0001話「新たなゲーム『スマホウ』」
やっと本文が出来ましたが・・・
世の中には色んなゲームが存在し、それらを題材とするアニメがある。
ゲームやアニメでは、キャラクターの行動によって色んなエフェクトがキャラクターを纏い、見た目にも現象がわかりやすく表現され、視聴者を楽しませてくれる。
例えば、火炎弾の魔法を発動させると、炎の塊が現れ、敵に向かって高速で移動する。命中しても外しても、派手な爆炎が生じてその威力を物語る。
しかし、それらは全て画面の向こうの話だ。現実の世界には火炎弾なんかは現れず、派手な爆炎も生じることはない。
なによりも、ゲームでは魔法の発動はコマンドを入れてゲームに命令を出すだけだ。画面の向こうでは呪文を唱えている魔法使いがいるが、それはプレイヤー自身ではない。
そんな中、新しいゲームがリリースされた。
「スマホウ」
スマホと魔法をくっつけた、非常に安直なネーミングのゲームだ。
リリース当初はほぼ誰もプレイをしなかった。ゲーム名の安直さもあったが、問題はそのゲームシステムにあった。
「マイクに向かって呪文を唱え、魔法を発動させて、敵を攻撃する」というゲームシステム「リアル・スペル・アタック・システム」が導入されていたからだ。
つまり、魔法だけで攻略するゲームで、さらにはコマンド入力ではない、「呪文を実際に唱える」ことでゲームを楽しむのだ。
当初、スマホに向かって呪文を唱える姿が、異様に見え「気持ち悪!!」と言われていたため、なかなかユーザも増えなかった。
しかし、数ヶ月後に新たな「ステージ」が発表されたことにより、一気にユーザが増える。
ゲームのプレイヤー同士が直接競い合う特設ステージ「コロッセウム」。
このステージでは、ゲームで入力された魔法が特殊な映像技術を用いて表示され、リアルな視覚情報としてプレイヤーや観客に見せる事ができるのだ。
しかも、同時に音と攻撃の衝撃の代わりに風圧も発生させているので非常にリアルだ。
ゲームでのプレイや、コロッセウムでの対戦中は、呪文を実際に唱えて魔法を発動させるので、プレイヤーがキャラクターになりきってプレイできる。また、コロッセウムでは、観客もエンターテイメントとして十分に見応えのあるものを堪能できるとして非常に人気が出たのだ。
コロッセウムが発表されてすぐに、実際のプレイ状況がテレビで実況され一気に人気が爆発。
2年前には全国の各都道府県の主な市町村に1台から3台ずつぐらい設置され、多数のプレイヤーが対戦バトルを行い、かなりの盛況を見せた。
そして去年、第1回目の全国大会が催され、初代チャンピオンが決定。
5人制のトーナメントを勝ち抜き、優勝したのはチームは「ブラックファンタジー」。
メンバーは以下の5人。
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▼プレイヤー名:黒々猫
クラス:ウィザード
本名:天黒 幻人
スマホウのプレイヤーNo.00000001。
▼プレイヤー名:マダーレッド
クラス:プリースト
本名:本城 茜
スマホウのプレイヤーNo.00000002。
▼プレイヤー名:ジャスティス
クラス:ウィザード
本名:佐摩 法子
スマホウのプレイヤーNo.00000145。
▼プレイヤー名:ファランクス
クラス:エレメンタラー
本名:室井 智
スマホウのプレイヤーNo.00000099。
▼プレイヤー名:ミラー・エンジェル
クラス:サマナー
本名:本庄 鏡子
スマホウのプレイヤーNo.00000009。
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幻人が率いるチームであった。
そして、今日も5人揃って江坂に設置されているコロッセウムにやってきたのだ。
「マジック・アロー!!」
「エアー・インパクト!!」
「サモン・ケルベロス!!」
今日もコロッセウムでは呪文を掛け合い、熱い対決が繰り広げられている。
観客席もあるが、ロビーにも大きなスクリーンが設置され、10機あるコロッセウムの全てを視ることが出来る。
ちなみに、10機ものコロッセウムがあるのはこの江坂だけ。というのも、スマホウを開発した会社 D.Y.B.I.M.が、ここ江坂にある為だ。
去年の全国大会もここで開催され、当日はものすごい人で交通機関も一時的に麻痺したほどである。
「やっぱ人、多いなぁ・・・」
