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第四章 第十話「帰還」

 街は活気が失われ、瘴気の黒ずみも相まって、どんよりとした空気。

 時折、窓から覗く顔が見えるも、外には誰も歩いていない。

 城へ向かうと、普段は警備兵でがちがちに固められているのだが、みんな出払っているのか、誰もいない。

 あっさりと中へ入れてしまった陽太。

 幽世にはモンスターもいないし、守るべき王もいない今、警備どころではないのだろう。

 城内は迷路のようになっていたが、なんとか地下牢を発見し、幽閉されている叔母を見つける。

 入口にかかっていた鍵で牢屋を開錠し、叔母を救出した。


「陽太! あんた無事だったのかい!? 心配したよ!」

「叔母さん、色々とごめんなさい」

「それで、アメリアとは会えたのかい?」

「はい。でもアメリア、急に倒れちゃって……今は寮で眠っていると思います」

「おお……かわいそうに!」

「本当にごめんなさい」

「大丈夫。きっと陽太の顔を見て安心したのか、一気に緊張の糸が切れただけだろう」

「ごめんなさい……」

「ばか、謝ってばっかじゃないか。子供なんだから、もっと言い訳しなさいな。自分を一番大事にしていいんだよ」

「ありがとうございます……叔母さん」


 陽太はありのまま語った。

 闘技場での出来事。

 【世界の穴隙】の力について。

 そして、帝都はもう元に戻せないということと、人々だけなら戻せるということ。


「なるほど、じゃあ街ごとふっ飛ばしちゃったことに責任を感じて凹んでるってわけか! あははは!」

「笑いごとじゃないっすよ」

「しゃーないよ! 陽太もまだ子供なんだし! それともなにか? 叔母さんたちを幽世へ追いやろうとしたのかい?」

「そんなわけないです! 俺はアメリアを助けようと必死で……」

「ははは! そうだろう! ならあんたは悪くないさ!」


 結局言い訳のようになってしまう陽太の言葉も、笑い飛ばして受け入れてくれる叔母さん。

 大きい存在だ。

 こうやって寮生を包んできたんだろう。

 温かい人。


「叔母さん……」

「じゃあ早速やっとくれよ! 学校も寮も、また向こうで作りなおしゃーいい!」

「この償いはきっといつかします……」

「気にするな!」

「では、生徒さんから転移させればいいですか?」

「ああーっと、そうだねえ。一応、お偉いさんにも話を通しておいたほうがいいんじゃないかな」

「王様ですか?」

「王か……王は、逝去されたよ」

「え……!?」


 ――王が死んだ?

 ――また俺のせいで何かやってしまったんじゃないだろうか。

 心配になる陽太。


「いや、陽太がいなくなった後な、しばらく混乱が続いていたんだけれど、その時に暗殺されたようなんだよ」

「マジっすか!」

「ああ、城にいた王家の血を引くものは皆やられていたそうな」

「そんな……」

「だから今、街はとてつもなく治安が悪いのだけれど、なんとか城の兵士たちがもともと城にあった食料とかを配ってくれていて、助かっているんだよ。自分たちのことを後回しにしてヘロヘロになりながら」

「そうだったんですか……」


 叔母さんを捕らえた兵士なんて、悪いやつしかいないと決めつけていた陽太。

 それは民を守るために動いていただけであり、意外にも国民を一番に考えてくれているようだ。

 ――どえらいことを仕出かしてしまった感がどんどん強くなるんですけど……

 孤島でのサバイバルに明け暮れ、自分のことしか考えてなかった二週間に負い目を感じる。


「アメリアも町中を歩き回って怪我人や病人に治癒魔法をかけて続けていたんだよ。そりゃぶっ倒れてもおかしくないほどになあ」


 ――アメリアってば……子供のくせにどんだけ慈悲深いんだよ、天使か。


「俺、みんなに話してきます」

「ああ、それならいい方法がある」


 叔母が言うには、城の執務室にある魔道具を使えば、離れた人と精神感応テレパスによる会話が可能だそうだ。

 それで国民を集合させればよいと。

 多量の魔力を要するからめったなことでは使わないそうだが、先日の魔女襲来時などはその魔道具によって全兵士への通達や竜族への応援要請を行ったらしい。

 最上級魔法を使えるだけの魔力を有する陽太にとっては、そのぐらいの魔道具も扱えるだろうからと叔母は言う。


 ――なんだ、テレパスとかあるんなら、言語習得のホームステイ要らなかったじゃん。


 まあでも、元いた世界では携帯電話があったし、翻訳して喋ってくれるアプリやメガホンヤクなどもあったわけで、そのうち会話をリアルタイムに同時通訳してくれる機械なんかも発明されるだろうから、条件は似たようなものか。


 さっそく執務室でテレパスにより国民を城門前へと集合させる。

 現世に戻れますよと。

 魔道具が城のものだと知っている国民たち、まさか陽太からの通達だとは気づかず、ついに助かるのかと期待に胸を膨らませながらやってくる。


 城門の高いところに立ち、姿を現す陽太。

 それを見上げる国民たち。


「おいおい、あの黒髪って、噂の人族じゃないのか?」

「魔女の仲間か!」

「悪魔だ!」


 ざわめきだす民衆。

 人族の出現、さすがにそのことは一気に街中へも広まっているようだ。

 歴史的事件なのでナインデイズワンダーとはいかない。

 魔女は武力で解決しろと言っていたが、確かにこれだけ嫌われていたらそれもアリかなと思ってしまう。

 ――なんだよ、最初は黒髪萌えだったくせに……

 ――とりあえず、集まっているうちにさっさと転移させちゃうか。


「今から皆さんを元の世界へ返します!」


 うむを言わさず魔法陣を発動させることにした陽太。

 詠唱を始める。


「――闇へと誘う深淵の穿孔、匆匆たる烏兎の交錯、いざ開かん、現世の穴隙!!」



 こうして、帝都の住民は一人残らず、現世へと帰ることができたのであった。

 殺された王の一族を除いて――

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