0002話「腕試し」
久しぶりに書きました。
忘れている訳ではないのですが、魔法の設定で四苦八苦中です。
コロッセウムの控室ではスマホウをコロッセウムに接続する為にある。
幻人はまず、スマホのWifi接続を行い、コロッセウム内の専用回線に接続する。
接続する為の情報は、この控室に用意されているので、接続そのものには問題がない。
ちなみに、上級者ほどスマホウ用のスマホを用意している。
スマホ。つまりスマートフォンは基本的に「携帯電話」なので、電話がかかってくる可能性がある。なので、かかってくる電話をスマホウのアプリも拒否する事はできないのだ。
いつでもどこでも、ゲーム中にも電話がかかってくる可能性がある。そして、コロッセウムで電話がかかってくると非常に厄介だ。
実際にコロッセウムで戦闘中に親から電話がかかってきたプレイヤーが誤って電話に出てしまい、そのチームはボコボコにされたそうだ。
なので、今ではほとんどのスマホウ愛好家は、スマホウ専用スマホを持ち歩き、それで楽しんでいる。
さて、幻人はwifiに接続された事を確認し、スマホウを起動。メニューから「コロッセウム接続」を選択。
『紋章を掲げ、コッロセウムに接続して下さい』
スマホウから音声ガイダンスが流れ、コロッセウムとの接続を促す。
スマホウの画面にはQRコードに似た、しかし、全く違う模様が浮かぶ。
それは一種の魔法陣にも似た、不可思議な文様だ。
すかさず、その紋章を壁に設置されたカメラに向ける。
『接続確認。プレイヤー名:黒々猫』
それを聞いた瞬間に、すぐに自分の準備を始める。
スマホにマイク付きヘッドホンを接続し、腰につけている充電器からのケーブルも接続する。スマホは左手に持つ。
ちなみに、他のメンバーは左腕に専用ホルダーを装着している。ホルダーには標準装備されているバッテリーがあり、そのケーブルをスマホに接続する。
スマホウはバッテリーを非常に食うゲームなのだ。
スマホを手に持ってプレイするスタイルは、初心者か幻人ぐらいだ。
中級者以上は、基本的に腕に固定するホルダーや、サードパーティーかが販売しているマジックステッキの形状をしたホルダーに固定したりしている。
耳にマイク付きヘッドホンを装着し、軽くマイクに向かって自分の音声が聞こえるかの確認をする。同じようなタイミングで、他のメンバーのマイクテストも聞こえてくる。
チーム内の会話は、スマホウを介してできるので、この時点で全員が準備が出来ている事が確認できる。かなり便利だ。
すぐにヘッドホンからアナウンスが聞こえる。
『チーム:ブラックファンタジー全員の接続が完了したことを確認。ステージへ向かってください』
そこで一応周りを見ると、他のメンバーもちょうど準備も出来た所のようだ。
お互いにアイコンタクトをとり、揃ってステージに出る。
控室が暗いわけではないが、ステージが明るすぎるため、明るい光で一瞬目が眩む。
すぐに目が慣れ、相手もちょうどステージに出てくる所なのを確認した。
改めて、メンバーを見渡し、予め決めていた定位置にそれぞれが向かう。
対戦相手から向かって右から順に智、鏡子、幻人、茜、法子の順に一列に並ぶ。
「準備はええな?」
幻人が左右を見ずに、マイクに向かって声をかける。
「大丈夫よ。今日の作戦は難しくないからね」
「しかし、油断は禁物だぞ。『驕る平家は久しからず』とも言うしな」
「どういう意味やねん、それ・・・」
「それはだな・・・」
「ちょっと!そんなん後々!!始まるよ!」
相手チームも位置に付いている。両チームが位置に付き、全員の静止状態が3秒確認できた時点でゲームスタートの合図がアナウンスされる。
『レッドステージ、チーム「デストロイヤー」 Vs ホワイトステージ、チーム「ブラックファンタジー」。試合開始、5秒前、4・・・3・・・2・・・1・・・スタート!!』
10人が同時に呪文の詠唱に入る。
「我を守護せよ!『シールド』!」
「我を守護せよ!『シールド』!」
「我を守護せよ!『シールド』!」
「我を守護せよ!『シールド』!」
「我を守護せよ!『シールド』!」
デストロイヤーチームの5人は定石通りにシールドを発動させる。