黒のTシャツに黒ジーンズに黒のキャップ、黒のハイカットシューズと、全身黒で統一した幻人がぼそっとぼやく。
その左隣りには赤のチュニックに黒のロングスカート、白のローヒールのサンダルを履いた茜。
幻人を下から覗きこむようにしながら、
「まぁ、しゃーないんとちゃう?ここはある意味『聖地』やから」
と、笑いかける。
幻人が人の多い所が嫌いなのを知っているので、なだめにかかる。
茜は幻人のいる所には必ずいる。自他共に認める幻人の彼女である。
一応、幼なじみの関係から、一歩進んで告白して付き合っているので、幻人もそう認識している(はずな)のだが、幼なじみ状態から一向に脱した気配がないのを、茜は非常に気にかけている。
本当は今も腕を組んで歩きたいと思っているのだが、幻人が「恥ずかしい」と言って嫌がるので二の足を踏んでいるのだ。
「そうやねぇ・・・でも、ここはコロッセウムが10機もあるから、まだ回転は早いよね?」
と、茜の反対側。幻人の右隣には淡いブルーのチュニックに白のジーンズ、白のローカットシューズを履いた鏡子がすかさず姉の茜のフォローをする。
茜と同様に幻人の幼なじみで、幻人が大好きで、姉の前でもそれを全く隠そうとはしない。
茜も最初は文句を言っていたが、今では「困ったなぁ」と言って苦笑するだけだ。
「だな。とりあえず、登録を済ませるか・・・」
頭を掻きつつ、登録する為に受付に行こうとする幻人の肩に、後ろからそっと手が置かれる。
「あ、幻ちゃん!ちょっと待って!俺がネットですでに登録してるから大丈夫」
白い歯を見せながら、爽やかな笑いと暑苦しいウィンクで自己アピールをする、見た目は文句なしのイケメン、白のTシャルの上に紫のジャケット、青のパンツに紫のローカットシューズを履いた智が幻人を止める。
「あれ?そんなん出来たっけ?」
「俺ら、あの大会以降は有名人になってるやん。俺らが下手に受付に行こうとしたらそれだけで混乱するからって・・・」
実際、今までもチーム「ブラックファンタジー」が対戦登録をすると、一気に対戦を望むチームが殺到し、受付が混乱していたのだ。
本来は公平性を保つため、現地の受付での参加登録が基本なのだが、彼らの場合、登録時に毎回混乱する為、やむを得ない措置となったのだ。
「そんな訳で、対戦が決まったらメールで連絡が来るで」
智の説明によると、メールはコロッセウムの施設に入らないと送信できないようになっており、専用のwifiに接続して行うのだそうだ。
一応、施設からは全員にメールによる対戦登録案内のメールが来ているはずなのだが、幻人と茜、鏡子はメールを見たのだが覚えておらず、結果としてチームのマネージャー的存在の智が、必然的にこういう対応してくれている。
「まぁ、手応えのあるチームがえぇねんけどな」
「最低でも500円の価値のあるチームでなければ困るわ」
白のシャツに黒のパンツに黒のパンプス。いかにも「才女」「OL」のような雰囲気の法子がメガネに手をかけながらつぶやく。
長いサラサラの髪は後ろでまとめてそのまま流しており、シャツは上の方は大きく開いており、胸の一部が見えてしまっている。しかも、ボタンをしっかりと止めているが、胸のサイズと合っていないのか、シャツの下からかなりの圧力で押しあげている。
今も周りの男子の目を一身に集めており、茜と鏡子もひそひそと、
「・・・また大きくなったのかしら・・・」
などと会話をするぐらいだ。
ちなみに、法子はチームの参謀的存在で、通称「委員長」。
実際に高校時代はクラスの委員長として、3年間職務を全うした経験がある。
スマホウが出た時にはクラスの委員長を務めていた。幻人と茜が始めた翌日にインストールし、ゲームを始めていた。
「実際に呪文を唱える」という行為は、現実的であるが現実からかけ離れた行動だ。なぜかそれに魅了されてしまい、あっという間にキャラクターレベルを20を超え、コロッセウムの存在を知った時にチームを作らなければと思ったのだ。
そんな時、偶然にも幻人と茜の会話を聞き、スマホウ仲間がクラスにいる事を知ると、すぐに仲間になってほしいと伝える。
実は、その時はすでに幻人と茜、茜の妹の鏡子で3人チームで行こうと話をしていたのだ。
それを理由に法子の申し出を断ろうと、幻人が申し訳なさそうに話をしようとした瞬間、「あれぇ?委員長もスマホウしてるの?僕もやってるよ?」の一言で智と一緒に参加する事になり、晴れて5人チーム「ブラックファンタジー」が結成されたのだ。
