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正直なところ、私の心は真田君の方に向きつつあった。もちろん、それまで的場君の方が好きであったことは嘘ではない。彼の勉強に打ち込む姿。少しこけた頬。擦り傷。衣装を着て応援団の練習する姿。そのどれもが私の官能を刺激する。テレビで、似た俳優がドラマに出ていればリビングに行って録画し、本の表紙の二次元イラストが彼に似ていればいくらでも散財した。私の恋心は、やや純情気味に展開していたと、見ていたであろう神様も納得してくださるはずである。
しかし、それほどまでの心の在り方も、冷めてみればあっけないものであった。結局、人気のアイドルが歌っている、あの性欲溢れる歌の歌詞に出てくる女と私は相違がないのかもしれない。真田君と一緒に飲んでいる、このサイダーの炭酸のように気が抜けていく。あっさりとした後味の悪さを残して、次の飢えと渇望に身を任せるしかないのだ。
「手でもつなごうか。」
提灯の明るい光を後光にして、真田君が私に微笑む。私は、そんな気はない。ただ仕方なく来ただけだとそっぽを向くが、強引に私の右手を握る。
「決してやましい気持ちじゃないんだ。ただ、人ごみで迷子にならないためにだよ。」
神社の本堂までの道のりは、両脇に屋台が立ち並んで活気に満ちている。店に客を呼び込む声が四方八方から耳を貫く。道行く人々は声と香りと光とに、ヒラヒラと吸い寄せられていた。
真田君は依然、私の手を握っている。爽やかな見た目と裏腹に、節が角ばってごつごつとした手がふわりと包みこんでいる。目の前を通り過ぎていく屋台のチラつく光と、人々が放つ大きなざわめきと、掴み甲斐のある彼の手に、私の脳も痺れて考えることも上手く纏まらず、ただ、なんとなく気だるい楽しさが体を駆け巡っている。
「ねえ、白木さん。射的やらない?」
と私を誘ってはガンマンのような銃さばきに見とれさせ、
「次は水風船釣りをやろうよ。」
と無邪気に言っては、今度は童心に帰って失敗して見せる。ようやく取った水風船の先のゴム輪を私の左手の指につけて、子供っぽく笑った。ああ、私も彼の術中にはまってしまったのだ。今なら彼を取り巻く女達と話が合うかもしれない。……いや、次なる嫉妬を生むだけか。母が着付けをしてくれた、赤い浴衣の帯をお腹の辺りで直していると彼はすかさず聞いてくれる。
「お腹空いたね、何か食べない?」
奢ってくれたたこ焼きの、ソースがついた私の頬を指ですくって舐めた後に彼は言う。
「美味しいね、たこ焼き。」
はにかむ彼の歯に、青のりがついている様もなんだか可愛いと思ってしまった。
三十分ほどの短い時間が私にとっては夢のようであった。悲しい嘆息を漏らす、ここ最近の日々に打った麻薬のような一時の快楽は、私を彼と過ごす時間を求めさせる中毒者に仕立て上げるには十分な量だったのである。
入口に戻ってきた私は鳥居を背にする。高い気温に反して、背中に伝わる感触は冷たかった。真田君は、私に被さるように人の波から守ってくれている。
「白木さん。突然誘ったにも関わらず、今日は一緒に遊んでくれてありがとう。」
「こちらこそ。なんだか久しぶりに楽しかったわ。……一つ聞いてもいいかしら。」
「なんだろう。なんでもどうぞ。」
「なんで誘ったのは私だったの?周りにいくらでも私より可愛い子がいるじゃない。」
「……奪いたかったからかな。」
彼は意味深にそう言うと、左手の人差し指と中指で私の唇をなぞった。手の甲で私の頬の熱さを確認したあと、彼は私から離れる。
「またね。時間があったら、一緒に花火を見よう。」
