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古本屋の恋  作者: 藤山美弘
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彼女の視点

ラジオからは昔、流行っていたのであろう音楽が流れていた。

私はラジオの音と少し遠くに聞こえる雨の音、

そして古本の匂いの中、雨宿りのつもりで入った古本屋の中で

特に当てもなく本を手に取り、捲っていた。


視線を本から少しずらし、古本屋の男を見た。

男は擦り切れるほどに読み込まれた本を手にし、視線を落とし本を読んでいた。

私は、その男の本を持つ手と少し鼻先にずれた眼鏡姿に懐かしさを感じた。


いつもでも、ただ雨宿りの為だけに、

この場所に留まるのは申し訳ないと思い始めた私は、

昔、読もうと思っていた本を探すことにした。


その本はすぐに見つかり、

私はレジにいる男の方に向かった。


男は私の気配に気付き、本を閉じた。

にこやかに私の渡した本を手にして、店員らしく振舞いながらも

親しみを込めて、私を見た。


「タオル、ありがとうございました。」

お礼を言いながらタオルを手渡し、私は本の代金を支払った。

少し手が触れたような気がした。


その一瞬で彼の手の細く長い指に惹かれたような気がした。


レジ奥にある彼の生活場所に視線を注ぐと、

彼は少し照れたように言った。

「男一人で、こんな生活をしているのは珍しいでしょ。」

返答に困っている私に、続けて彼は言った。

「学生さんですか?」

私はうなずき、彼の視線の優しかった。

初対面のはずなのに、すごく懐かしく居心地の良さを感じた。

それは古本屋という空間だけでなく、彼の存在がそうさせているのかもしれない。


彼は自分の話を始めた。

私は本の匂いにでも酔ったかのように、ただ彼の話を聞きながら、

彼の口元、指先・・・・・・

彼のこの場所に存在しているという感覚を感じながら聞いていた。


ふと我に返った時、彼は温かいココアを淹れてくれた。

ココアの甘い香りと古本の匂いが混ざる。


時計の針を見ると、ここに来てから1時間以上も経っていた。

店の外は雨も上がっていた。

軒先に雨の雫がゆっくりと落ちていく。


時が止まっていたかのような感覚。


「そろそろ失礼しないと・・・・・・」


心の中に、違和感を感じる。


彼も少し名残惜しさを感じているような気がする。

気のせいかもしれない。


私は、そんな違和感も彼の視線も振り切り

店の外に出ようとした。


彼は言った。

「また来てください。待ってます。」

と・・・・・・


私は少し振り返り、会釈をして外に出た。




外気は雨に冷やされ、空気が綺麗に浄化され、肌を通る風は

夢から現実へと引き戻してくれた。


あのひと時は、まるで昔の恋人と再会したような感じだった。


まだ少し、心に違和感があり、彼の視線が絡み付いている。


これは、きっと通りすがりの恋のようなもの。


私は、現実へと一歩ずつ戻っていく・・・・・・


心の中で「これでいい」と呟きながら・・・・・・


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