序章【人族の召喚】
――――目覚めた陽太は、眩しさに目を細めた。
眼前に広がる、抜けるような青い空。
陽太はむくっと起き上がり、辺りを見回す。
海のように広がる草原。
眼鏡をしてない今でも、何度見ても自分の部屋じゃないと分かる。
「……石?」
ひんやりと冷たい、石でできた台座。
その上に乗るTシャツ短パン姿の陽太。
周囲には台座を囲むように、等間隔で松明のようなものが焚かれている。
「異世界召喚……マジなのか」
明らかに儀式的なその場所から、陽太は状況を把握しようと務める。
――確かに異世界には憧れていたけど。
絵本の世界に憧れた幼少時代。
ゲームの世界に憧れた少年時代。
だがそんな夢も覚めて、陽太はもう社会人だった。
――こんなおっさんに、今さら何だってゆーんだよ。
陽太はふと台座の足元に目をやる。
「……!」
そこには少女が倒れているではないか。
焦って台座から飛び降りる陽太。
「ちょ、大丈夫!?」
見た目、中学生ぐらいだろうか。
幼い中にも清楚な女性らしさを漂わせている体つき。
長く、薄ピンク色の髪をした少女。
そして異世界召喚の事実を、確定的にするモノが背中についている。
手のひらサイズの、小さな白い翼だ。
――天使とでもいうのだろうか。
――まるでRPGだな。
肩を揺するも、ぴくりとも動かない。
陽太は恐る恐る少女の口元に手を当てた。
「息……してない」
手首の脈も確認するが、拍動はない。
異世界へ召喚された男が初めて出逢った少女は――――
死んでいた。