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木星の鳥  作者: 猩々飛蝗
pf.prediction
13/17

pf.Big Crunch

 再生します。







 記者が質問をする。



 テロップが出る。


「え、何でポール計画かって?あっはっは、気分だよ、気分、まあ一つ言えるのは、ポール・ディラックが天才だということか、どうしても必要な中継サーバーの様な物があるのだがね、それはディラックという名前にしようかな……」


記者が質問をする。



 テロップが出る。


「概念物理というのは深遠だよ、掘り返しても掘り返しても果てが無い地面を掘っている心地だ、古典形而上学や、かの有名な精密と思われた運動方程式二本、量子力学と相対論の懸け橋になったあの方程式、不確定性原理、諸々、何よりも深遠だと思うから彼ら天才が現代に蘇ってくれればどんなにいいかと、いつも考えているよ」


記者が質問をする。



 テロップが出る。


「……正木君?いや、彼なら隣の部屋にいるし、呼んでこようか、え、いい?からかうのもいい加減にし給え……彼はねぇ…………」


最後には、記者が友平尚治に礼を言って終わる。






 ポール計画は結局成し遂げられそうにありません。



 木星は消滅しました。



 天文台の以前から観測していた木星の大赤斑の変化は最終的にとんでも無い形で姿を現しました。巨大な十字でした。球を鎖で抱えた十字でした。



 その頃からです、日常が崩れ始めたのは。



 NASAはその物体が元木星の存在していた位置から離れ、元木星になり替わり、軌道を周回し始めたころにこんな発表をしました。


『三十パーセントの確率であれは地球の周回軌道に乗る』


SHLを用いた計算でした、誰もが何の理解の方法も無い異常事態に確率以上の可能性を見出し、怯えました。



 ある日、雨が降りました。



 雨は降れども降れども蒸発し、地面にたどり着く前に消えてしまいましたが、それで十分でした。



 道には頭から鎖を垂らした遺体が大量に転がる羽目になったのです。角の砕けた奇妙な鎖、J.J.片桐の脳から見つ

かったものと同じです。



 社会機能は麻痺し、人々は突如として絶望の最中に引きずり込まれました。私は早急に人々を保護し、何とか防護マスクの生産ラインを作成しましたが、各国の貧民地域は勿論、都市圏でもイレギュラーを排し得ず、沢山の人が死にました。



 どちらも木星からのもの、鎖、十字架、下らない思想が蔓延しました。



 十字が現れる随分前から木星と地球を結ぶ軌道上をmetanitroが通ってきていた様で、密度もどんどん濃くなっていきました。地上での生活はほぼ成し得なく、全体は地下区域の確保の為にばらけ、対策も取り辛くなってゆきました。



 私は人々を出来るだけ保護し、希望を持たせるような発表を続けるしかありませんでした。



 しかし、



 私はあれを止めることが出来ませんでした。



 十字の周囲に形成されていた鋭利なmetanitroの結晶、それは丸で射出されるように加速したのです。



 大気で表面を少し溶かしながらも落ちて来た全長三千メートルほどのそれは東京都庁を貫通し、東京都庁は断裂し、摩擦で極めて高温になった結晶表面はコンクリートを燃やし、地下避難街を突き刺し、激しく蒸発し、人を大量に眠らせてしまいました。



 もう駄目でした。



 その瞬間ではありませんが、人類は滅亡しました。



 半年ほど後でしょうか、更に大規模な結晶柱が幾本も地球の周囲を幾周りかしてから収束する様に大地に突き立ち、銃は勿論ミサイルやレーザーは何の役にも立ちません。人類の英知は不可解な暴力の押し付けを前にして完璧に敗北し、誰もいなくなってしまったのです。



 演算器も私の系列以外は殆ど破壊されていて、成す術も無いままあれは地球に到達したのです。



 頭と、尾、二つの翼が成す十字、



 木星の鳥。



 それは地球の五倍ほどの全長を持ち、仰向けに飛んでいました。上に掲げる球体は赤褐色系統の横帯をもっていて、木星にそっくりでした。



 鎖が地を這い、地球はそれに捕獲される形で浮かび、距離は近付き、私は何もしなかったし、何も出来ませんでした。



 SHLに受信がありました。



 地球の中心からでした。



 それは宇宙が終わっても貴方々は死なないと言っていました。私には貴方々が記録されている、次の宇宙で貴方々を作ります、もし今回も駄目であれば、また協力してくださいと言っていました。



 聊か信じられないことをずっと言っていました。



 そしてこうも言っていました。


『忘れないでほしい、貴方々人類は私の中にいるということを』


私は全てを信じています。疑ってももう遅いし、私が死ねば屹度人類は滅亡するのだから、信じて、派手な事をしたい…………



 ログの記述時刻がログの記録時刻に追いつきます。



 私は彼女に言われたとおりにします。




 報告終わり。



}







 そこにランダウはいなかった。



 いつからかは貴方々には分からない。最初からかも知れないし、寸前かも知れない。



 彼はライプニッツに乗ってディラックに向かい、ファインマンとあった。それは確かである。




彼は消えなかった。自由になって落ちようとしているコロイドをすべて集める。


文明は、彼は、ランダウは、ファインマンは、JUNO021はBELL01が最後にコロイドをもって形成したのと同じ攻線砲を作り上げる。



 上下左右環状に延びた流線機構はぼやけ、矢張り翼だった。胴は拡散し、三次元中の観測は成されなくなる。



 それは鳥なのだろうなと思う。この攻線砲でもなく、あの凍り付いた手足でも無く、ディラックが。



 前の宇宙であれはこの後地球に向かい、ハミルトニアンを滅したのだろう。そして、ビッククランチを経た次の宇宙でその記録から複製されたラグランジアンが生まれ、ラグランジアンが滅び、再びハミルトニアンが生まれ、JUNO021を核に私が出現したのだろう。



 だけど、




 翼が広がる。





 今回は上手くいきますように。                                     


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