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第六章 第十話「治癒魔法」

「天族の誤解を解くとは……ぬし、策はあるのかえ?」

「いえ、まったく……」


 アメリアに、必ず迎えに行くと誓った陽太。

 天族が迫害されたのは、人族《陽太》を呼び出した種族だからだ。

 王殺しの人族。

 そしてその人族《陽太》を助けた魔女。

 というわけで最終的に、天族は魔女の味方だと広まってしまったようだ。


「なんか良い方法ないっすかねー? ルナ、どう思う?」

「……みんながみんな仲良い世界なんて、ありえないの」


 ――おいおいどうしたルナ。

 絶望に満ちた発言に戸惑う陽太。

 クラスでいじめられたりしていたのだろうか。

 そんな奴いたら兄ちゃんがぶん殴ってやるぞ。


「その禿かむろのいう通りじゃ。さすがは精霊族でありんす。組織には必ず悪役が必要なんじゃ。どうしょうもありんせん」


 必要悪か。

 神は何かと相反する存在を望みやがる。

 愛と憎しみ、喜びと悲しみ、心と身体、人と人。

 光と陰、大地と空だってそうだ。

 一つになることはない。

 相反する世界を神は望む。

 まあ確かに刺し身(三・四・三)の法則ってのがあるというのは、会社で習ったっけ。

 だからといって、いじめは許されることじゃないし、迫害までされるのは間違っていると思う。

 どうせ誰かを追い出しても、次のターゲットがまた現れるだけなのだから。

 白羽の矢を自分に向けられたくない。

 だから力の強いやつに合わせる。

 弱いやつが傷つくのは仕方ないと。

 みんな自分が救われたいだけなんだ。

 そう、闇ではなく光に居たい――


「ん……?」

「どうしなんした? 痔にでもなったかえ?」


「いやいや、違うんですよ。ひとつ質問なんですけど、この世界、光魔法ってみんな使えるんですか?」

「うむ、一応はの。じゃが、光と召喚は天族の十八番おはこでありんす。ほかの種族はほとんど使えせん」

「火は不死鳥、風は白虎、大地はヨルズ、じゃあ光魔法は誰の力を借りてるんですか?」

「さあ? 考えたこともありんせん」


 ――それだ!!

 魔女の言葉にふと閃き、目をかっぴらく陽太。


「ついに漏らしたか!?」

「いえ、いいこと思いつきました」

「なになに?」


「天族は神の子だと広めよう!」


 ――アメリアたちを神格化したら、迫害どころか崇拝されるのでは?

 自分にしてはなかなかの妙案じゃないか。

 ちょっとテンションの上がる陽太。

 しかし横からルナディがジト目で見つめてくる。


「ウソを広めるのはよくないと思うの」

「ルナたん……」


 子供に諭される中身オッサンの陽太であった。

 そう言われると何も言い返せない。

 間違った噂が広まり迫害された天族、それではウソにウソを重ねるだけで何もかわらないか。


「それにぬし、簡単に言いよるがどうやって広めるのじゃ?」

「いやね、アメリアに看病してもらった人は結構いるはずだからさ、心では感謝している人も少なくないだろうと思って。そうゆう人たちに協力してもらえば宗教のように広がるかなって」


