第一章 第五話「ご両親」
キスで目覚めた少女。
そして動き出した世界。
こうして二人は、天族の街【ハーリオン】に着く。
一度は訪れた街だが、時間が止まっていた時と比べて、段違いに賑やかに見える。
入り口へ近づくと、大勢の天族が出迎えてくれた。
天族たちは口々に話しかけてくる。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「おや……?」
「◎※□△$♪#△×!」
「相変わらず、何言ってんのかわかんねえ……」
アメリアと同じ種族の者たちが陽太を取り囲む。
しかし言語のわからない陽太の頭には、クエッチョンマークがいっぱい浮かんでいた。
「ふむ……まぁ、笑顔で喜んでいる様だから、せいぜいドラゴン退治の礼でも言ってるんだろう。通訳してくれ、アメリア」
「はいっ! ええと……『異世界人、パンツ一丁とかw テラワロスwww』 ですって」
「おい!」
「なんか、ごめんなさいです……」
「つか、なんでアメリアとは普通に会話できるんだろ?」
「おそらく、魔法で魂を分け与えてもらったので、その影響じゃないでしょうか」
「ちっ、言語は結局自分で勉強しやがれってか。その辺もっと都合よく出来ていて欲しかったなあ」
とりあえず陽太はアメリアに頼む。
「通訳、よろしこ」
「ふふ、喜んでっ」
頼られた嬉しさからか、ニッコリと微笑むアメリア。
中学生ぐらいにしてはどこか気品のある笑顔に、陽太は見とれた。
――まるで天使だな。
天族だからそもそも、天使みたいなもんなんだろうけど。
他の天族たちは、各々、建物などの復興作業に取り掛かっていた。
翼で宙に浮けるぶん、屋根の修理なども早そうだ。
そして陽太はアメリアに連れられ、領主の家へと向かった。
小さな街だから、中心部に辿り着くのは、そう時間がかからない。
他の民家より一回りほど大きな、赤い屋根の領主邸が見えてくる。
とはいえ、そんなに金持ち感を醸し出しているわけではない建物だ。
想像と違う。
「意外と質素だね」
「そうですかっ? まあ、領主邸といっても、会合をするための部屋が余分にあるぐらいで、他の民家とあまり変わりありませんからっ」
陽太の知るRPGな領主といえば、民衆から税金をむしり取り、国王に媚びへつらう、そんなイメージだったから。
ちなみに通ってきた街並みを見る限りでは、田舎街って感じだった。
区画整理されている様子はなく、点在する畑と家畜らしき鳥の声。
それがまた、元の世界の喧騒を忘れさせてくれるようで、陽太の胸を高鳴らせるのだが。
領主邸に着き、ノックも無しに玄関のドアノブを回すアメリア。
「ただいまーっ!」
「……ってアメリア、やっぱり領主の娘だったか!」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「まあ流れ的に、そんな予感はしていたけれども」
すると中からアメリアの母親らしき、スレンダーな美女が現れた。
「アメリア!!」
彼女は、悲鳴のような声でアメリアの名を叫び、駆け寄ってきた。
言語の通じない陽太には名前ぐらいしか聞き取れないのだが。
その後ろからは、小太りな男性も現れた。
「アメリアなのか!」
「お母様……お父様……」
「ううっ……」
涙を流しながら膝をつき、アメリアを抱きしめる母親。
アメリアより少し濃い薄紅色の髪と、整ったそっくりな顔立ち。
父親と思われる小柄で太った男性が怒声を上げる。
「アメリア! 人族召喚に行ったと聞いて、母さんがどんなにショックを受けていたか……!」
「申し訳ありませんっ……」
「いいのよ……あなた。こうして帰ってきてくれたんだもの……」
「まったく! もう母さんを心配させるようなことはしないでくれ……とにかく、無事でよかった……」
「おっぱい!」
言語が分からない陽太はひとり蚊帳の外だったので、とりあえず素敵ワードを唱えて遊んでいたが、その後アメリアが事情の説明を両親にしてくれた。
召喚して一度は死んだこと、召喚自体はうまくいって陽太がドラゴンを退治したこと、そして【分魂魔法】とやらで生き返ったこと。
それを聞いた両親は、目を白黒させながら悲鳴を上げる。
「なんですってー!?」
まあ当然の反応であろう。
分魂魔法……それすなわち、キス。
十歳そこそこの男児相手だとはいえ、自分の娘の唇がどこの馬の骨かも知らない奴に奪われたとなれば、両親も黙っていないはずがない。
「わ、わ、わしの……む、む、むすめを……!!」
「や、あの、知らなかったってゆーか……ほんとすみません……」
凄い剣幕で陽太に近づいてくる親父さん。
「娘を……」
「ひいっ!」
「娘をよろしく頼んだぞ! 今夜は婚姻の宴じゃ!!」
「……は?」