そう言って人の波に消えていく。なんとなく寂しさが募って真田君を追いかけるも、影一つ見つからなかった。聞きなれた電子音が巾着から聞こえ、見るとアラームが応援団の集合時間十分前であることを告げていた。ちょっと、名残惜しいな。そう思って、真田君が消えた方を向いて唇に触れると、集合場所へと急いで歩き始めた。
力が抜け、浮ついた気分で行った集合場所に行った私は、既に到着していた的場君に冷たく鼻で笑われた。
「ここに何しにきたの?白木さん。遊びにきたんじゃないんだよ。」
彼は、真田君のように一目見た際に浴衣を誉めてくれることなどなく、参考書の方が魅力的だとでもいうように視線を参考書に戻した。
「ごめんなさい。」
的場君の方を見ずに謝るも、彼は次のページをめくるだけでそれ以上何も言わなかった。彼に冷たくされても、もう保健室でのような苦しみは味わわなかった。それよりも気になるのは高島君である。左手の指を包帯で分厚く巻いた彼には疲れの表情が浮かんでいた。
「昨日は見に来てくれたのに悪かったな。病院に付き添ってくれて。」
「いいの。大丈夫なの?包帯してるけど。」
「あ、ああ。大丈夫だ。まあ、多少……腫れがあるから大げさに巻いてるって、病院の先生が。」
添え木がしてあるようだから、骨折はしているのだろう。しかし、それを言わない虚勢を私は尊重することにした。
「今度、改めてお礼をさせてくれ。済まなかった。美香にも明日にでも礼は言っておくよ。」
私に深々と頭を下げてくれた。彼女の名を聞いて、私の頭の中には昨日の一場面が思い起こされる。
「死んじゃったらどうしよう、高島。」
記憶の中で美香は頭を掻き毟り、涙を流している。私はその言語を大げさだと受け取った。
「死ぬわけないじゃん。熱中症らしいけど、意識は戻ってたじゃない。」
「命じゃないわ。野球選手としてよ。」
言い返せなかった昨日の不安を、
「じゃ、今日はしっかり演舞を見て練習しような。」
と、会話を終わらせようとする高島君にぶつける。
「ねえ。」
「ん?何だよ。」
聞いちゃいけないことのようなものを尋ねる決心に数秒使って私の口が開く。
「野球、またできるんだよね?」
彼は笑って答える。
「ああ、もちろん。しばらく休んでリハビリはしなきゃいけないけどな。」
言葉の上で安心したのも束の間、私に背を向ける際の切なげな目は私の脳裏に焼きついた。
「ねえ……。」
今の言葉、もしかしてそれも虚勢なんじゃないの?と言葉を続けたい。彼は振り返らない。私に笑顔を向けた裏はどんあ表情を浮かべているのだろう。
「ん?」
彼は左手の拳を強く握る。爪が掌に食い込んでいた。
「頑張ろうね、」
それだけを投げかける。
「おう。」
高島君は左手を脱力させ、ヒラヒラと振って、私の言葉に応えた。
下級生の数名が楽しげに遅刻をしてきてようやく全員が揃った。華やかに展開される両隣の屋台には目もくれず、大きな鳥居をくぐって神社の境内へと入る。中は普段の優勢な場所とは異なって、優雅な心を求められる空気に変わっていた。雅楽が鳴り響き、カシャンコロンと賽銭が投げられている音がする。本殿の隣に特設ステージが設けられており、そこで我々の一番の目的である演武が行われるようだ。開園は十八時なので、十五分ほど余裕がある。
手を清め、今回の応援団の演武が成功するようにと祈願をすることにした。二礼二拍手をして、
「応援団の応援が上手くいきますように。」
と願う。神様は特に私達に天啓を下さらなかったけれど、見守ってくださるのなら十分だ。後輩たちに勧められておみくじを引いたら凶だった。
木の枝に私のおみくじを結んでいるとボンボンとマイクを叩く音が聞こえて、あ、あとマイクテストが入る。携帯を開いて時計を見ると、十七時五十八分。そろそろ演舞が始まる。
