pf.Conference
凡例として、
・『』内は再生事項、即ち作中時点で過去に起きたことです。
・「」内は普通にセリフです。
他にも出次第。
JUNO021は無人探査機であるが、自身の乗組員を兼ねている。彼はJUNO01、まだ木星の均一性が広く信じられており、No.の最大数が99に設定されていた頃から、JUNO020迄の記録、更に必要と思しき記録を全て搭載している。その全ては回転する磁石帯に入っている。
JUNO021は暇人である。人類である。人種を持つ。生まれと、常識を持つ。意向を持ち、欲望を持つ。だからJUNO021は自身が無人探査機であることを不満に思っている。厳密には、自身に乗組員はいないが、自身ですらそれに近いものでしか無いと認めているが、自身が人類であることは確信している。
コップの中には、何も入っていない。
ではコップは入っていないのか?
JUNO021はこの命題の精査に任務以上のメモリーを費やして、暇を潰している。
JUNO021はpf.Conferenceにおける七番目の動画ファイルを閲覧し始める。
『
「発表者、J.J.片桐、発表題、木星における窒素の異常な複雑性です」
パチパチパチ
「はい、ありがとう、ハロー、エブリバディ、(カメラの方へ向き直り)今晩は、インドネシアの皆さん」
パチパチ
パチ
……
拍手が止む。
片桐が両手を擦りあわせる。
「早速本題に入りましょう」
片桐が丁度左心室上にあるポケットから小さな瓶を取り出す。
その瓶を掲げ、聴衆の方へ振りながら強調し、スライドへ事前に撮影された瓶の動画が写し出される。
「窒素は極めて安定的な分子であり、アンモニア、アミノ酸等が化合される他例も少ない物質です」
窒素分子がCGで現れ、クルクル回転しながらアンモニアやアミノ酸へ化合していく。
「しかしこの瓶の物質、metanitroと我々は呼んでいるのですがね、ふざけた名前だ、これはmetanitro一分子を素単位として水素とその他微量の元素を含み縦横無尽な結合性を見せます、強力なγ線放射下に於いてですがね」
瓶内部の固形は既に無惨な空白に、気体と化していた。
「この様に単純かつ興味深い発見が成されたのが我らが地球ではなく、探査衛星による報告だというのは極めて不思議なことです、確かに地球上でこの物質が自然的に発生する可能性はゼロに近いが、化学研究者ですら気が付かなかったのだ、これは窒素の安定性への過信と言わざるを得ないでしょう、しかし、更に興味深いのはここからです……」
片桐が指を鳴らす。
スライドに写し出されたのは捻れ、回転する半結晶。
「この物質はとある熱源の吸収による放射と運動の結果自身を維持し、不確定に分化してゆく傾向にある、内部はとてもカオティックで詳しくは分かりませんが自然淘汰的傾向、生物的傾向を内包しているのです」
』
JUNO021は木星内部の精密な調査を行わねばならない。