 陽太はこの世界へやってきて気づいたことがある。

 元の世界でいうキリスト教やイスラム教、仏教といった、特出した宗教が無い。

 白虎や不死鳥を拝むような風習はあったが、それはあくまで現実的に力を貸してくれる幻獣だからだ。

 宗教とは原因不明のもの、説明不能のものによって引き起こされる不安を消し去るための、精神的支えみたいなものだと陽太は考えていた。

 つまり、悪いことが起きても神のせい、良いことが起きても神様のおかげ、そんな風に誰かのせいにしたがる我々にとって最も心のよりどころになるものだ。

 この四百年、今までは不自由なく暮らしてきたから宗教が必要なかったのだろう。

 少なくともハーツ帝国、ロキア王朝には教会や寺などが無かった。


「宗教かえ。まあただ噂を否定するだけよりは効果ありそうじゃが……ちゃんとした教義や教祖を立てねば、怪しい集団として終わってしまいんすえ」

「教義……?」


 魔女が言うには、宗教には『弱者の代弁をしていること』と『反社会性を持っていること』そしてそれがなぜ必要なのかという理由を示せば成り立つものであるらしい。

 その理由に当たるのが【教義】と言うものらしく、教義を唱える教祖がいないと始まらないそうだ。


「なんだか難しくなってきました……」

「ちんちんぷんぷんなの」

「変なとこが怒ってるぞルナ。しかし、宗教は厳しそうっすね……ついでに一儲けできるかなと思ったんすけど」

「ぬし、なかなかあくどいの……ただ、指を咥えて見ているよりは、なんでも試してみたら良いではないか。今のぬしなら、寺ぐらい建てれよう」


 ――寺を建てる?

 そう、陽太はヨルズとの契約で建造物も簡単に作れるようになった。

 すなわち宗教っぽいお寺や教会なども可能なわけだ。


「あ、そうだ姐さん。その前に二百万ほど貸していただけませんかね……」



    §



「この辺りに建てようと思います」


 陽太はドワーフの洞窟から少し離れた場所に立ち、そう言った。

 【樹嶽の統馭】を使うのだ。

 お金はさらに魔女から借りた。


「トイチじゃからな」

「勘弁してください!」


 魔女は魔女でどこからお金を手に入れているのか謎ではあるが。


「で、何を建てるの?」

「まあ見ててくれ」


 ルナディの質問に対して、陽太は不敵な笑みを浮かべた。


「偉大なる大地の女神よ、我は汝と契約を結ぶものなり、その息吹をもって樹嶽を統馭し給え――」


 陽太の詠唱に呼応して、目の前に魔法陣が出現する。

 それは橙色に発光し出し、中心からムクムクと白い柱のようなものが出てくる。

 ぐんぐん天に向かって伸びていき、その高さは百メートル近くまでになった。

 そして徐々に人型へと変化していく。

 これはまさに某国自由の女神像のようだ。

 その背中には翼が付いている。


「これはなんじゃ……」

「あれ? わかりません? アメリア像ですよ」

「それは見ればわかるが……」

「我ながらうまく出来たなー。あの胸のあたりなんか――」

「なぜ裸なんじゃ」

「陽たんのえっち……」


 こうして、同時進行で天族神格化計画も進めていくことになった。

 この像が後々、世界に一波乱をもたらすこととなるとは、まだ誰も知らなかった――



    §



「さて、次の目的地に向かうとするかの」

「次はどこへ行くんですか?」

「カモノ神殿……最後の紋章じゃ」


 陽太はこれまでに八つの紋章を得た。

 この世界の属性は、水・火・風・雷・地、光と闇、そして時と召喚の九つだ。

 残るは雷属性のみ。

 旅の終わりは近い。


「でもどうして地属性を先に行かせたんですか? 中のモンスター、雷がよく効くから順番逆のほうが良かったのでは?」

「それは、ぬしらの幼い体では神殿に入ることすら出来んかったからじゃ」

「それってまさか……」

「あい。ゼタエンド大陸の中心じゃ。青い禿かむろの家族もおる」

「聞いたかルナ! やったなー!!」

「やっと……会えるの」


 瞳を潤ませ、喜ぶルナディ。

 彼女の家族は、結界を補うために集められた精霊族の一部だと魔女が言っていた。

 幽世の瘴気が外へ漏れ出すのを防ぐための結界だ。



 こうして三人は幽世に転移し、神殿を目指す。

 魔女に返した鎌にまた三人で乗り、瘴気に満ちた枯れ木林の上を飛んでいく――

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