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第五章 第一話「白虎」

「行ったかや」

「――はい」


 闘技場へと戻り、魔女と合流する陽太。

 アメリアも叔母さんに連れられ、無事現世へと帰った。

 薄暗い空、黒ずんだ壁、担任を弔うために供えられた花。

 誰もいない静かな闘技場は、幽世の不気味さをよりいっそう際立たせていた。


「王も……殺したんですか」


 陽太は魔女に問う。

 誰かが王を殺したという話を、民衆が口々に噂していた。

 そして陽太がサバイバルをしていた十日間、魔女はどこで何をしていたのか、全く分からない。

 ――その間に皇帝を……

 可能性は大きい。

 そう考えると、魔女の姿が改めて恐ろしく感じてくる。

 ごくりと唾を飲み込む陽太。


「……わっちじゃありんせん」


 まっすぐな瞳で陽太を見つめながら、魔女は否定した。

 嘘か真かはわからない。

 それを見抜く術も持ち合わせていない陽太は、一緒にいる人物が犯人であって欲しくないと願うしかない。


「じゃあこの十日間、どこで何をしていたんですか」


「……今はまだ、言えん」


 陽太から目を逸らし、どこか寂しげな瞳で城のほうを見つめる魔女。

 沈黙が流れる。

 正直なところ、陽太にとって皇帝がどうなろうと他人事としか感じられない。

 会ったことも見たこともない王より、お世話になった天族やハリルたちのほうが心配だ。

 それに問い詰めたところで魔女にはかないやしない、そう考える陽太。


「わかりました。で、俺はもう解放してもらえるんですか」


 民衆は現世に戻れたとはいえ、住居もなければ食料も無い。

 馬車などは現世へと送ったため、近隣の町へ避難することができると聞いてはいるが、ちゃんとみんな元の暮らしに戻れるのか、自分も現世へ戻って確認したい。

 なにより、アメリアのもとへ向かいたい。


「いんや、お前が行っても争いの火種になるだけじゃ」

「確かに、かなり嫌われてました……」

「ま、せっかくここまで来んしたえ。お前はこのまま、わっちと風ヶ岳へ向かいんす」

「……風ヶ岳?」

「あい。風属性の最上級を習得するのじゃ」


 ――最上級魔法か。

 もとの世界に帰るために必要なこと。

 それが最上級魔法全属性の紋章を集めることだ。

 それに自分や自分の大切な人を守るためには、もっと強くならなければいけない。

 この魔女をも倒せるほどの力を手にしなければ。

 ――魔女にどんな企みがあるのかは分からないけれど、利用できるものは利用して、最後に飼い主の手を噛んでやればそれでいい。

 こうして、討伐対象と行動を共にするという、いささか奇妙な旅になるが、陽太は風ヶ岳へと向かうことにした。




    §



 魔女の後ろに乗せてもらい、幽世の空を飛ぶ。

 転移してきた帝都から離れ、空から見下ろす景色。

 そこはルナやハリルと一緒に彷徨さまよったような、枯れ木林や赤い池しかない。

 飛んでも飛んでも同じ景色。


「姐さんって、こんなとこに住んでるですか……ちょっと、悪趣味っすね」

「お前の顔よりマシでありんす」



 しばらくすると、山がみえてきた。

 高く隆起した地塊、岳というべきだろうか。

 相変わらず赤黒いというか、殺風景なのだが。

 ここが目指していた風ヶ岳のようだ。

 霧で霞んだ頂上へと降り立つ。


 すると岩陰から一体の動物が目を光らせながらこちらへ近づいてくる。

 霧で遠近感が掴めなかったが、目を凝らすとそれはダンプカーほどの大きさで、鋭い牙を二本持った動物。

 絶滅動物図鑑に載っているサーベルタイガーのような獣。

 しかも一匹、二匹と……ぞくぞくと岩陰から現れてくる。

 その中の一匹が大きく口を開き、グアオと吠えたかと思うと、一目散に陽太たちの方へ走ってきた。


「うぎゃあ! ヤベーっす!!」


 鎌から降りた陽太は、魔女を残し必死で逃げ出す。

 なんとか岩陰へと隠れ、ひょいと様子を伺う。

 そこには、駆け寄ってきたサーベルタイガーの頭を撫でる魔女の姿があった。


「タマちゃんや、よーしよしよしよしよし」

「……ピッピたんにタマちゃんて、姐さんネーミングセンス微妙っすね」

「うるさいの……」


 またペットか、と安堵しながら陽太は魔女の元へ戻る。

 ぐるるると猫なで声で甘えているタマちゃん。

 するとタマちゃんの陰から陽太と同じぐらいの背丈をした小さいオッサンが現れた。


「久方ぶりだな、魔女よ」

「ええ、ぬし様もお元気そうでなにより――って、胸を揉むでない!!」


 おっぱいを揉みしだいていたオッサンは、魔女に蹴り飛ばされ、岩へ激突する。

 あいててと腰をさすりながら戻ってくるオッサン。

 オッサンというより爺さんか。

 白髪に仙人のような顎髭をして、魔法使いのような杖をついている。


「誰っすか? このエロじじい」

「エロじじいとはなんだ!」


 魔女が言うにはこの爺さん、ここ風ヶ岳で白虎びゃっこを育てている精霊族の者らしい。

 そう、このサーベルタイガーのような動物達は、白虎という名前の幻獣であり、風属性最上級魔法を使って契約する目的の相手だとか。


「早速で申し訳ありんせんが、これ《陽太》にも契約できそうな白虎を見繕ってくりゃれ」

「……なるほどな、もうそんなに季節ときは流れたのか」


 すると爺さんは振り返り、霧の向こうへと消えていった。

 ――嫌な予感しかしないんですけど。

 しばらくして戻ってきたその後ろには、狼ほどの大きさをした白虎の姿があった。


「これが一番幼い白虎だ」


 爺さんがそう言ったかと思うと、牙をむき出しにした子白虎が陽太に向かって飛びかかってくる。


 ――ガキィィィン!!


 腰に携えていた短剣でなんとか弾く陽太。


「その子を倒せば契約できるぞ。まあ頑張りなされ」

「ちょい! ちょい! 心の準備は!? 姐さん助けて!?」


 陽太は魔女を盾にするように怯えて後ろへ隠れる。


「情けないのう……まあ落ち着きなんし。勝てぬ相手ではありんせん」

「わ、わかりました、俺も一旦おっぱい揉ませてもらっていいですか。そしたら落ち着――うわあああ!!」


 言い終わる間も無く、雷に打たれる陽太。


「白虎ではなく魔女にやられてどうするのだ……」


「さて、わっちらは向こうで茶でもいかがかや」

「おお、土産を持ってきてくれたのかい。すまんな」


 そうして二人は何やら談笑しながら岩陰へと去っていった。

 置いてけぼりの陽太。


 ――しどい!!


 子白虎は態勢を整えなおし、低い姿勢で陽太を睨み付けている。


 ――くそ、あのドS達め、死んだら化けて出てやる!

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