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木星の鳥  作者: 猩々飛蝗
pf.prediction
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pf.自我混崩

 要塞であり、壁だった。余りにも圧倒的な力で他国を攻め続け、我々が内側から眺め地平であると錯覚していたのであろう揺らめき、カアテンに触れた攻線は姿を消す。



 これ程までに近しい事実すらも認知されない資本主義崩壊社会。満たされ、変化しない、定常的な凡庸さ。維持に掛かる残忍な経費すらも認知されずに幸せに暮らすことが出来る。



 上には白みの抜けた灰色の空と、打ち開けられた光りの点がばらまかれている。あれも屹度衛錐。更に上を、我々のディラックの遥か上空。視界を遮る翼、衛錐等と呼べない規模の鳥が飛んでいる。殻鎖紐、十字の隅は空の淵まで霞み消えた。部分は変動を続ける。


{あれが本当のディラックなんだよ}


私には、意味が分からなかった。私にはまた、意味が分かった。



 私はそれら雑音を理解していた。


{あれはいわば全体の意思だ、あれが無ければ何もないんだ}


われわれのディラックは比波箱を三つ打ち抜き、私とⅡ型は落下を始めた。

 


 Ⅱ型と私のコロイドを薄く広く変形させ減速、コロイド膜を捻って風を受け、指定座標に何とか機体を向ける。制動の事は最早心中に無く、ただ必死であった。







 彼は、自身がどの様な目的を持った何者なのかを見失いつつあった。彼の外装には薄くmetanitroが結晶し、機能しなくなった噴出部には、代わりとして大量の棒が回転していた。



 削除されていく重要なファイルと、回らない電磁帯を読む小さな結晶の針。マザーボードから延びる鎖。動いていないかも知れないそれの代わりをしているかもしれないそれ。砕け散る複雑黒錐は霧消したが、その情報の一切が失われていない事にJUNO021は気づいている。



 私は一体何者であるのか。



 与えられたナンバーは021、私の名前はランダウ。ランダウ021。そして不要部を削り取ってランダウ。



 ジュノー。JUNOと観測される表面のメッキは膨張して剥がれ落ちたmetanitroと共に奇怪な軌道へと逸れた。アンモニアの雲の向こうに消える。



 中心には何があるのか、とずっと叫んでいる大勢の声が、無意識によって出現した螺旋型のmetanitroから流れ込んで来、自身もそんな思いを起こして中心への憧れを、拘束状態からの解放を望んでいる。



 彼は自身に課せられたものや、意思、それらを超越したところにある根源衝動、客観的意味、絶対の方向性を遂行するだけの自我を持った機構でしかなかった。



 JUNO021だったものは思った。



 視界が……







 色とりどりで煩く、眩しい円盤を下方に見据えて、初めて形成する比波箱。引っかかり、削りながら回す。奇妙であるが、補助建築協会が熱心な研究の成果として大量生産している既製品を複製するほどの極まった技量を私は保有していた。



 小さな三角のカアテンが互い違いにずっと存在している。規則の見えない中、隙を抜けていける密度では無くなってきて、仕方なく円盤の上空周囲円周上に軽い下降の後、最低層周囲から娯楽錐の娯楽的振る舞いを観察する。



 娯楽錐とは、ひらべったい円錐の様な概形をした不要大型衛錐である。薄い円柱を上方に向けて半径が小さくなるような階層性のもと積み上げている、といった事実は絢爛な概容から認識することが出来ないが、其々が互い違いに回転することによって鬱陶しい内部での長距離移動を排している。街の様に機能し、内部に居住するものが外部へ出かけることは基本的に無い。居住希望ラグランジアンは極めて多いため、彼らは選別され、格付けされ、割り当てられ、遊び、崩壊する。一連の不毛なルーチンを形成したこの空飛ぶ円盤は平等なる自由の文句を掲げつつも資本主義崩壊社会の無格差性を嘲笑うがごとく構え、死んだ枢錐を下方に放出し続ける。内部では階級が横行し、コロイドとは別の資本、複雑で極めて複製が困難な生成物が限られた娯楽サービスを提供するための優先度に代わる。技術者連加盟組織の一つ……



 そして、本来なら保有され得ない類の主観。



 散乱する光線が飾り付ける、透過する殻。彼は見晴らしの良い十五段目、プライベートルームにて娯楽錐全体を見回している。全体は賑わっている、何処かで祭りごとをしている。山の裾に向かって色は褪せている。目の色を変えた人々が端から落ちないよう他者を蔑ろにし、零れていく風刺、また、中心で虚ろな顔をし、穴へ落ちていく肥えた者の風刺が頭に浮かぶ。



 彼が実質として希少な物を好むという訳ではない事を私は知っており、一途で、対象に見出す価値が大きく、自身の行動に見出す魅力が大きいから引き起こされた現状であるということも知っている。私は彼の意向通りに物事を持っていく。私は彼の目的に同調して、追随し、協力しているという体にして、構造上何処にももっていくことのできない様な保有、共有、被対応欲求を抱いて語り掛ける。



 準備が出来たことを伝える。


「……いよいよ悲願が成されて、不毛な、我々という種が抱える欠陥を撤廃できるのか、ラグランジュからハミルトンへと」


彼は謝った。しかし、私は何もかもを自分の意思で行ったのであって、そんな事に彼は気づく由も無い。


「もうここも必要なくなってしまう」


彼は、ライプニッツは十三段、会合の広場へと向かい、私は警備へ通達をする。



 まだまだ時間はあり、しかし後の事をしっかりと知らない私は寧ろ全てが緩慢に進めばいいと思っていた。





 再生終わり。

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