第一章 第四話「コケコッコー」
「でも、本当にありがとうございましたっ。私なんかに分魂の魔法まで使って頂いて……」
「ぶん……なんだって?」
「分魂の魔法です。もうこれで私たちは離れられない運命ですね……」
頬を赤らめながら、もじもじしているアメリア。
よくわからない単語が出てきたので、陽太は眉間にシワを寄せながら問う。
「ちょっと待って。蘇生魔法じゃないのか?」
「いーえ? これは【分魂の接吻】と言って、光属性の最上級魔法ですよっ。魂を分け与える魔法なのです」
「そ、その代償は……?」
「どちらか一方が命を落とすと――」
「まさか」
そしてアメリアは、ニッコリと微笑みながら答える。
「二人とも死んじゃいますっ」
「やっぱりか……」
がっくし、と肩を落とす陽太。
「大丈夫ですよ。ドラゴンを倒した陽太様ですし、私も魔力は強いほうです。それに寿命も同じになるんですっ! 二人で一つの命、お互いが足りないところを補って、老衰までともに歩んでいきましょっ!」
「老衰って……俺は元の世界に帰りたいんだけど……やることやったじゃん」
――助けを求めてる人がいるから、召喚に応じますか?
そんなノリだったような気がする。
――つまりマジでもうミッションコンプリートじゃないのか。
そう考える陽太を、アメリアは哀しい瞳で見つめる。
「そんな……そんなに私と離れたいんですか……ひっく」
「いやいや、そうゆう問題じゃなくてだな、そんな泣かなくても」
「だってだって……せっかく出逢えたのにっ……」
俯き、目をゴシゴシと擦るアメリア。
大人っぽいとはいえ所詮はまだ子供。
可愛いことを言ってくれるが、こっちも人生がかかってるからな。
でも……やっぱ可愛い。
「……この代償を解除する方法はないのか?」
「……わかりませんっ」
「はぁ……ま、とにかく今は、助けになれるよう頑張るわ。これからよろしくな」
そう言って少女の頭をヨシヨシと撫でる陽太。
今はどうすることもできない。
とりあえず話のできる大人に会おう。
「やたっ! よろしくお願いしますっ!」
ぱあっと明るくなるアメリア。
ウソ泣きだったのか?
「とりあえず、お姉ちゃんって呼んでくれませんか?」
「は? なんで?」
「呼んでくれないんですね……ひっく……」
「わ、わかったよ! お、お姉ちゃん……」
「はわっ! きゃわたーん!! 私、弟が欲しかったんですーっ!」
陽太に飛びつき、抱きしめるアメリア。
「ちょ、胸が! 胸が!」
つか、よく考えたらパンツ一丁じゃないか。
これじゃあただの変態……
いや、待てよ?
小学生なら何しても許される年頃だよな。
と、いうことは……
さっきまで子供だと思っていたアメリアが、本当にお姉さんに見えてきた。
発育途中だろうけど、結構おっぱいもある。
ぐふふ。
「あれ? 陽太様、パンツに膨らみが……」
「あっ! あっ……」
「何か魔物が入ったのかもしれません! すぐ脱いでくださいっ! 私がやっつけますっ!」
「ちょ、やめてー!」
§
さて。
この世界に来てまだ左も右もわからない陽太はまず、いろいろとアメリアから話を聞き出さなければならない。
そして、現状を整理する時間も欲しかった。
ストップの魔法が解除され、動き出した世界。
ひとまず陽太たちは先ほどの街へと向かうことにした。
ドラゴンに襲われていた街だ。
アメリアの生まれ育った街らしい。
街の名は【ハーリオン】というそうな。
澄み切った青い空の下、さっきとは違い、はっきり目視できる街まで歩いていく。
――あれ?
視力が良くなってるのか。
というか、小学生時分に戻ったから、視力も戻ったということか。
腕力とかは弱くなってる感じがするが、かなりの儲けものだ。
こんな大草原を、美しい異世界を、裸眼で旅することができるとは。
感動で少し涙ぐむ陽太。
涙腺が緩くなっているのはオッサンのままか。
道中、陽太はアメリアに尋ねた。
「俺が使える最上級魔法って、他にどんなのがあるのかな?」
陽太は、全属性の最上級魔法を授かっている。
しかし、内容も使い方も知らない状況。
特に怖いのが、その代償だ。
よく知ってから使わないと、またあんなことになる。
「うーん……【分魂の接吻】以外の最上級魔法なんて使える人、普通の街にはいないですからねえ」
「もしかして、どんなのかも知らない感じ?」
「ごめんなさいっ! でもたぶんうちの街じゃ、誰も知らないんじゃないでしょうか。唯一、伝説として伝わっていたのが、あの魔法【人族の召喚】」
――人族、つまり人間の召喚か。
陽太が呼び出されたアレだ。
「あれも最上級魔法なの?」
「はいっ、術者の命をひとつ代償として取られますし、今まで誰も使ったことがないと聞いてはいたんですけどね。もうあとが無かったので私みんなを振り切って……」
「偉いね、アメリア」
「いえ、陽太様が応えてくれたから……今こうしていられるのも陽太様のおかげです……」
「そんなこと……」
「大きくなったら、結婚してくださいねっ」
「けけけ、コケコッコー!」
声を裏返して驚く陽太。
「あれ? 言ってませんでしたっけ? だって分魂魔法は……愛し合う二人が使う、最上級の愛の魔法なんですよっ」
「まじか! 嬉しいような後ろめたいような……」
「責任……とってください、ねっ?」
「よし、君も思春期まで大事にとっておきなさい。このチェリーマンのために」
「えっ? 何をですかっ?」
「や、そりゃ、ええと、うへへ」
「なんか顔が変態さんです……」
異世界召喚を機に……いや、小学生に戻ったのを機に、やりたい放題やってやろう、そう決意する陽太。
――ボインちゃん出て来ないかな、ぐへへ。
そんなことはさておき、愛の魔法だとか元の世界では口にすることも恥ずかしい言葉だが、ここでは当たり前に魔法が存在しているのだ。
そして今まで女性と縁のなかった陽太、まさかの逆プロポーズを受けた。
まあ、相手は子供で、こっちの中身はオッサンだけど。