第一章 第三話「蘇生」
陽太は蘇生のために、少女にキスをした。
モテない人生を歩んできた彼にとってのファーストキス。
――しかし召喚の契約とかって、女の子のほうからしてくれるもんじゃないのか?
――俺はこんなところで、こんな子供相手になにやってるんだろう……
と思いつつも、初めて触れ合う唇の柔らかさを感じ、胸の鼓動が早まる。
体温が燃え上がるように熱くなる陽太。
――生き返ってくれ。
――生き返ってくれ……
心の中で何度も念じる。
すると……彼女の唇に、温かさが戻ってきた気がした。
自分の体温が伝わったからだろうか。
「んんっ……」
そして少女は、パチクリと目を覚ましたのだ。
陽太に気付き、存在を確認するように目を細める。
「おおっ!」
さらに次の瞬間、少女の身体――正確には彼女の胸の辺りが、眩い光を放ちだした。
蒼く、どこか神秘的な光。
それと同時に陽太も自分の胸を押さえ、苦しみだす。
「ぐああああ!!」
胸が締め付けられるような痛み。
痛みでその場に崩れ落ちる陽太。
しばらくして、彼女の胸の光は薄らいでいった。
「胸が苦しい……こっ、これが噂の……超サ○ヤ人でも勝てなかった心臓病……」
「違うと思いますっ!」
少女はガバっと起き上がって、バッサリと否定した。
「……しょぼーん」
「はわわっ、ごめんなさいっ」
「でもよかった、生き返ったんだな……動けるみたいだし」
「はいっ! ありがとうございますっ!!」
「えっと……君は?」
「わ、私は、アメリア・アイゼンハートと申しますっ!」
「おお、しかも会話ができるみたい」
深くお辞儀をして名乗る少女。
腰の丈ほどある薄ピンク色の艶やかな髪がバサッと揺れる。
前髪をピンで留め、可愛いおでこが見える幼い彼女。
背中が大きく開いたキャミソールにフリルのショートパンツのような衣服は、ちらちらと肌が見え隠れしている。
その柔らかそうな二の腕に、色気も感じさせる成長期の女の子そのものだ。
「……あ、俺は陽太。たぶん君の召喚に応じて来た異世界人ってとこかな」
「やっぱりそうですよねっ! 良かった……成功してたんだっ! 嬉しいっ!」
「それはなにより」
「ええと、陽太……様っ! さっそくで申し訳ないんですが、ドラゴンを倒して頂きたいのです……」
「あ、それならもう倒したぞ」
「えっ」
「んで、早くしないと俺ね、鼻クソになっちゃうんだ」
「えっ、えっ」
「あのね、手短に話すけど――」
陽太は少女にこれまでの経緯を簡単に話し、どうにか体が縮んでしまうのを止められないか尋ねた。
「なるほどです。おそらくそれは、最上級魔法の代償でしょうね……」
「代償?」
「はい。魔法を使うには、それなりの代償が必要ですからっ。陽太様の召喚には、私の命が必要でした」
なるほど、それで陽太が目覚めた時に、彼女は既に死んでいたって訳か。
「つまり最上級の魔法にはそれ相応の、最上級の代償が……」
「き、聞いてねーぞお……」
「とにかく、すぐ状態解除の魔法を唱えてみますっ!」
アメリアと名乗る少女は、目をつぶり胸の前で手を組んだ。
お祈りのポーズだ。
「――ディスペル!」
思わず声を漏らす陽太。
「おお……百おっふ」
詠唱らしきものを言い終わった瞬間、少女の足元に魔法陣が出現したかと思うと、視界全体がフラッシュを焚いたように発光した。
その後、薄暗かった周囲が、明るさを取り戻す。
霧が晴れるかのように。
陽太の頬には柔らかな風。
小鳥のさえずり。
「時間が動き出したのか……」
「……解除されたので、もうそれ以上縮むことはないはずですよっ」
「それ以上は、か。もとには戻れないんだな……」
「ごめんなさい戻し方はわかりません……あ、でも後ろ向いてくださいっ!」
「こう?」
陽太はアメリアに背中を向ける。
ドラゴンに吹き飛ばされた時、打って怪我をしている背中だ。
そこへ手を当て、詠唱を始めるアメリア。
すると神々《こうごう》しく光りながら、怪我がみるみる治っていく。
「すげー。ありがとな!」
「天族は召喚魔法と光魔法が得意な種族なんですっ」
「そうなんだ。天族ってゆーんだな。ほんとに天使だよ」
――見た目も可愛いし、翼も生えてるし。
――こんな子が元の世界にいたらアイドルだろうなあ。
「はぁ……俺、子供になっちまった。これからどうしよう」
「うふふ、でもとっても可愛いですよっ」
「笑ってる場合じゃないよ……」
どう見ても十歳ぐらいの子供になってしまった陽太。
おそるおそる、自分のパンツの中を覗いてみる。
「おぅ……! ポークビッツ!!」