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第一章 第六話「紋章の謎」

 夜、街の広場に八時だよ全員集合。

 婚姻うんぬんはともかく、ドラゴン退治の礼だとかで、陽太は食事をご馳走になることになったのだ。


「へえ、キミが人族か。子供にしか見えないや」

「いや、これは色々あってですね……」


 魔法の代償の話などを、アメリアに通訳してもらいながら、親父さんたちとコミュニケーションをとる。


「そういやこの手首の紋章は何か分かりますか?」

「ふむ……それは、最上級魔法を一度使用すると刻まれる紋章だね。習得した証みたいなもんさ」

「証……ですか」

「属性により場所も紋様も違うが、おそらくその手首のが時属性のものだろう。分魂魔法も使ったのなら、二人の左胸にも紋章があるはずだぞ。アメリア、ちょっと見せてみなさい」

「はいっ」


 ニッコリと返事をして、服をまくりあげるアメリア。


「やっ、ちょと、待って! いいですいいです! 俺が脱ぎます!」

「そうか?」


 ――この親父……俺が小学生男児にしか見えないからって油断しすぎじゃないのか。

 危うく小さな膨らみが見えるところだった。

 いくらやりたい放題宣言をしても、親御さんの前で興奮なんてできない。

 そう思いながら借りていた上着を脱ぐ陽太。


「ほんとだ……」


 その左胸には確かに、十字架のような模様の紋章が黒く刻まれていた。

 手首の紋章は呪文のような文字っぽいものだったが、魔法によって違うのだろうか。


「じゃあアメリアにはもう一つ、俺を召喚した魔法の紋章もどっかに刻まれてるのかな?」

「おお、そうだな! ここ数百年、誰も使ったことのない魔法だから我々も見たことがないのだ。ほれ、アメリア、全部脱いでみなさい」

「はいっ」


 またニッコリと返事をして、ショートパンツを下ろしお尻が見えそうになるアメリア。


「やっ、ちょと、待って! こんなところでやめて!」

「そうか?」


 ――この親父……辺りを血の海にしたいのか?

 主に俺の鼻血で。

 そう思いながらパンツのテントを隠す陽太。

 体が若くなってか、いろいろと敏感なのだ。


「たぶんこれだと思うんですっ」


 しかし、気にせずアメリアは続ける。

 お尻が見えるぎりぎりの肌を陽太たちに見せるアメリア。


「ちょ、ダメだって!!」


 と、手で顔を覆いながら指の隙間からアメリアのお尻を見る陽太。

 そこには確かに、黒い紋章が浮かび上がっていた。

 お尻の上から腰にかけて、シンメトリーな模様が。


「なるほど、これが。しかしそんなとこ、よく気付いたな」

「実は……出逢った時の陽太様、パンツ一丁だったじゃないですかっ? その時、陽太様にも同じところに紋章があったのを見ちゃったのでっ!」

「え、まじ?」


 すかさずシャツをめくり、確認する陽太。


「おお、ほんとだな」

「え、よく見えないっすけど……」

「ふむ、人族召喚は、召喚された側にも紋章が浮かび上がるのか……」

「陽太様とお揃い、私嬉しいですっ!」


 カップルでワンポイントタトゥー入れました的なノリだ。

 能天気だな、アメリアは。


「でも、全身がこんな紋章だらけになったら怖いっすね……耳なし芳一さんじゃないっすか」

「誰だねそれは。とりあえず手首の文字については、我々も調べてみるよ。ただ、天族に伝わる書物なんて召喚のこと以外あまり載って無いからの、期待はせんでおくれ」

「いえ、助かります。てか……天族って言うだけあって、やっぱ神様の末裔とかなんですか?」


 陽太は元の世界での知識――といってもゲームや漫画で得たものなんだが、それとのすり合わせを図る。


「いやいや、天族っていっても、別に神様とか天使だとかそんなんじゃないんだよ。ただ天空に近いところに住んでるだけさ」

「天空に近いってことは、ここは高いところにあるんすか?」

「ああ。四百年ほど前のご先祖様たちがここへ移り住んだらしい。他の種族が住んでる街まではかなり下りなければならないのだが、暮らしには特に不自由することもないな。まあ、行きたきゃ送っていってやるけれど」