「それでは皆様、長らくお待たせしました。今年も地域の文化を守る会の皆さんが『子の舞』を練習してきてくださいました。今年はご存知の通り、ねずみ年。この神社では夏祭りに、その年の干支にまつわる舞をこの場所にお納めするという伝統がございます。」
司会者は咳払いを一つして続ける。その後ろではぞろぞろと大人達が立ち位置につき始めていた。
「これまで地域の文化を守る会の高齢化に伴い、存続が危ぶまれていましたが、今年は多くの大学生が入会し、中心となって舞を完成させたそうです。あ、準備が整ったようです。それでは。」
真ん中には、どこかで見た顔ぶれが並んでいる。後輩達がひそひそと話しているのが聞こえた。
「あの、真ん中にいる人達って、こないだ視聴覚室で見た、体育祭で応援団をしていた人達じゃない?」
確かに、よく見ると映像に出ていた人達だ。髪の毛が染まっているから分からなかった。先輩達の演舞を、私達後輩が見る。これは神様からのヒントなのかもしれないな。隣にいる的場君は、ビデオカメラを操作して電子音を鳴らした。録画を始めたようだ。
太鼓の音が一つして、「子の舞」が始まる。視聴覚室の映像で見たとおり、滑稽な振付になっている。ねずみの耳を模した風呂敷を頭に結び、ちゅうちゅうと舞台の上を所狭しと駆けまわる。
もちろん、ただ無秩序に動き回っているわけではない。重厚な太鼓の音や軽快な笛の音に合わせ、マスゲームのように動きを揃えて重なり合うこともあれば、その整ったバランスを崩して、ただ暴れまわっているようにしか見えない瞬間もある。彼らは自由だった。その緩急の在り方に失笑して、それから爆笑した。
太鼓の音が大きく一つ打ち鳴らされ、道化を演じていた先輩達が真剣な眼差しで中央の一か所に集まる。先程まで笑っていた観衆はその変化をくみ取って押し黙る。私達も笑っていたけれども、観たいのはこの先だ。この先を観るためにここにきたのだ。
もう一つの太鼓が鳴ると、日の丸が描かれた扇子を懐から出して開き、片手に一枚ずつ持っている。舞台ぼ中心では、年を召した男性が胸の前でクロスさせて構え、それから周りの人が重なって扇子が見えないことがないよう、睡蓮のように展開して待機している。
「はあっ。」
と誰かが一声上げると、睡蓮の花は舞い散り、舞い上がる。これは、神様に捧げられる演舞なんだという自覚が覚悟に変わっているようで、鮮やかに力強く踊っている。
「綺麗だね。」
女の後輩が言う。私もその通りだと思った。遠くでは賑やかな声が響いているのに、周りは静かだ。境内の中と外では別の世界として隔絶されたもののように錯覚した。神聖という言葉を知らない赤ちゃんも、お母さんの腕の中から食い入るように観ている。
舞っているうちに雲は晴れ、空には星が煌めき始めていた。舞台うの背後から出る月は、静かに見守っている。
ドドンと二発の太鼓の音が決まって、聴衆は舞台上の彼らに拍手を送った。ライトで照らされる彼らの汗は、誇らしさと満足感で輝いていた。
再びマイクがボンボンと叩かれて、司会者の声が響く。
「地域の文化を守る会の皆さん、本当にありがとうございました!皆様、今一度彼らに大きな拍手を!」
もう一度、大きな拍手が彼らに贈られる。舞台の上の老若男女は静かに一礼をして舞台上からいなくなる。言葉では多くを語らないところに、一つの達成感を覚えた者たちの格好良さがあったように思われた。
「凄かったな。」
高山君がポツリと言う。
「ああ。」
短く的場君が返す。後輩達はざわついている。
「俺達、これやるの?」
「全部をやる時間は与えられてないけどね。」
私達は境内の隅に集まり、口ぐちに感想を言い合った。
