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第二章 第八話「退学届」

「だいたいなんで儂がガキ共のクラス担任なんてしないといけなくなったか、お前ら分かっているのか?」

「はあ……」

「儂は高等部の優秀な奴らばかりを育ててきたんだぞ。それがなぜ、そんな乳臭い娘のお守り役として就かされることにならんといかんのだ」


 その担任が言うには、地属性を使える人材が急きょ魔法クラス四年の担任に就かないといけなくなり、自分が選ばれたとのこと。

 なぜならルナディがそのクラスにいるからだそうだ。

 子供ながらに最上級魔法を使えるせいで暴走したら危険だから、それを止める役ということで。

 やはり十歳やそこらで最上級魔法を使えるのは、異例のことのよう。

 だが、いわゆるエリート育ちでやってきたこの担任にとって、小等部の担任をさせられることが不本意であるからイラついているようだ。

 担任はルナディに向かって怒鳴る。


「おいお前! 何度も言うが今後絶対に許可なく最上級魔法を使うんじゃないぞ! 次やったら退学だからな!」


 というのも、ルナディが先日の帝都前水浸し事件の犯人であることがバレたらしい。

 こってりと絞られたそうだ。

 最上級魔法の使い手に足る人物ではないと判断されているようで、先生の言い分もわからないでもない。

 陽太はあくまで助けてもらった命の恩人であるから、ルナディの味方だが。

 というか、この先生がルナディの担任に就かされたのは、ひいては陽太たちのせいということだ。


「なんか、すんません……」

「とにかく、最上級魔法を教えて欲しければ、きっちり高等部まで出て状況判断力などを養え! そして上級まで全部習得してから出直してきなさい」


 言ってることはもっともだ。

 しかしこのまま引き下がる訳にもいかない陽太。

 高等部卒業までに何年かかるやら。

 しかも下級魔法すら習得することがかなわないゆえ、下手したら永久に教わることは出来なさそう。

 多少強引になるしかなかった。


「じゃあ、俺らが先生と勝負して勝ったら、教えてくれますか?」

「おいおい、馬鹿にしてんのか? 儂を誰だと思っているんだ。最上級は地属性だけだが、他にもたいていの上級魔法を使えること知らんのか」

「ルナも水属性を全部使えるの」

「はんっ、さすが忌まわしき魔女の子孫だな」


 担任はルナディのことを見下したような口調で蔑む。


「魔女の子孫……?」

「違うもん……お母さんも絶対帰ってくるもん……」

「まあ、たかが水属性を極めたぐらいで儂に勝てるわけないだろう。しかも水属性は地属性に弱い、この属性相関図は一年生でも知っておるだろうに」

「そうなのか……?」

「うん……」

「ったく。儂も暇じゃないのだ。さ、行った行った」


 シッシッシと手を振る担任。

 なるほど、他の上級魔法まで使えるのか。

 偉そうにしているだけあって、それだけの実力はあるようだ。

 ルナディは傍で黙りこくってしまっている。

 ――お母さんが帰ってくる? それはどうゆう意味だろう。

 昨日言ってた、どうしても覚えなきゃいけない魔法とやらに関係があるのだろうか。

 デリケートな話っぽいから自分から教えてくれるまで深入りするのはやめとこう。

 ――さあ、どうする?

 体の紋章を全部見せて納得させるか。

 しかしそれでは、自分が人族であることを話さないと納得しないだろう。

 やはり実力で認めさせるしかない。

 ――俺がただの小学生じゃないってことを。


「なるほど、先生は子供に負けるのが怖いんですね」

「あ?」

「正直、先生なんかに負ける気はしません。な? ルナ」

「えっ!? う……うん」


 びっくりしながらも、担任を睨みつけながら返事をするルナディ。


「お前……ちょっとモテるからって調子に乗ってやがるな。一回、痛い目にあったほうがいいかもな……」

「じゃあ勝負しましょうよ」

「はんっ。では合同演習のテストの時は、じきじきに相手をしてやろう」

「お願いします。勝ったら地属性最上級、教えてくださいね」

「ああ。その代わり、負けたら退学してもらおうか」

「え……?」

「儂にたてついたんだ。そのぐらいの覚悟は――」


 負けたら退学って……

 さすがにそれはまずい。

 アイゼンハート家にわざわざ推薦してもらって、怖い思いをしながらもなんとかこの学校に来れたんだ。

 正直今の状態で勝てる見込みなどこれっぽっちも無さそうなので、力試し、運試し、という程度で相手してもらうと考えていただけだったし。

 仕方ない、何か他の方法を――


「わかったの。やるの」

「ちょ、ルナさん!? 何言っちゃってんの!?」

「決まりだな。退学届の書類、用意しておくか」

「やべ、大事おおごとになっちまった。アメリアに怒られそう」



 そんなやり取りがあったのだ――


 だからこのメンバーに、クラス最強のハリルがいるのは非常に有り難い。

 三対一ならもしかしたら……もしかするのか。

 とは言っても、たかが四年生クラスの最強レベルなんて大人相手に通じるのかということが不安ではあるのだが。

 やはり俺の間違いラブコメは青春っているかどうかさえわからないうちに、退学届は書きたくない。

 尻に火が付いたようにトレーニングに励む陽太であった。

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