 ――うーん、行きたきゃ……か。

 この先どうすれば良いのだろうか。

 不親切召喚に改めて文句を言いたくなる陽太。


「さっきみたいなドラゴン、もう襲って来ないんすかね?」

「どうだろうな。わしらはもともとドラゴンとは共存の仲だったんじゃが、ここ半年ほど前から、急に何かに怯えたように暴れるようになったのだ」


 天族はその度になんとか追い払ってきたそうな。

 さすがに今回のような、業火を噴くデカいドラゴンではなかったそうなのだが。


「世界に何かが起ころうとしている、そんな気がしてならんのだ」

「陽太さんが召喚されたのも、運命だったのかもしれません」

「運命って……そんな大役、ビビりますよ……召喚魔法はみんな使えるんですか?」

「いいや、我々だけだ。そういやこれだけは天族だけが使える魔法だったのう」

「へー、じゃあ逆に召喚される俺たち人族は、なにか特殊な力があるとか?」

「ん? 来るときに能力を授ったんだろう?」

「あー、まあそうなんですが。それだけなら別に人族じゃなくてもいいんじゃないですかね……なんて」


 確かに召喚に応じる時、好きな能力を授けてあげる的な神の声があった。

 陽太が全属性の最上級魔法を使えるようにとお願いして、欲張りさんねと軽いノリで転送されたのは記憶に新しい。

 この世界にどんな種族がいるのか知らないけれど、召喚されて能力を授かれるなら、この世界の人同士でやっていればいいじゃないか。

 わざわざ外部から呼んでくる必要があるのか、陽太は疑問に思う。


「まぁ、そうだな。ただこんな言い伝えも残っておる。この世界には、人族だけに託された特殊な使命がある……とな」

「人族だけに……すか。てか、俺どうやったら帰れるんですかね……」

「ううむ……そもそも召喚された目的が達成されれば、帰還できるらしいのだが」

「俺がまだここにいるってことは……」

「ドラゴンを倒すことだけが存在意義ではなかったようだな」

「なんか謎が多すぎて……まいっちんぐ」


 そんな話をしながら、陽太は頭の中を整理する。

 とにかく現在の目標は【元の世界へ帰ること】だ。

 そのためには召喚された自分の役割、この世界での存在意義を見つけなければならない。

 それは、なぜドラゴンが天族を襲うようになったのか、というところから突き詰めていかなければならならい気がする。

 そして役割を終え、帰れる方法が見つかったとしても、このままでは色々と問題もある。

 まず、体はこの小学生のままになってしまうのだろうか。

 まあ、若返って何か不自由なことがあるのかと言われれば、メリットのほうが大きい気もするが。

 それこそ帰ったときに浦島太郎状態になってたらどうしよう。

 あと、【分魂の代償を解除】しなければ、命が危ないのではないか。

 元の世界に帰ったとしてもアメリアと魂を分けたままで、お互い無事に過ごしていけるのかどうかわからない。



 そこへ、剣をくれた顎髭男が話しかけてきた。

 額のクリスタルを砕けと、ジェスチャーで教えてくれたあの天族だ。


「おや? ドラゴン倒した人族って、あの兄ちゃんじゃねーの?」

「あー、俺がその兄ちゃんでして……」

「はあ? さすが異世界人、何言ってるかわかんねえ! まぁ、なんでもいいけど! がはは」


 天族、軽いな。

 そこへアメリアが目を光らせながら顎髭男に問いかける。


「きゃーっ! 陽太様の大人バージョン見たんですねっ! どんなでしたっ!? やっぱり素敵な……」

「ええと、そうだなあ……」


 顎髭男はポリポリと頭をきながら、思い出そうとしている。

 すかさず陽太は両手をブンブンと振り、会話をさえぎる。


「ワーワーワー! いいじゃねーかそんなの!」

「……うーん、そうですねっ。楽しみにとっておきますっ! 未来の旦那様っ!」

「旦那って……」


 元の世界では、ひょろメガネと言われていた陽太、その姿は幸いにもアメリアには見られていない。

 見せたところで何のメリットもない。

 少女の夢をぶち壊すことしかできない。

 ――まあ、若返った分、時間はあるんだ。

 小学生時分からやり直せることで、かっこいい大人になれたらいいなと思う陽太。


「さ、まずは言語の習得からかな。焦らずぼちぼち、ゆっくりやっていくよ」


 色々わからないことは沢山あるが、陽太は悩むことを止め、そう決めた。

 わりと適応性のある陽太。

 過去や未来より、今現在を生きようと。

 ケタケタと笑いあう天族たちを見ていて、人間関係や職場のちっちゃな事で悩んでいた自分がちっぽけに見えてきたからでもあった。

 身分やなんや関係なく、わだかまりなくやってる姿は気持ちいい。

 嘘つきや騙し合いも必要ない世界なんだろう。

 とっても素敵な環境でアメリアは育ったんだな。

 そう物思いにふける陽太であった。



「ところで陽太君。ドラゴン討伐の礼になんでも欲しいものを授けるぞ。なにがよい?」

「じゃあ……この街全部くれませんかね? なんつって」

「オッケー、じゃ、まず君が住みやすそうな家を――」

「ちょ、冗談っす!!」

「そうなのか? ほなま、とりあえずうちにホームステイしなさいな。君の部屋を案内するわな」


 天族、やっぱ軽いな。

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