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第三章 第六話「対等」

「四百年ぶりって……今おいくつなんですか?」

「さあ、それももう忘れんした。女に歳を聞くなんて野暮でありんしょう。して、あやつは今どれぐらいの魔法を使えるんじゃ? 【星霜の途絶】と【世界の穴隙】以外に」


 【星霜の途絶】は時間を止める魔法である。

 魔女の言うもう一つの、初めて聞くその魔法名に首を傾げるアメリア。


「【世界の穴隙】……?」

「あい? さきほど魔法陣を展開しておったじゃろ。あれは闇属性最上級魔法【世界の穴隙】でありんしょう?」

「な、なんですかそれは……」

「分からず使っておったのかや。あれは今、現世うつしよ幽世かくりよの位相反転魔法となっておりんす」


 現世と幽世、すなわち今住んでいる世界と、裏の世界との空間を一部入れ替える魔法というわけだ。

 もちろん二人はそんな魔法があることさえ知らなかった。


「幽世って……お伽噺とぎばなしじゃなかったのかい!」

「じゃあ三人は今、その幽世ってとこにいるんですかっ!? 大丈夫なんですか!?」


 急に取り乱すアメリア。

 陽太がとんでもないところへ行ってしまったと騒ぎ出す。

 アメリアが生きているってことは、陽太も生きてるってことであるから、命は大丈夫なのだが。

 分魂魔法は互いの無事も知らせられる点が便利である。

 さすがは愛の魔法。

 だが、毎日のように陽太のことを心配で陰からストーキング……いや、見守ってきた彼女にとって、姿が見えないのは不安なようである。


「はて、ぬしは何を言っておるのじゃ……?」

「だからっ! 陽太様は幽世に飛ばされて無事なのかどうか心配ですと……」


 涙目で訴えるアメリア。

 すると魔女はテーブルに頬杖をつき、アメリアを見つめながら笑い出す。


「ふふっ、これは笑えるのう!」

「何がおかしいんですかーっ!」

「ほんとだよ! うちの大事な寮生たちを返しとくれ!」


 叔母さんもテーブルにバンっと手をつき、声を荒げる。


「まあまあ、落ち着きなんし。とんだ勘違いをしているようじゃから言っておきんすが、あの人族はどこにも行っておらん。わっちらがおる此処こそが、幽世・・でありんすえ」

「ど、どうゆうことだい?」


 幽世というと裏の世界、魔女が住んでいる世界だと言い伝えられている。

 二人は理解に苦しんでいる様子。


「あのうつけ(陽太)が街ごと転移させたのじゃ」

「ま、街ごとですって?」

「あい。わっちやぬしらを含め、ここいら一帯が入れ替わっていんす」

「そ、そんな……」


 魔女が言うには、陽太の魔法でこの帝都ごと幽世に転移してしまい、陽太たちは元の世界に残っているのだと。

 てっきり陽太たち三人が飛ばされたのかと思っていた二人であるから、事の大きさに驚きを隠せないようだ。


「ま、直に戻れんしょう」

「そんな呑気な! 早く戻してくれ!」

「……でも、陽太様は無事なんですね。よかった……」


 安堵からか、力が抜けたように椅子に寄りかかるアメリア。


「……ぬし、自分の身よりもあの人族を気に掛けるとは。童子にしては見上げた根性よ」

「陽太様が私のすべてですからっ」

「ふむ。では今から悲しませることになるのう。わっちは先に現世へ戻って、陽太とやらの身柄を貰いうけんすにえ」

「だ、ダメですよおっ! いくらかっこいいからと言って、私の旦那様なんですからーっ!」

「かっこいい? あれのどこが? ぬしの目は節穴でありんすかや?」

「可愛い可愛い私の旦那様ですっ! 毎日会いに行くとウザがられると思って私、このテストが終わるまではと、最近ずっと我慢してたのに! ああっ、陽太さまに会いたい撫でたい匂いを嗅ぎたい」

「そんなこと知りんせん……そもそも、わっちかて人族は好きいせんのじゃ! むしろ最も忌み嫌う存在でありんす。あれはクズばかりざんしょう。そんなゴミを引き取ってやると言っておりんす」

「……ほかにも人族を知っているんですか?」


 その時、バンッと勢いよく食堂のドアが開いた。

 叔母が要請しておいた城の兵士たちがやってきたのだ。

 ぞろぞろと盾を並べながら魔女をけん制する。

 まるで立てこもり事件に突入した警備隊のように。


「この寮はすでに包囲した! 幽世の魔女! おとなしく投降しなさい!」

「むぅ、騒がしくなってきんした。呼んだのはぬしかや……」


 魔女に冷たい目で問われた叔母は、一歩たじろぐ。


「……」

「まあよい。ひとまずわっちは帰りんす」

「待ってくださいっ! こっちの質問に答えてもらってないですっ!」

「そんなもの、知りんせん」

「そんな、不公平じゃないですかっ! 聞きたいことはいっぱいありますっ!」

「いかんアメリア! もう私らの出る幕ではない!」

「不公平……? はん、わっちがぬしらと対等だと思っておりんすかえ?」


 魔女の顔色が変わり、いつの間にか鎌を手にしている。

 兵士たちは慌てて剣の切っ先を魔女に向ける。


「……ぶ、武器を置け!」

「調子に乗らんでくりゃれ。わっちの力をもってすれば――」


 そう言ったかと思うと、魔女の姿は消え――

 すうっとアメリアの背後に現れた。

 鎌の刃を彼女の喉元につき付ける。


「この街も、このをなごの命かて、たわいもないものでありんすえ」

「っ……!」


 再び静まり返る食堂。

 動くとみんな殺される――そんな空気感。

 叔母も静止し、ごくりと唾を飲み込む。


「まだ死にたくないざんしょう?」


 そう言い残すや否や、魔女は煙のように消えたのだった――

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