以降、法子は委員長の職務と学業とスマホウの全てをやりきり、高校を首席で卒業する事になる。
その努力の影にはチームの助けが非常に大きかった。
幻人曰く、「チームなんだから、スマホウ以外でもちゃんと助けあわなけりゃな・・・」
そんな訳で、クラス委員の何の役割もないのだが、法子が抱えてくる委員長の仕事を幻人たちは嫌がりもせずに、逆に楽しみながら法子と一緒にこなしていった。
幻人曰く、「まぁ、やんなきゃならんのやったら、楽しんでやった方がえぇやろ・・・」
法子はそんな幻人が好きだった。
最初は、単なるスマホウのチームメイトでしかなかったが、同じチームにいると幻人の良い所が色々とわかってくる。
とにかく、優しいのだ。
普段はあまり目立とうとする訳でもない。
勉強は割と出来る方で、成績はいつも上位にいる。
すでに茜の存在があったので、高校時代は遠慮していたのだが、大学入試の頃には鏡子の存在にも慣れ、幻人と茜の関係も盤石ではなさそうだと、隙間があったら入っていやろうと、そんな気持ちに変わり始め、今では隙あらば幻人と腕を組もうとする図太さになった。
茜も当初・・・というか、基本的に今でも嫌がるのだが、最近はそれにも慣れてしまい、時々放置してしまうぐらいになってしまった。
智も法子がチームに入ることがきっかけで入り、現在はマネージャー的存在だが、それ以前はあまり関わりのあるような事はなかった。
というのも、智はいわゆる「ナルシスト」と言われる部類の人間であったためだ。
しかし、極端なものではなく、基本的には付き合いも良く、学校行事にも積極的に参加する。そして、色々と気遣いの出来るので、クラスの女子には人気があった。
実際に何人にも告白されてもいたのだが、「今の僕はまだ途中やねん。やから付き合う事は出来へんわ。ごめんな」と断るそうだ。
何が「途中」なのかは、「僕の個人的な秘密だから」と教えてくれないのだが、丁寧に、済まなさそうに断ってくるので、女子の方も逆に申し訳ない気持ちになって、素直にあきらめてくれるのだそうだ。
実は智は、小学生1年から3年の間、幻人と同じクラスだったそうだ。
当時の智は控えめで、人見知りで、そして女の子と間違われるぐらいに可愛い男の子だった。
その話を始めて、「可愛い男の子」というフレーズで幻人と茜が「あぁ〜!!」と言って思い出したぐらいなので、かなり可愛かったのだろう。
可愛く、おとなしい男の子だったら、必ずそれをイジル男の子が存在する。
1年生の時にクラスの男の子数人から「お前、女やろ?」と言われて、パンツを脱がされそうになるイジメを受けていた。そこに幻人が現れて、その男の子達をボコボコにして助けてくれた。
助けた後、幻人は「もっと強くなった方がえぇんとちゃうか?」というと、智は「男なのに、可愛いと言われる自分が好きではないし・・・」と言ったんだそう。
そこで、「自分を好きになったら、強くなれるんやないか?」と幻人に言われて、自分が好きになるように努力しているのだそうだ。
ただ、その自分を好きになる努力の中で、どういう訳か幻人の事が好きになっていったらしい。
小学校3年で引っ越しをし、高校で偶然にも同じ高校に入学した幻人を見つけた時は、おもわず抱きついてしまったんだとか・・・。
「あぁ・・・あれか・・・」
と、思わずうなづいたのは法子だ。
実は抱きつかれたのは高校の正門前で、ちょうど学校が雇っていたカメラマンが、入学する新入生がどんどん入ってくる所を撮ろうとしていた時に、智が幻人に抱きついたのだ。入学式に参加する多くの人がそれを目撃し、茜は当然、そして法子も目撃していた。
その時の智が言ったのは、
「あぁ!!幻人!会いたかったよ!!」
だったのだが、幻人も茜も小学生の智に思い至ることもなく、智から開放された後も、別の意味で緊張を強いられた入学式を終え、クラス分けで智の姿を見た時は地獄に落とされた気がしたとは幻人の談だ。
「そんなに嫌がんなくてもえぇやんか・・・」
「あのな・・・今はそうでもないが、あの時は恐怖でしかなかったんやぞ?」
後にも先にも、男に泣きながら抱きつかれたのはあの時だけだ。
「なんで?幻人って強いやんか?」
「お前をイジメてた奴らは悪意だらけやったからな。ぶっ飛ばすのも遠慮はせぇへんかったけど、お前は悪意なんかないやろ?そんな奴をぶっとばせるかいな」
ちなみに、抱きついた瞬間はカメラマンがきっちり撮っており、翌年の新入生募集の一部を飾ることになる。
