常に悩む様に、こちらの話を窺い続けていた。まるで私の心中を見透かして来るかのように・・・。それは紛れもなく、恐怖そのものでも・・・。
何故彼がそこまで徹底していたのかを、今は思い知っています。そうしなければ、自身が堕落する事を思い知っていたから。警護者の生き様を通して、私が経験した愚かな遂行者と同じ輩を、嫌というほど見て来たからに過ぎなかった。
烏滸がましいですが、私はそれなりの存在であると自負しています。しかし、彼の前では幼子の様に感じてしまう。対峙した時は恐怖で一杯だったのですが、今はもう感嘆とするしかありません。むしろ、創生者たる存在を、彼から思い知るかのようです・・・。
力と言う概念にも、並々ならぬ思い入れがあるようです。今までの遂行者は、私が持つ全ての能力に目を白黒とさせていた。初見時は怪訝そうな表情をするも、その圧倒的な力を目にして媚入る様な表情に変えていった。
人間や他の生命体が、どれだけ強欲の深い存在なのかと思い知りました。特に人間が一番酷かった。中には遂行者の力を使って、完全なる私利私欲に走る愚物すらいた。他者を救うために与えた力を履き違え、欲望の限りを尽くし、他者に害を成す存在に至った。
その様な存在は、流石に看過する事はできません。即座に力の剥奪行い、その存在を消滅させる事にしました。そう、文字通りの消滅。執行猶予として魂は残したものの、それらの存在は再び愚行を犯す事が多かった。二度目はない、そう告げたのにも関わらず・・・。
その様な愚物は、魂すら消し去るしかない。何れ害に及ぶなら、致し方がなかった・・・。
だが、彼は違った。私から全ての力の様相を伺い、その場に座り込み思慮を重ねる。時間があると窺い知った事により、より一層の吟味を始めた。それだけ、私の力に真剣に向き合ってくれていた。
力を持ち過ぎる者は全てを壊す、彼はそう言ってくれた。かつての遂行者達は一部を除き、その全てが言葉通りの末路を辿っている。彼が常々懸念しているのは、愚者道に走らない事を心懸けているからなのだと思います。
そして、3つの選んだ力にも驚かされました。身体超再生・状態異常無力化・回復魔法群。不死が不可能とあるからでしょう、人体の再生能力を高める事を行ったようです。四肢の欠損など、普通なら考えられないもの。それを実質的に無力化するものです。
状態異常もそうでしょう。自身が動けなくなる事を憂慮して、常に健全である事を選んだ。そう、この状態異常は実の所、己自身を律するのにも役立つ。私利私欲に走る場合は、大体が混乱に近いものになるのですから。
状態異常無力化は、それらの異常を一切起こさせない。つまり、彼は己を見失う事がない。それに、仮にこの力がなかったとしても、彼は己を見失う事はないでしょう。初見で見た彼の生命力が全てを物語っていた。
回復魔法群にも驚かされました。一見すれば、自身を維持する力でもある。ところが彼は、それらは護衛対象となる存在を支えるためだと言い切った。彼の中では、不幸に苛まれる存在を支えるのは、護衛対象そのものなのだと。
そして、彼自身が取得した個人スキル、金剛不壊。自身が死去に至る一撃を受けても、その一歩手前で強制的に踏み留まる。創生者たる私ですら恐怖としか思えない力に、ただ脱帽するしかありません。
それでも、決して奢る事がありませんでした。むしろ、私の“ドジ”な部分を見たのか、生易しい目線で見つめてきてもいました。聊か腹立たしい部分はありましたが・・・。
何処までも警護者の生き様に順ずる彼に、今はもう畏敬の念しか浮かびません。それに、私を心から案じてくれていらっしゃいます。創生者の生き様が、どれだけ辛いものかも確信ができました。
与えるもの、奪うもの。筆舌し尽くし難い役割は、私から一個人としての自我を抉り取り、徐々に欠落させていった。それが彼と出逢ってからは、“直ぐに”一個人の尊厳を取り戻す事ができた。
私は怖かったのでしょう、己自身を見失う事が。創生者の生き方を行う事により、自身が自身で無くなる事を恐れ続けていた。それを彼は一個人として接してくれた事により、一抹の不安や恐怖を取り除いてくれた。
何処までも、お節介焼きであり、世話焼きなのだと・・・。
今も眠り続ける彼を見つつ思う。今まで抱いた事がない感情が芽生えだしている。それが俗に言う、恋心というものでしょうか・・・。
彼を召喚できて、本当に良かった・・・。いや、遂行者の役割を担ってくれて、本当に感謝している・・・。彼・・・貴方でなければ、“この道”を進む事はできないだろう・・・。
今度こそ・・・この道を遂行させてみせます・・・。敬愛なる貴方と共に・・・。
~ティルネアの視点、終了~
第2話へ続く。
自前作品初の、第2者視点の描写でしたm(_ _)m 台詞はありません。今後の他のキャラの場合も同じになると思います。と言うか、全体的に同話をダイジェストで振り返る感じでしょうかね@@;
しかし、ドジっ娘の創生者って、大丈夫なのかと不安になりますが><; まあ、それも醍醐味の1つかも知れませんね(何




