第五章 第十話「再会」
「それじゃあ、裏の世界とかじゃなくて、普通に繋がってるってこと!?」
幽世はこの世界の一部だと言う魔女。
「あい。ここ【ミア大陸】より北東にずっと渡った先、そこが【ゼダエンド大陸】、世界の中心であり、ぬしらのいう幽世でありんす」
「えー!? 裏の世界だとか言ってたじゃん!」
「わっちゃ一言も言っておりんせん」
「ルナ、お伽話ではそう聞かされてたもん」
――ルナがそう言ってたんだっけか。
ぷくっとほっぺを膨らませるルナディ。
まあ、四百年前の物語だ。
歴史の教科書などもないこの世界では、正確に伝わっていくのは難しいのだろう。
「じゃあ、世界の欠隙という魔法は……?」
無属性最上級魔法である世界の欠隙。
それにより帝都は幽世へ遺されてしまった。
どういうことなのか尋ねる陽太。
魔女の話によると、あの魔法はもともと世界の中心にあるゼダエンド大陸を経由して、様々な場所へ転移するための、いわば瞬間移動魔法であったらしい。
しかし、四百年前の争いで戦地となったゼダエンド大陸は、人の住める場所ではなくなり、その瘴気が外へと漏れないように結界によって封印されたそうな。
その結界により、転移魔法は経由地であるゼダエンド大陸で止められてしまうのだとか。
だから今は行って戻ってくることしか出来ないらしい。
そしてその結界を張るための人員が足りなくなってきたからルナディたちの家族を呼び寄せたと。
「結界はゼダエンドの中央にある神殿で、精霊族たちがずっと魔力を消費しながら保たれておりんす。そこへぬしらのような童子が入れば数分もせぬうちに消えてしまいんす」
「お母さん……」
「心配せずとも、時が来れば連れていってあげんすにえ」
「……よかったな、ルナ」
陽太はよくわからなくなっていた。
世界を瘴気から守るためにルナディの家族を連れ去ったということか。
四百年前、何があったのか。
魔女は一体誰の味方なのか。
そして自分は、何のためにこの世界へ呼び出されたのか。
§
三人は帝都ハーディア跡地から少し離れた隣町、ハーヴリーに着いた。
いつものように手前で降りる魔女。
「ここから先は――」
そう言い始めた魔女の言葉を陽太が遮る。
「大丈夫ですよ。姐さん可愛いから」
「意味がわかりんせん。そして気持ち悪い」
気持ち悪いは余計だが、魔女に手を差し伸べる陽太。
「そんな中学生にしか見えない姿で町にいても、魔女だとはバレませんよ」
「そうかや……」
「はい! ではお手を」
「や、ぬしと手を繋ぐぐらいなら犬にでも踏まれたほうがマシでありんす」
「そんなに!?」
「陽たん、犬以下なの?」
「ルナさん!?」
こうして町の中へと入る三人。
山間部であり、その立地を活かした畜産や農業が盛んで、広々とした牧場や畑の間に大きな家が建っているような町。
つまり帝都から割と近い町ではあるが、穏やかな田舎という感じである。
アメリアを探さなきゃ、とキョロキョロ見回しながら歩く陽太たち。
だが、案外すぐに見つかることとなる。
「あそこ、見て」
ルナディが指差す先には、沢山のテントが張られた広場のような場所があった。
人が大勢いるのも見て取れる。
三人はそこへ向かった。
広場が近づいてくると、見覚えのあるような人たちとすれ違う。
帝都の住民だ。
陽太は魔女の後ろに隠れる。
「ひっ!」
「そうか、わっちよりぬしのほうが顔を覚えられておりんしたかえ」
陽太は幽世から皆を戻すときに顔出ししている。
その前からも寮生とかにさんざん罵倒されていたし。
「仕方ありんせん、これでも被りなんし」
魔女はそう言って着物の袖を切り取り、陽太の頭に被せる。
体が逆成長したせいで袖が余っていただけだからと魔女は言うが、何かと優しい彼女に陽太は目をウルウルさせながら礼を言う。
三角頭巾のようだが、以前仕立ててもらったこの和柄の服とはマッチしていた。
「ああ……僕、どんどん貴女色に染まっていきます。きゃっ」
「とりあえず全財産あとで持ってきなんし」
「やっぱ世の中、金すか!」
三人はアメリアの所在をつきとめるべく、道行く人に尋ねる。
テントに住んでいるのはやはり、帝都からの避難民だそうだ。
そしてアメリアがいるのは、中央付近にある一番大きいテントらしい。
陽太はその白いテントに向かって走り出す。
――やっと会える。
先日、幽世から皆を戻した時は、アメリアが倒れてしまって、ほとんど話せていない。
また無理をしていないかずっと心配だった陽太。
テントの入り口をくぐる。
するとそこには、大勢の人が横たわっていた。
ケガをしている者、病気でうなされている者。
――救護テントだったのか。
そして奥のほうで怪我人の手当てをしているアメリアを見つける。
「アメリア……!」
その声に気づき、アメリアもバッと立ち上がる。
「陽太様……!?」
彼女の元に駆け寄り、抱きしめようとする陽太。
「アメリ――うぶしぇ!!!」
しかし子猫が顔面に飛んできて、ひっくり返る。
「ご主人様に気安く触るにゃボケ!」
「ココちゃん!? 陽太様は味方ですよっ!?」
――前もこんなやり取りあった気がするけど……
「なんもしないよ、もう。こいつペットの猫だっけ?」
「トラだにゃ! テメエそんなことも覚えられねーのか?」
上目遣いで睨みをきかせるココだが、もふもふした姿は正直かわいいだけ。
そしてもう一度いうが、これでもメスである。
「次触ったら喉元掻き切んぞコラ?」
――ほんと口悪いな。
「陽太様……会いたかったですっ」
「ああ、俺も。君を守りに来たよ」
こうして、やっとアメリアとの再会を果たした陽太。
これからまた彼女を連れ、最上級魔法習得の旅に出発することとなる――