それぞれの魔力が各プレイヤーから紡ぎだされ、それぞれの目の前に円形の透明な、それでいて、そこに存在していることが分かる薄く色のついたガラスのようなシールドが構築されている。
呪文詠唱からシールドが発現するまでは約3秒。試合開始からは約6秒だ。
スマホウは呪文を詠唱すると、その難易度によって発動までの時間が変わる。
初期レベルの呪文を普通に唱えた場合はおよそ1秒。
呪文の前に唱える枕詞と言われるセリフ、デストロイヤーチームの呪文の場合は「我を守護せよ」がこの枕詞にあたるのだが、これを詠唱することにより呪文は強化され、「守護せよ」だけであれば2秒、「我を守護せよ」と長くなれば3秒という具合に、枕詞が長くなればその分発動までの時間が長くなる。
つまり、基本的には唱える呪文の長さに比例して、発動までの時間もかかるという訳だ。
なお、この枕詞は決まりがない。だが、長ければ良いという訳ではなく、呪文に沿った内容でなければならないのだ。
さらに、自分の守護神の影響を加味する事も出来るため、単なるシールドの呪文でも多様な呪文のバリエーションが存在し、また強度も変わる。
これらの呪文の探求がこの「スマホウ」の魅力の1つとなっているのは間違いない事実だ。
そして、コロッセウム内で唱えられた呪文はマイクを通して外部にも聞こえるようになっている。
もっとも、プレイヤーが呪文を知っていても、ゲームのキャラクターとして呪文を知らなければ呪文を使用する事はできない。
また、使用するにしても上級の呪文には「使用条件」が存在することが多く、簡単に使用できるようにはならない為、呪文詠唱の秘密が漏れてもあまり問題にはならない。
特にこの上級呪文に関しては色々と謎が多く、全く同じ呪文を全く同じ枕詞を使って使用しても、結果が違う事がよくあるのだ。
ちなみに、呪文詠唱には身振りは関係がない。開発側からもそのように言われているが、ほとんどのプレイヤーは思い思いの身振りで呪文を唱える。
これもこのゲームの魅力の1つとなっており、専門誌にはその身振りを競うコーナーもあるほどだ。
ブラックファンタジーチームの5人も定石通り・・・というか、作戦通りに最初にシールドを唱えるが、その呪文の詠唱が全く違う。
「煌めく星、欠片を集めて、我が身を守れ」
「我が身に宿りし魔の雫よ、仇なすものより守れ」
「契約に従い、白き光と成りて我を守れ」
「我が熱き心をもって、我を護る盾となれ」
「我の本能に従い、迫る受難を討ち払え」
まだブラックファンタジーチームのシールドが発動する前に、デストロイヤーチームはシールドの呪文が発動したのを確認し、次の呪文を唱えている。
「『ライトニング・バインド』!」
「『ファイアー・ボール』!」
「『エアー・ストライク』!」
「『アイスロック・アタック』!」
「『ストーン・クラッシュ』!」
どうやら、攻撃呪文を速攻で行使し、こちらの耐久力を削ってくる作戦のようだ。
それぞれの呪文が承認され、先ほどと同じように各人から魔力が供給され、呪文発動へと向かっている。
デストロイヤーチームが2つ目の呪文を唱え終わり、呪文がもうすぐ発動しそうになっている。
しかし、ブラックファンタジーチームは全く焦ることなく、魔法発動に必要な最後のワードを唱えるため、全員が左腕を各人の前に突き出す。
「『シールド』!」
「『シールド』!」
「『シールド』!」
「『シールド』!」
「『シールド』!」
発動させた瞬間、瞬時にブラックファンタジーチームの目の前に透明に、しかし薄く輝く縦長の長方形が現れる。
ブラックファンタジーチームが呪文を唱えるのに約5秒。
呪文が発現するまでに約4秒。
この時点で試合開始から約9秒。
そして、試合開始から6秒後、デストロイヤーチームは2つ目の呪文詠唱に約2秒。
呪文発動には約2秒なので、まだ攻撃は完成していない。
「「「おぉぉぉぉ!!!!!」」」
会場全体からどよめきか聞こえる。
ブラックファンタジーチームのシールドは、隣のシールドと融合し、横長の一枚のシールドとなって発現したのだ。
通常のシールドは、デストロイヤーのメンバーの様に、各自のプレイヤーの前におよそ直径1m程度の円形で発生し、シールドが連結される事はない。
