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第三章 第九話「強さ」

「よし! 出発だーっ!」

「ハリル、やっぱ行くの止めない……?」

「陽たん何びびってるの?」


 翌昼、部屋の窓からこそっと抜け出した陽太は、ハリルに連れられルナと共に秘密基地へ向かうことになったのだが。

 小学生の語る秘密基地なんて、所詮は近所の裏山や川に作った程度だと考えていた陽太。 今、行き先を聞いてたじろいでしまっているのだ。


「だって、【不死鳥フェニックスの巣】とか言うとこに向かうんだよな!? 何そのヤバそうな奴。絶対また襲われるコースじゃん」


 陽太は立ちくらみも治まり、生活には支障のないほど回復していた。

 ただ体に流れる血液の量に関しては、まだまだ健康時より圧倒的に少ないため無理はできない。

 赤血球などが再生するのはどれぐらいの時間がかかるのだろうか、化学の授業で習った気がするが、もう何年も昔の話で忘れている陽太。

 現状、血を流すようなことさえしなければ、それなりに飛んだり跳ねたりできるだろう。

 怪我をしてはいけない、そして【世界の穴隙】を使ってはいけない、という制約ぐらいだ。

 魔法も使えるのだろうが、不死鳥っていわゆる幻獣のたぐいであろう。

 ――無理無理、襲われたら倒せない。

 ――FF12あたりでは最後の方の隠しボスだったぐらいだぞ。

 ――こちとら、まだ人生の序盤だっつーの。

 というかこっちに来てから、ドラゴンやモンスターと戦って良いことがあった例がない。

 そんなやっかいな場所に自分から突っ込んでいくほどのジュブナイル精神は、持ち合わせていないのだ。


「大丈夫だぜ? 不死鳥は谷の奥底に眠っていて襲ってきたりはしねーんだよ」

「ほんとかよそれ。絶対襲ってこねえ?」

「ああ、絶対だ。そもそも不死鳥ってのはよ、竹の実しか食べねーらしいんだ。だからよっぽどのことがない限り他の動物を襲ったりしないと言われてるぜ」

「よっぽどのことって?」

「例えばこっちから攻撃したりとかじゃね? だから大丈夫だって」

「ふむ……でもなんでハリルってば、そんなとこにわざわざ秘密基地作ったんだよ」

「実はな、不死鳥の羽根がたまに落ちてるんだ。それを拾って秘密基地に隠してるのさ」

「それ、どうすんの?」

「ははっ、それは着いてからのお楽しみってことで」



 こうして、不死鳥の巣へ向かうこと小一時間。

 ハリルの馬に乗せてもらい、目的地へと到着する。


 川の浸食によって作られたような、大きな峡谷へとたどり着いた三人。

 馬を降り、周囲を見渡す。

 そこらは削り取られたような岩や、茶色い砂だらけの荒涼とした大地。

 生けるもの全て絶滅したかのような不気味なまでの静寂。

 陽太は身を震わせる。


「雄大というか、空々漠々《くうくうばくばく》というか……」

「良い景色だろ!」

「ああ、ほんとにこの世界は綺麗だ……」

「もうすぐだぜ。そこの崖を少し降りたら、オレの秘密基地だ!」


 ハリルのあとを追い、陽太も崖を下る。

 といっても、もう命綱なしのロッククライミングだ。

 ――そりゃハリルも腕白わんぱくに育つわ!

