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第四章 第二話「粒」

「生まれてくるヒナまで巻き込んじゃって、悪いことしたな……」


 陽太の頭上から、自分で発生させた激流が降ってくる。

 傍にはまだ完全にかえっていない不死鳥の卵もある。


 もうだめかと思ったその瞬間――


 ゴゴゴと地面が揺れ出した。


「わわっ」


 立っているのも不安定になり、しゃがみ込んで卵に寄りかかる陽太。

 そこへ女の声が聞こえてきた。


「……偉大なる大地の女神よ、我は汝と契約を結ぶものなり。その息吹をもって樹嶽じゅたけ統馭とうぎょし給え――」


 その声は谷中に木霊し、響き渡る。


「詠唱か!?」


 すると陽太のいる場所に突如、橙色の魔法陣が出現。

 陽太の足元は盛り上がり、太い柱が出てきたのだ。

 先っちょはキノコのように盛り上がり、傘のように変化していく。

 それとともに、陽太を乗せてどんどん膨れ上がっていく地面。

 空に向かって。

 まるでエレベーターのように、ずんずんと谷底から持ち上げられていく。


「なんだ!? なんだ!?」


 寄りかかっている卵を見ると、振動でか、孵化が近いからか、ヒビ割れも大きくなっている。

 そこから卵の中に入る陽太。


「すみません、お邪魔します!」


 外にいるより不死鳥に食べられたほうがマシだと考えたのだ。

 そうこうしている間に、ついには頭上からの激流と衝突する。


 ――バッシャーン!


 しかし、キノコ岩のおかげで、しっかりと傘が防いでくれている。

 谷の中心から突き出てきた奇妙なキノコ岩は、そのまま水を弾きながら、ずんずんと天に向かって伸びていく。

 谷底にいたはずの陽太は、気が付くと周囲一面どこよりも高い場所にいた。

 遠くに竜族の城まで見える。



「おーい! 陽太ー!!」


 下の方からハリルの声が聞こえた。

 見下ろすと谷の入り口にハリルとルナディがいるようだ。

 それにあの竜族もいる。

 陽太を谷底へ突き落したのは、あの竜族の側近だった。

 それは間違いない。

 顔をしっかりと見たから。

 ハリルたちはそれをわかっているのだろうか。

 それともハリル自身が……

 いや、そんなはずはない。

 そんなはず、あってほしくない。

 純粋な小学生だ。

 特にハリルに限って、そんな邪心も演技力も持ち合わせていないだろう。

 だが、竜族は信じられなくなったな。

 それより今この状況はなんだ。

 ――いったい俺はどうして助かったんだ。


 そこへ、陽太の頭上から声がした。

 先ほどの女の声だ。


「こんなところにいんしたかえ。醜い人族の子や」


 聞き覚えのある声とその廓言葉に慌てて上を覗く。


「ま……魔女!!」


 そこには銀髪和服の魔女が、鎌に乗って宙に浮いていた。

 ふわふわと陽太のもとへ近づいてくる。


「危なかったのう」

「な……」


 突然の再会に言葉を失う陽太。

 まさかこの魔女が助けてくれたのか?

 そんなバカな。

 でもさっき聞こえた詠唱と、この地面の変化。

 やはりそうなのか?


「いっそ死んでくれても良かったけどの」

「……」


 目を細めながら横目で陽太を見る魔女。


 しかし見れば見るほど美しい女である。

 太陽に照らされた銀髪がキラキラと輝き、魔女をさらに妖艶に映した。

 見惚れている陽太に向かって魔女は言う。


「こっちを見ないでくりゃれ。キモい、吐きそう」

「ちょ、酷くないっすか!?」


 いきなりの罵倒に戸惑う陽太。


「ぬしの目……」

「なんすか……?」

「……死んだ魚のようでありんす。くっさ」

「匂いまである!?」


 怒涛の罵倒だ。

 Mな男なら喜ぶところだろうが、陽太はノーマルであるので少しイラっとする。

 本当に直視してくれないところが、JKに罵倒されるオッサンのようで悲しい。


「言っておきんすが、わっちは人族が嫌いでありんす」

「はあ」


 知らんがな、と思いながらも、ここまでの嫌悪の眼差しを向けられたことは今までにない陽太。

 何か酷い目にあったんだろうか、そう悲哀の念が浮かぶ。



「さて……お前、陽太かゴミ太か知らないでありんすが――」

「それ全然違うよね!?」


 『ぬし』から『お前』に代わってるし。

 格下げか。


「わっちの気に障ることをするなら、いつでも殺して差し上げなんす」

「ひっ……」

「星霜の途絶、その強大さはわかっておりんしょう」

「ああ……」


 そして魔女はハリルたちの方、正確にはハリルの側近の方を向き、言い放つ。


「それと……そこの竜族よ、こやつに対する殺気がバレバレでありんすえ」

「……」

「俺への殺気……」


 魔女は気付いてくれたのか。

 陽太を殺そうとした竜族。


「そ、そんなことは……」

「すまん陽太! こんなことになるとは! つか、どうゆうことだよ!」

「殿下……」

「ハリル! 俺は大丈夫だ! とにかく一度話がしたい! そこのあんたも含めてな!」

「……」


 口を閉ざし目を逸らす側近。

 魔女が口を挟む。


「何をおっせえす。それは叶わんことじゃ」

「えっ、どうして?」

「お前はわっちが連れていきんす。ここにとどまるすべはありんせん」

「へ?」

はお前じゃ。むしろ屁のカスの粒」

「粒子レベルの罵倒!!」


 陽太の突っ込みが聞こえているや否や、魔女は手のひらを陽太に向け、詠唱を始める。

 すると陽太のいる場所を包むような結界が出現し、突き出た地面の先っちょごと柱から切り離された。


「陽太!」

「うおっ、拉致られる」

「陽たーん!」

「ああ……みんな元気で……ドナドナドーナ……」


 ハリルたちを残し、キノコ岩ごと連れていかれる陽太であった。

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