ブラックファンタジーチームのシールドが完成したその1秒後、デストロイヤーチームの魔法が発動し、攻撃魔法がブラックファンタジーチームに襲い掛かる。
しかし、そのどれもが先ほど出現した長大なシールドに塞がれ、1つも有効打にはならなかった。
普通、攻撃魔法を受けたシールドは、攻撃を防ぎきってもいくらかのダメージを受けて、薄くひび割れしたりするのだが、今の呪文では全くの無傷のように見える。
デストロイヤーチームの面々は一瞬、驚いた表情になったが、紅一点のリーダーが何やら指示を出したらしい。
すぐに呪文を唱え始める。
「『ライトニング・バインド』!」
「『ファイアー・ボール』!」
「『エアー・ストライク』!」
「『アイスロック・アタック』!」
「『ストーン・クラッシュ』!」
先ほどと同じ呪文を続けざまに唱える。
その間、ブラックファンタジーチームはそれぞれに呪文を唱え始める。
「数多のきらめく星を治める存在にして主神。その瑠璃色の輝きを我が身を通して力を示せ」
「魔の理を総べる者。その紫紺の魔力を足元より螺旋を描いて我が身に纏わせよ」
「慈悲深き赤。溢れ出る赤き情熱、渦巻く朱色の光弾となりて我が目の前の敵を打ち払え」
「総べてを浄化する白の光。溢れるすべてを覆いつくす光量を持って敵を狙い打て」
「闇に隠された黒をつかさどる心。何物にも染まらない硬き心の黒の力を持って敵を圧倒せよ」
デストロイヤーチームが2回目の攻撃呪文を唱えてから約4秒後、先ほどと同じ攻撃呪文がブラックファンタジーチームを襲うが、すべてシールドに防がれる。しかも、まだ余裕があるようで、どこにも亀裂やひび割れが発生していない。
ここにきて、デストロイヤーチームが焦りはじめる。
「おい!洒落にならへん強度やで!!」
「落ち着いて!だったら、その強度を上回る攻撃をすれば良いのよ!」
「呪文レベル4ぐらいか?」
「そうね。それぐらいで行きましょう!!」
呪文レベルとは、発動までの時間の長さで示しており、呪文レベル4ということは、呪文詠唱後に発動まで4秒かかるという事だ。
デストロイヤーチームはそれぞれに攻撃力の高い呪文を詠唱し始める。
「天空を覆う数多なる星々の瑠璃色の光!全てを束ねて我が前に現出せよ!」
「我が身に宿る紫に染まる魔力!深淵の縁にて破滅の波動を抱け!」
「陽光に秘められし全てを浄化する白!悪しき心を滅する道標となれ!」
「紅き月光に揺らめき立つ熱き心!敵を穿つ紅き焔となって敵を殲滅せよ!」
「その月光は黒!暗き破壊の力の象徴を我が前に集め核となせ!」
しかし、デストロイヤーチームが呪文を詠唱している最中も、ブラックファンタジーチームの呪文詠唱は続いており、今まさに最後の力ある言葉が紡ぎだされた。
「『瑠璃色星間波動』!」
「『深紫魔破滅弾』!」
「『情熱赤聖光』!」
「『白光浄波理力』!」
「『黒力滅砕圧力』!」
幻人達のそれぞれがゲーム中で見つけた魔導書を、それぞれが数冊持っており、その中でも上位の攻撃魔法を詠唱していたのだ。
しかも力ある言葉の前に、特殊な枕詞・・・幻人達は「ガイド」と呼んでいる・・・魔力を導く呪文の詠唱を行っているため、即座に呪文が完成し、蒼、紫、赤、白、黒の魔力がそれぞれから立ち上がり、激しく発光しながらデストロイヤーチームに襲い掛かる。
デストロイヤーチームが展開していたシールドの存在も空しく、激しい爆音と閃光がコロッセウム内にあふれ、静まった時にはデストロイヤーチームの背後のディスプレイが「GAME OVER」の文字を表示していた。
『チーム「デストロイヤー」の全滅を確認。チーム「ブラックファンタジー」の勝利です』
ゲームの開始からわずか25秒。文字通り秒殺の展開となった。
「つ・・・つえぇ・・・」
「まじ、強すぎ・・・」
相手チームも観戦者も、あまりの展開にほとんど声もでない。
「結構うまくいったなぁ」
「ホンマやねぇ。時々、魔法が融合していたのは記憶にあったけど、意識的にできるとは思ってへんかったわ」
「う〜ん・・・どうもね、魔力を15以上消費する同じ呪文は、枕詞の内容によっては融合し強化されるみたいやねん」
「我が作戦通りだ」
「・・・違うと思うなぁ・・・」
それに反して、ブラックファンタジー、幻人達は和気あいあいと控室に戻っていった。