 ちなみにルナディは、ハリルの小脇こわきに抱えられ、運んでもらっている。


「陽たん、早く」

「ルナさんは良い御身分ですね!」

「まあまあ、もうちょっとだ、がんばれ陽太」


 ようやくたどり着いた場所には、大きな洞穴があった。

 中には岩で作ったテーブルやベッドなどがあり、一通りの生活空間が確保されていた。


「ここか? ハリルが作ったの?」

「おう! いいだろ!」

「すごいの。ふかふかなの」


 藁のようなものが敷き詰められているベッドに、ばすっと飛び込んで寝転がるルナディ。


「確かに。意外と本格的でビビった」

「だろだろ? いろいろ揃えるの、大変だっただぜ」

「全部持ってきたのか、凄いな」


 きょろきょろと探訪する陽太。

 ハリルはテーブルの下をのぞき込み、探し物をしている。


「お、あったあった。よし、二人ともこっちへ来いよ!」

「なになに?」

「じゃあ、目をつぶってくれ」

「チューか?」

「するかバカ! いいから、オッケー言うまで開けるなよ」

「うんなの」


 ハリルは二人の首に手を回し、後ろで紐を結ぶ。


「よし! 開けていいぞ!」

「……これは」

「綺麗……なの」

「ふふんっ! どうだ! オレが作ったんだぜ。友情の証だ」


 二人の首元には、羽根のトップが付いたペンダントが掛けられていた。


「まじか、かっこいいじゃん!」

「オレたちが出会って、同じチームになって、そして魔女からも生き延びて……きっとこれからも色々あるんだろーけど、一生大事な仲間だと思うんだよオレ」

「そう言ってくれると嬉しいな。俺なんか足引っ張ってばっかだったけど」

「お前は強いさ。弱っちいけど強い」

「なんだよそれ」

「オレさ、親父みたいな強さに憧れてんだ」

「親父さん、マジ強そうだもんな」

「王様なの」

「ああ、親父は強いぞ。でもな、槍術が強いとか、すごい魔法が使えるとか、そんなんじゃないんだ。親父は国のため、いや竜族みんなのために体を張れる、自分の事よりオレやお袋、全ての民のために命を懸けられる、そんな人なんだ」

「それならハリルだって、俺らを守ってくれたじゃねーか」

「オレはそうありたいって思ってるからな。でも陽太はすでにそれを証明してるだろ」

「どうゆうこと? 俺は自分のことで精いっぱいだけど?」

「分魂魔法だよ」


 分魂魔法、それは魂を分け合うことで、お互いの寿命を等しくし、相手のことを自分のことのように大切にするための、愛の魔法である。


「ああ、あれはただの成り行きなんだよ……」

「だが、アメリアさんのためなら命を懸けられるという気持ちは嘘じゃないだろ? 魔女が現れた時、本気で怒ってるお前を見てそう感じたぜ」

「……それは、確かに本気だけど。あの時は無我夢中だったし、結果は最低な感じになっちゃったけどな……」

「それにルナも。陽太から聞いたぜ。空から落っこちるのを助けてやったって」

「えっへん、なの」

「はは。……自分より他人を大切にする心がある。オレは二人に憧れるよ」


 ――憧れる……か。

 今まで生きてきて、そんな言葉を言われたことのなかった陽太。

 無感動、無関心に、当たり障りのない人生を過ごしてきたから。

 今の自分は決してハリルの言うような強さを持ってるとは言えない。

 本当に成り行きと適応性でここまでやってきたから。

 ――ハリルは俺を美化しすぎだよ。

 でも、だからこそそんな強さを持った自分になりたいと、今、切に感じる。

 ハリルが憧れてくれている、二人と友達でいられる、そんな自分になりたいと。

 誰かのために生き、誰かのために死ぬ、そんな人生はきっと……幸せな最期を迎えられるんだろう。


「……ちょっと泣きそう」

「なんだよ、男はそんな簡単に涙を流すもんじゃねーよ!」

「うれしいんだよ、ハリルの言葉が」

「そ、そうか? それは……よかった」

「俺、ハリルのこと好きだわ」

「なんだよそれ、気持ち悪りーな!」

「ルナも好き」

「バ、バーカ!」


 そう言って顔を赤くするハリル。


 この時はまだ誰も想像さえしていなかった。

 三人がいずれ敵同士になるという残酷な運命を――

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