「で、『途中』って何なん?」
「僕はまだ自分が完全には好きになれてないと思うねん」
「・・・自分の事が完全に好きになるまでは、誰とも付き合わないつもり?・・・」
「そうや」
「・・・そうか・・・」
以降、この話題がチーム内で持ち上がった事はない。
「おっ!メールが来たぞ」
こまめにメールをチェックしていた智が、早速メールを確認する。
「ナニナニ・・・『1番コロッセウムへ向かって下さい。第6試合になります』・・・だとさ」
「今は・・・第4試合だな。っていうか、今から始まるところやん」
目の前の進行状況を表示している掲示板を確認した法子が、まだ始まるまで時間があるので少々がっかりしたようだ。
「そういや、第1って・・・上級者用だったよな?」
落ち込んでいる法子を尻目に、幻人が思い出したかのように茜に確認する。
「確かそのはずよ。今日は上級者が少ないんかな?」
施設内はかなりの人がいるのだが、申し込み後に割とすぐに対戦できるのは、上級者の割合がそんなに多くないと考えられるからだ。
「かもね」
「それにしても案内のメールが微妙に早いな」
「あぁ、それは『着替えられるなら、3階の更衣室をご利用ください』ってメールにあるからやろ」
「・・・コスプレ・・・ね・・・」
ほとんどのプレイヤーは、ゲームのキャラクターをイメージしたコスプレをして対戦をする。
しかし、幻人たちは全国大会の決勝トーナメントにならなければコスプレをしないとチーム内で決めていた。
理由は色々あるのだが、一番大きな理由は、
「あれって、持ち歩くのも面倒やし、着て歩くのも・・・ねぇ?」
だそうだ。
『ご案内致します。チーム「ブラックファンタジー」の皆様、チーム「デストロイヤー」の皆様、1番コロッセウムへどうぞ』
アナウンスが施設内に響く。
ブラックファンタジーの名前が出た瞬間、大きくどよめきが聞こえてきたが、致し方ないだろう。その対戦を観戦するのが目的のファンもかなり大勢いるからだ。
幻人達はそんなことは承知しているので、至って普通に第1コロッセウムに向かい始める。
「デストロイヤーって?」
対戦相手の事が気になる茜が幻人に問いかける。
が、一度も対戦した事のないチームを知っているはずもない幻人は首をかしげるだけだ。
「去年の大阪大会ではベスト8まで残ったチームだ」
さすが、チームの参謀を務める法子がスラスラと情報を教えてくれる。
「強いのかな?」
茜が首を傾げながら疑問を口にするが、誰も答えられない。
参謀の法子もさすがに情報は持っていないようだ。
「やりゃ分かるだろ?」
「だな」
幻人と法子が相手チームの情報にはあまり興味がなさそうに言うが、智はすかさずスマホで情報をチェックしていたようだ。
「一応、ネットには情報があったで?」
検索結果を幻人に見えるように示す。
「どれどれ?」
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■チーム名:デストロイヤー
▼プレイヤー名:ジャックナイフ
クラス:ウィザード
電撃系と火炎系の魔法を得意としている。
▼プレイヤー名:カラシニコフ
クラス:ウィザード
火炎系の攻撃魔法を得意とする。
▼プレイヤー名:スコーピオン
クラス:エレメンタラー
攻撃と防御の両方をこなす。主にシルフを使う。
場合によってはウィンディーネも使用する。
▼プレイヤー名:グラディウス
クラス:プリースト
回復系に長けた紅一点。
チームのリーダー的存在でもある。
▼プレイヤー名:モーニングスター
クラス:プリースト
主に防御を担当する。
もちろん回復も得意だが、まずは自分から回復するというポリシーを持つ。
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プレイヤー情報は基本的に名前と属性、簡単な説明のみが表示される。下手に情報を流すと、そのチームが不利になるからだ。
ただ、幻人達のような有名なチームは別だ。検索すると本名や得意魔法、守護神までが出てきてしまう。
今日もすでに幻人達のプレイを取材しようと記者がここそこに点在している。
ただ、施設内は基本的に取材禁止、撮影禁止、録音禁止だ。もし、違反がバレたら今後一切の出入りが禁止され、さらに大会にも出入り禁止になる。
もちろん、施設の外での取材には一切権限がない為、施設外は自由に取材が行えるのだが、派手で執拗な取材に対しては注意する事がある。
