第五章 第七話「竜族の王」 ※挿絵有
――気がつくと陽太は、あたたかいものに包まれていた。
それはお日さまのような。
それは母親のような。
「んんっ……」
目を開けるとそこには見知らぬ顔があった。
槍で心臓を突かれたはずの陽太は、なぜか美少女の腕の中にいたのだ。
ほどよく育ったグレープフルーツのような胸に埋まり、しっかりと抱き締められている。
優しい、落ち着く匂い。
どこかで見覚えのあるような銀髪。
「気が付いたかえ……」
この声は――
「姐さん!?」
しかしあのメロンのように豊満な胸は無く、どこかあどけなさの残る幼い顔つき。
美人にはかわりないが、可愛いといったほうが妥当であろう。
「まさか……」
【星霜の途絶】、その代償なのか。
槍から救うために時間を止めた魔女。
「俺のために、すみません……」
「別に構いせん。わっちが童子になったところで何も変わりはせんしょう」
「いえ、それ以上はダメです!」
「は?」
「それ以上おっぱいが萎んでしまったら俺の癒しがうぶしぇ!!」
――グーパンご馳走さまでした。
周囲を見回すと、さっきの戦場から少し離れた、城のそばへと運ばれていた。
そこには陽太と魔女の二人しかいない。
「ルナ!? ルナは!?」
「白虎が守っておりんしょう」
すると、空から陽太たちを見つけたルナディがこちらへ向かってくる。
「陽たーん!」
「ああ、ほんとだ。良かった……」
白虎から降りて陽太に飛びつくルナディ。
白虎は役目を終えたとばかりにぽんっと消える。
そこへ城の中から見覚えのある人物が出てきた。
そいつは陽太のほうへ駆け寄ってくる。
「ハリルじゃねーか!!」
「騒がしいと思ったら、陽太かよー! ははっ!」
抱き合い、無事を確認して喜び合う二人。
そしてハリルは銀髪の少女に目をやる。
「で、その可愛い子は誰だ?」
「あ……ああ、話せば長くなるんだけど……まず竜王が――」
と、話し始めたかと思ったのもつかの間、陽太は急に俯き、沈黙しだした。
「陽たん……悲しいの?」
「なんだよ言ってみろよ」
「……」
ハリルが陽太の肩に手をかける。
すると陽太は、いきなりハリルを突き飛ばした。
そして近くに置いてあった魔女の鎌を手に取り、ハリルに向ける。
「お、おいっ!? どうしたんだよ!!」
「陽たん!?」
その光景を見て魔女が呟く。
「まさか……」
キョロキョロとあたりを見回す魔女。
「……どこに隠れておる」
そこへ馬の駆ける音が耳に入る。
竜王たちが追いついてきたのだ。
「親父か? 陽太、何かされたのか!?」
「……」
しかし陽太は答えない。
そして急に竜王へ向かって走り出した。
竜王も竜王で、敵とみなしている陽太を迎え撃つ。
――ガキィィィン!!
陽太の振りかざす鎌が、竜王の槍と激しくぶつかり合った。
弾き飛ばされる陽太。
力では敵わない。
するとその瞬間、倒れている陽太の体が一瞬発光した。
かと思うと、その姿は地を這う影となり、竜王たちの周りを高速移動する。
「潜影だと!? 地属性の上級か!」
足元にうろつく影に騎馬も慌てふためき、暴れだす。
態勢を崩す竜王。
――パシュ!
何かが吹き飛んだような音に、皆の視線が集まる。
するとそこには――
首の無い竜王の姿があった。
影から飛び出てきた陽太によって、首を切り落とされたのだ。
「う、うそだろ……」
目を疑うハリル。
両膝を地につけ、呆然と立ち尽くす。
さらに陽太は再び影へと潜り、他の竜族に次々と攻撃を仕掛けた。
それも目にも止まらぬ速さで。
一方の魔女は、空中浮遊で城へと向かっていた。
「そこかや!」
三角屋根のてっぺん目掛けて、手のひらから巨大な火の玉を放つ魔女。
当たった場所は切り取られたかのように破壊され、ガラガラと崩れ落ちる尖塔。
すると砂煙の中から、無数の氷の矢が飛んでくる。
誰かが放った水魔法だ。
しかし魔女は目の前に岩のような障壁を作り出し、すべて防御する。
「ちっ……まだこいつには敵わないか」
そんな舌打ちが聞こえたかと思うと、そいつは砂煙の中から姿を現した。
陽太たちと同い年ぐらいであろう子供だ。
黒いローブに身を包み、見え隠れする漆黒の髪。
魔女は問う。
「皇帝を殺したのは、お前でありんしょう」
「うん、そうだよ。正確には殺し合わせただけ。身内同士の殺し合いはなかなか見ものだったよ!」
「なんという……」
「そして今、竜王も殺れたからね! 最高の気分だよ!」
「それでは何も変かわりんせん……もうやめてくりゃれ」
「知らないね。ボクはボクのやりたいようにやるんだ。というか、あの子が噂の人族?」
「……うむ、じゃからお前はもう必要ない」
「ふーん。じゃ、あの子も殺しといたほうがいいって訳か」
「そうはさせん。手を出したら命に代えてもお前を殺しんすえ」
「ひー怖いなあ。で、いいの? あの子を放っておいて。ボクが今、術を解いたら一瞬で竜族に殺されちゃうんじゃない?」
「……わっちが時を止められること、知っておりんしょう。すぐにでも――」
「知ってるよ、成人の体じゃないと使えないってこともね」
「っ……!」
「それ以上使うと幼児になってディスペルも使えなくなるんでしょ? 解除できないと最悪消えてなくなっちゃうもんね」
「……わっちにはまだ……やり残したことがありんす」
そして魔女は敵に背を向け、陽太の元へ向かった。
「賢明だね」
黒ローブの子供はそう呟くと、スッと消え去ったのだった――




