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第三章 第十話「すまぬ」

「けどお前が人族だったとはな」

「ハリル、何か知ってるのか」

「昔から親父によく言われてたんだよ。きっとお前の代に人族が現れる。その時そいつに勝てるよう強くなれ、その為にしっかりと稽古するのだと」

「は? じゃあなんだ、俺は竜族にとって敵ってこと?」

「わかんねえ。けどオレにとっちゃあ陽太は陽太だ。ルームメイトで、クラスメイトで、一番の友達だから」

「ルナもなの。陽たんを信じてるの」

「二人とも……ありがとう」

「陽太、お前なんで人族であることを隠してたんだ?」

「それはおじさんやおばさんが……」


 陽太はアメリア父や叔母から、言われていたことを話した。

 ――強い力を持っているということは、頼られる存在であると同時に、恐れられる存在にもなるのだと。

 ――強大な力はときに、人を幸にも不幸にもするのだと。


「なるほど、天族……何かを知ってるのだろうか。どうゆうつもりなんだろ」

「いや、あの人たちはバカがつくほど素直で優しいんだ。絶対に悪いことなんて考えてないと思うぞ。それにさっきも言ったけど、俺はハリルが好きだ。絶対に敵になんてならないから」

「じゃあ竜族を信じてくれるか?」

「……ああ、ただ」


 陽太は悩んだ。

 ハリルは竜族。

 ここまで仲良くしてくれる友達の家族だ。

 味方となってくれるのではないだろうか。

 しかし、ハリルはまだ小学生、竜族の意図がはっきりするまでは不安である。

 社会人の勘というものだろうか。

 嫌な予感がする。

 自分が危険な目に合うだけならまだ自業自得だと割り切れる。

 しかし陽太の命、今は陽太だけの命ではないから。


「分魂魔法……アメリアのことだけは、秘密にしといてくれないか」

「……わかった、親友」


 約束の握手を交わす二人。



「そういやお前、最上級魔法を探してるんだよな? この不死鳥の谷は、火属性の最上級魔法を使う場所でもあるって聞いたことがある」

「なにそれ、早く言ってくれよ。使うとどうなるんだ?」

「不死鳥が目を覚ます」

「ヤバいやつ?」

「ああ、それを手なずけると不死鳥の力を手にすることができるとか。もちろん全ての火属性魔法を習得した者だけらしいけど」

「まじか」

「水霊と契約する時みたい、なの」

「確かに。最上級魔法って、どっかの大物さんの力を借りるみたいな、そんな感じのが多いのかな。しかし手なずけるとなると、無理ぽ」

「大丈夫なの。こっちは陽たんとルナ、二人も水魔法の最上級が使えるの」

「ああ、そういえば水属性は火に強いんだっけか」


 先刻の担任との闘いでは、地属性に水魔法が劣勢だった。

 しかし逆に火属性に対して水属性は優勢な関係にある。

 それがこの世界の属性相関図だ。

 それに陽太は一度、天族の街でドラゴンを倒している。

 それが少しの自信にも繋がる。


「海の神、ポセイドン。負けるはずないの」

「確かに。俺、やってみようかな」


 ハリルの秘密基地ジュブナイルにも感化されたのか、陽太は今、好奇心高めの少年に戻っていた。


めとけ止めとけ! さっきも言ったように不死鳥は普段おとなしいが、いざ怒ったら竜族でも太刀打ちできないほど強いらしいんだ。竜族でも守り神のように拝まれている」

「ずどーん。無鉄砲ハリルですら止めとけって言うんだから相当ヤバいねこりゃ。もっと強くなってから挑むか」


 その時、ころりんと石が上から落ちてきた。


「誰だ!」

「どうしたのハリル?」

「いや、誰かの気配が……そこに誰かいるのか!?」


 陽太やルナディには何も感じられなかった。

 竜族の危機察知能力か。

 だが、ハリルの声に応答はない。


「気のせいじゃない?」

「……そうだよな、こんなところに誰も来るはずがない。ましてや今は国内もごたごたしているだろうからな」

「そろそろ日が暮れるし、帰りますか」

「あ、ちょっと待って。俺おしっこしたいんだけど」

「すまん、トイレは作ってねーんだわ。その辺の崖でしてくれ」

「マジか! 不死鳥にかかったらどうすんだよ!」

「陽たんは小っこいから大丈夫なの」

「ちょ、ルナさん!? あなた見たことないでしょうが! ちょっと行ってくるから。付いて来んなよ」


 そう言い残し洞窟を出た陽太、降りてきた崖の端っこで用を足す。


 ――ちょろちょろ。

 ――しかし結構きわどい場所だよな……落ちそう。

 谷底から吹き上げる風。


「うわわっ、手にかかった! ばっちい!」


 その時、背後に人の気配がした。


「ルナか? こっちくると掛かるぞ。てか、掛けるぞ」


 そう言いながら、モノをぶんぶんと振り、水を切る陽太。


「何見てんだよルナ――」


 振り返った陽太が見たのは、ルナディではなかった。


「あ……あんたは!」


 そこに立っていたのは、竜族の男だった。

 丘から連れ帰ってくれた、竜王の側近として仕えている男だ。


「……すまぬ」


 男はそう呟いた後、陽太を蹴っぽった。

 崖の下へと――


「うわああああ!!」



 谷底へ向けて落下していく陽太――

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