それでも一向にやめる気配がない場合には、情報を十分に揃えた上で、プレイヤーと一緒に法的措置を取る。
実際に、有名なスポーツ新聞紙や、有名な週刊誌の取材陣は早々に違反がばれてしまい、いまの施設内はスマホウ専門誌の記者だけが残っているという状態だ。
運営会社曰く、「プレイヤーの健全で自由なゲームへの参加を護る義務と権利がある」との事。
「・・・変わったプレイヤー名やな?」
幻人が情報を見て感想を言う。
「全て武器の名前だ」
相手チームのプレイヤー名を見てつぶやいた幻人に、すかさず法子が回答する。
「そうなん?」
「ジャックナイフは知っているだろう。いわゆる折りたたみ式のナイフの事だ。カラシニコフはロシア・・・というよりもソビエト連邦で作られた銃、アサルトライフルだ。本当はAK-47というのだが、よく設計者の名前で呼ばれる。スコーピオンは蠍・・・というよりも、これも銃の名前からだろう。Vz 61というのだが、別名が「スコーピオン」だ。グラディウスは剣の種類の一つ。モーニングスターは・・・お前たちも良く知っているだろう?」
「あのトゲトゲが付いたおもりをぶん回して、相手にぶつけて『プチッ』とする奴ね・・・」
智が面白くもなさそうにモーニングスターの形状を説明する。
ファンタジーゲームなどでは、主にプリーストが使用する、殴る為の武器だ。
「そうだ」
法子が腕を組みつつ大きくうなづく。
ボリュームのある胸がさらに強調され、周りの目をさらに集めている。
「しかし、プリーストが2人もいるのかぁ・・・」
「ちょっとやっかいかもな・・・」
「ガンガン攻めて、ガンガン防御と回復に徹するって奴だね」
鏡子と智、茜がそれぞれの意見を言うが、それは全員の認識でもあった。
「どうする?」
幻人が参謀の法子に問いかける。
「ふむ」と一言いうと、すぐに結論を出す。
「『プチッ』と行こうか・・・」
「なにそれ!?どんな作戦なんだよ!?」
擬音だけで説明されても、やりたい事は分からなくもないが、「どうするのか」が全く無い。
「最初の防御壁を構築し、それが崩壊する前に圧倒的な火力で押しつぶすというのだが?」
「やから、方法論を聞いているんやけど!!委員長!!」
「全員で最強のシールドを展開してだな・・・」
「やぁ〜かぁ〜らぁ〜!!最強シールドには呪文詠唱が長いんやから、その間に攻撃されてしまうやん!!」
「我々はかなりの体力を保持しているんやから、多少の攻撃では問題はないとちゃうか?」
「いやいや!相手の攻撃力が分からへんねんし、ヘタこいてこっちが『プチッ』とされたらどないすんねん!?」
しばらく、幻人と法子が喧々諤々と言い合いをする。
それを茜と鏡子は面白そうに眺め、智が二人の言い争いを聞きながら、静かに二人の意見をまとめる。
最終的には鏡子の考えた作戦を元に、幻人と智が補正をかけて最終的な作戦を立てるのだ。
しかし、今日はちょっと違った。
「『最強シールド』で『プチッ』とかぁ・・・ちょっと、試してみたいことがあんねんけど・・・かまへん?」
爽やかな笑顔を見せつつ、智が満面の笑みで4人を眺める。しかし、その目は笑っていない。こういう時の智は非常に危険な存在だ。
もちろん、相手チームにとってなのだが・・・。
『第1コロッセウム。第6試合を始めます。プレイヤーは入場してください。レッドステージ、チーム「デストロイヤー」。ホワイトステージ、チーム「ブラックファンタジー」』
ちなみに、赤と白なのかというと、ボクシング等ではチャンピオンは「赤コーナー」だし、相撲で勝ったら「白星」だしという事で、ステージのどちらも「勝ち」の意味のあるものにしたらしい。
『両チーム、ステージに入って下さい』
「手順は大丈夫?」
「今回は手順と言っても2段階しかないからな。問題ないんじゃないか?」
鏡子の質問に幻人が答える。
「手順を覚えているか?」の質問ではなく、「この作戦は大丈夫か?」の意味だったので、
「・・・ダメだった時はどうすんのよ?」
「そん時は僕が最弱シールドから最強シールドまでを順に張るから、他の間に全員で『プチッ』とやってくれればいいよ」
改めて聞き直したが、智が代替案をすぐに提示してきた。
「・・・最初っからそれが手堅いと思うんだけど?」
「まぁまぁ、いいやんか。これも研究の一貫よ」
拗ねる鏡子をなだめるように、茜が楽しそうに言う。
「んじゃ、行こうか?」
幻人がステージへの扉を開き、コロッセウムへと足を踏み入れた。