「最初は皆に笑われるような感じだったけど、後半凄かったですよね。」
「うん。それに綺麗だった。」
「また、研究しましょう。」
それから、これからの予定へと話が続く。
「今日はこれで解散する。確認するが、俺達に与えられた演舞の時間は七分間で、その内二分間は視聴覚室の映像を元に、滑稽なパートを作った。後の四分は、今の記憶と残した映像を元に作っていくことにしよう。あとの一分は……なんとかするよ。」
的場君がまとめ、額の汗を拭って続ける。
「次回は全体練習だ。時間は五十分しかない。気合いを入れて頑張ろう。」
「おー!」
「では、今日は解散。」
我々は三々五々、それぞれの方向に散らばった。
「高島。」
「なんだよ。」
「俺ちょっと、あの会の人達に話を聞いてくる。」
「話って?」
「まあ、ほら、一応参考にさせてもらう訳だし、無断という訳にもな。そして、あわよくば教えてもらいたい。」
「なんだよ、的場。やけに積極的だな。」
「違う。消極的努力だよ。教えてもらって早く上達した方が、参考書を読む時間が増えるだろ?」
「そうか。付き合おうか?俺。まあ、俺は旗持ちだし、腕がこんなだから役に立てないかもしれないが。」
「助かる。」
「あ、じゃあ私も。」
私の同調は、的場君の冷ややかな目にかき消される。
「君はいいよ。太鼓だし。俺達だけで行ってくる。ほら、彼氏が呼んでるぜ。音楽家志望さん。」
くっ。的確に嫌なところをついてくる。彼を直視したくなくて、的場君の指差した方へ顔を向けると、真田君が立っている。
「彼氏って、付き合ったのか?」
高島君が私に詰めよる。
「ち、違うよ。まだ、そんなんじゃないから。」
「違うってなんだよ、そんなんじゃないならなんなんだよ。予定?予定なのか?」
「大丈夫だよ、付き合わないと思うから。」
「だそうだ、行こう。」
的場君は高島君を引きずるようにして、地域の文化を守る会の皆さんの控室へと歩いて行く。後には、高島君の、
「本当か?本当なんだな?白木!」
という声の残響が残った。
一人残されて汗を拭く私に、真田君が駆け寄ってくる。
「お疲れ様。凄かったね、演舞。」
「見てたんだ、真田君も。」
「うん。人が多かったけど、頭越しによく見えたよ。」
彼は涼しげに笑いかけてくる。
「それで、何?私に何か用?
「うん……。」
真田君は初めて、はにかみ笑いに恥ずかしさを足して口ごもっていた。
「ちょっと、静かな場所に行かないか?」
「えっ?何するの?」
真田君は私の手をつかみ、引っ張る。
「もうすぐ花火が上がるんだ。この神社の境内は人で一杯になる。だけど、俺、穴場を知ってるんだよね。ほら、あそこだよ。」
指差した場所は、神社を囲む雑木林だった。奥は暗がりで良く見えない。
「あの中に入って、一分ほど坂を上ると、少し開けた場所があるのを見つけたんだ。どう?白木さん。秘密の場所、一緒に行かない?」
うつむいて黙ると、屋台の方から性欲溢れる曲が聞こえてくる。BGMとして流しているようだ。別に、私は何かやましい気持ちがある訳じゃない。ただ、この曲から逃れたいだけなんだ。私は真田君の手を握り返す。
「良いってことだね。じゃあ、行こう。」
多くなってきた人々の山をかき分けて、雑木林へと入っていく。彼の言う通り、坂を少し登っただけで、祭の喧騒を遠くに眺める静かな場所についた。私達は折れて倒れた木に腰かける。
「もうすぐ始まるよ。」
「うん。」
言葉少ない会話の直後に、白く発光する曲線が立ち昇り、視界一面に大きな火の花が舞い散る。横隔膜を揺るがす破裂音が聞こえると、分かっていたけども驚いて彼の服の裾をつかんだ。
