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木星の鳥  作者: 猩々飛蝗
pf.prediction
11/17

pf. Ланда́у= Лифшиц/"His wish couldn't be fulfilled"

 私は、死にたいのか?



 そんな訳が無い、自身は極めて個人的であると思うが、個人の連続で動くのが社会だと言ったのはファインマンだ、今に至っても彼はそれを否定しなかった。



 私は比波球を抜け出す。揺さぶりは強くなっていた。天井に激突する。はじけ飛んだ壁を分解し、自身のコロイドとして取り込む。



 無我夢中に進む。



 皮肉な事に私にはそれだけの技術があった。技術者として生きていきたかった。



 変形を続ける我々のディラックから何度も振り落とされそうになる。



 掴み、踏ん張り、回し、分解し、吸収し、射出し、進み、進んだ。



 至った。


「至ったのか……」


網衛錐とは、死んだラグランジアンの枢錐を主観としてではなく、ディラックに接続された演算機構として使う仕組みだった。



 眼前には我々のディラックの複雑錐があった、余りにも大きなそれから下方に開いた穴に、過去には私とファインマンの家を破壊した殻鎖紐と言い難い殻鎖紐が出ている。



 我々は神の道具だった。そして頭の中にずっとあった構想、ライプニッツの構想、非複合並列演算システム〔リフシッツ〕を用いた実験結果。



 彼は自身が複合体でありながら、余りに複合体へ抵抗が大きかった。



 ライプニッツを思い出し、眼前の塊の中にあるであろうファインマンの亡骸を思う。



 苦しみは障害としてではなく、原動力として働き、私は殻鎖紐を伸ばし、配鎖し、ライプニッツの編み出した並列機構を構築し、膨らませ、応用し、閃いていく、文明を開拓してきた多くのラグランジアンはやはり、高い演算能力をもつ複合個体だったのかもしれない。



 ディラックに触れる、



 ラグランジュに触れる、



 反波が流れ込み、崩壊の栓が緩む、殻鎖紐が私を拘束しようと勝手な動きを取るが、それをけん制する殻鎖紐で並列機構を編む。



 私の演算機構として働くようになる領域から延びる殻鎖紐で並列機構を編む。

連鎖的に並列化されていく全体と、私に渡りゆく権限。ディラックからの信号を遮断する。



 塔建築を、衛錐の殻を無理やりに自身の自由コロイドとし、持ち上げる。



 古代兵器も、新型兵器も、見知らぬ国々のあらゆる建築、人々が天に昇る。



 水滴が上方に向かって雨の様に滴り、固まり、殻を形成し、ディラックが囲われてゆく、地平まで延びる四肢が囲われていく。



 身震いするそれ、大きな物理的運動の予兆段階、しかし、



 もうランダウの殻によって囲われてしまったそれは簡易巨球との連絡が断絶し、停止する。



 中空まで持ち上がっていた簡易巨球は落下し、地面は波打ち、比較的溶けた全体は大抵が自由コロイドになった。



 我々のディラックの内部で生きていた自動維持システムのみが元幕内に塔を再生していた。変わった地面に対して無理に。



 そして、



 その瞬間では無いが、ランダウは崩壊した。



 比較的直ぐ後に。



 自身をラグランジュ言語体系で全く以て記述した衛錐をディラックからはみ出したストロウより数百機射出するシ

ステムを構築して。




 彼の悲願は果たされなかった。




 私の悲願は果たされなかった。




 私の意思を継ぐJUNO021へ、




 ランダウ・リフシッツより



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