序章
見切り発車にもほどがありますわよ奥さん!
社畜がちまちま書いてるので見直し等全くできておりません。申し訳ない。
「伊織はさー、大学卒業したらなにするの?」
これは夢だ。もう十年近くも前のことを、今でも夢にみる。姪の一泊二日の校外合宿がおわり、姉の美琴と一緒に迎えに行った時のことだ。
「別に……。まだ二年だし特になにも考えてねーよ。」
後部座席で寝入ってしまった姪の絢璃を起こさないよう小声で答える。合宿が楽しかったようで散々はしゃいで色々話していたが、今は大人しく寝ている。
「デザインの勉強だって、できそうだからやってるだけでそれで一番とれるわけじゃねーし。」
「一番にならなくても食べていけるならなんだっていいのよー。」
気楽に返答する年の離れた姉にどう返答しようか迷った挙句、俺はだんまりを決め込んだ。
助手席からみる夜景をボーッと眺めていると、姉がポツリと言った。
「この子の父親は頼れないから、伊織にはいっぱい頼っちゃったし、色んなもの背負わせちゃってる。大学も家から通える国立行って奨学金も取ってくれてるし。せめて就職は自分の好きなこと、やってもいいんじゃないかな。勿論、生活していけるほど稼ぐ事前提なんだけど。」
「いいよ、別に。俺が好きで背負ってるから。もうすぐ二十歳だし、そんな子供扱いしなくてもいいって。言われなくても好きなところ就職するし。」
両親を早くに亡くし、高卒で働いてくれる九歳離れた姉を支えなくてはと本気で焦燥に駆られたのは姪の絢璃ができたと報告された時だった。以来、自分でできることは出来る限りやってきたつもりだ。
「私に何かあったら、絢璃が頼れるのは伊織だけなの。あの子のこと、よろしくね。」
「……なんだよ、姉さん。ちょっと今日おかしいぞ。」
胸のあたりがざわざわする、腰から背中、二の腕、首にかけてぞわぞわと何かが上がってくる感覚。車のシートにもたれた身体が穴に落ちそうな感覚。
今でもはっきりと覚えてる。あれはきっと虫の知らせだったのだろう。
その後、覚えているのは内臓ごと揺さぶられるような衝撃と、生温い液体が垂れる感覚、姉に手を握られ自分が持ってたものが取られ、『なにか』を姉に入れられた感覚だった。
ふと目が覚めると、まだ太陽がうっすらと空を染めている時間帯だった。二度寝しても寝れる気がしなかったので、諦めて朝食を作る。絢璃の弁当を包み終わったところで絢璃が起きてきた。
「伊織兄さんおはよ。今日仕事?」
「いや、今日は在宅だよ。」
「今日も、の間違いでしょ。たまには外に出なよー。身体に悪いし。」
「窓越しに日差しを浴びてるから大丈夫だよ。」
笑いながら絢璃はパクパクと朝食を食べていき、さっと準備を済ませて仏壇の前で姉さんに挨拶をしてから高校に向かう。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。」
絢璃を見送ったあと、階段を降りて店を開ける。琴璃屋と書かれた看板を出して、店のテーブルに座って本業をこなすためノートパソコンを開き、コーヒーを飲む。どうせこの店は副業として始めたため、儲けが出なくても別にかまわない。駅から徒歩十五分、小さな路地の奥、古い二階建て。一階は店で、二階は住居だ。店の扉を開けるとテーブルと椅子、その隣に棚があり、綺麗な石がいくつか置かれている。一見なんのお店かわからないが、壁の張り紙には一言、【貴方の体質、入れ替えます】とある。
「さーて、今日もやりますか。」
伸びをして、伊織は本業のウェブデザインの仕事に取り掛かった。
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