その大きな一発を皮切りに、二発目三発目とせきを切ったように数え切れないほどの夏の花が夜空へと上がる。高校生になっても花火は良いものだ。嫌なことを忘れさせてくれる。私はあまりに夢中になっていて、真田君が私の腰に手を回していたことに気がつかなかった。
十分もすると、突然花火が上がらなくなった。辺りが幽静な場所になる。
「もう終わりかな?」
「違うよ、白木さん。今は下でナイアガラの滝の花火をやってるはずだ。ここは良い場所だけど、それが見られないのだけは難点だね。ごめんね。」
彼が白い歯を見せて笑みを浮かべると、今なら何でも許してしまいそうだ。何度となくお互いに見つめ合っていると、真田君の顔が私に近づく。唇が、近づく。
「おい、何やってんだよ、真田!」
背後に高島君が立っていた。
「ああ、来たの。今いいところだったのに。」
「良い所ってお前。お前なあ!」
「やめて!高島君!」
彼は的場君の胸倉を掴む。
「どうして。優しい人よ、彼は。」
「違う。騙してるんだよ、白木、お前を。ぶん殴ってやる。」
「騙してるって、どういうこと?」
「こいつ、他校に彼女がいながら今、お前にキスしようとしてたんだぞ。真田、俺はお前を信じてたのに!」
「ばれたか。」
真田君はいたって冷静だ。
「殴れるのか?」
余裕たっぷりの無表情で高島君を見下している。
「ああ?留年だろうが退学だろうが関係ねえ。白木を騙そうとするような真似は許せねえ。」
「そういう意味じゃないよ、馬鹿だな。高島、お前物理的に殴れるのかよ。」
高島君は言い返さない。
「こいつ、リハビリ途中で無理したから、筋肉と骨がねじ曲がって固まって、一生腕が肩から上に上がらないらしいぜ!あはは。その年で四十肩かよ。」
高島君の、真田君を掴む手に力が入る。
「……否定しないの?」
私の言葉に、高島君は黙ったままだ。
「じゃあ、野球は……。」
「出来ないんじゃないの?一生。」
真田君は高らかに笑った。目がとても冷たい。
「見ろ、これが真田の本性だよ。」
「別に、白木を騙したんじゃない。高島、お前から奪ったんだよ。」
「どうして笑っていられるの?」
真田君は、高島君の手を払いのける。
「面白いからさ。こいつからやっと奪えるのが。こいつのレギュラーも、大学へのスポーツ推薦も、女も。」
真田君は素早く私を抱き寄せる。力強さに抵抗できない。流石、野球部というべきか。高島君は左手で応戦するも、体に痛みが走るのか非力に顔を歪めている。
「ちょっと、やめてよ!」
混戦の中で、彼は私唇にキスをした。初めてのキスの味は苦かった。
「この野郎!」
掴みかかった高島君は、真田君に引きずり回される。包帯をしている拳は空を切り、そのまま地に突っ伏した。彼に駆け寄る。
「大丈夫?高島君!」
「……ああ。」
「真田君、最低。」
「最低なのはお前だ、高島。お前がにピッチャーのレギュラーを奪われたことで、俺がどれだけの物を奪われたか!」
「知らねえよ、そんなの!」
真田君は、何がそんなにおかしいのか、お腹を抱えて笑っている。
「このこと、先生に言うから!」
「いいよ、白木。好きなだけ広めてくれ。誰が同情してくれるんだ?お前達なんかに。成績優秀でスポーツも出来る男と、かたや頭が悪くてスポーツも出来なくなった男とその友人。皆はどちらの話を信じるだろうか?キスをされたなんて言ったら、俺に群がる雌どもはどれだけ君をいじめるだろうね?」
「本当、最低……。」
真田君は、足早に去っていく。高島君はうめいた後に立ちあがって砂を落とし、いなくなった真田君に言う。
「俺は、お前のこと、本当に友達だと思ってたんだぞ。投手としても気のいいライバルだって。友達だと思っていたからこそ、この秘密の場所もお前に教えたのに……。」
花火がぱっと光って落ちる。その光の中、私達は立ちつくした。




