7頁 初日から、自己責任案件 ①※グロ
※ NPC用AIからの重要連絡 ※
戦闘による流血表現箇所があります。全てはVR内での出来事です。
ご理解頂いた上でお読み下さいますよう、お願い申し上げます。
また、当事者として本報告ページがどれほどの程度なのか判断できかねます。少しでも流血表現が苦手な方はお戻りくださいますよう、重ねてお願い申し上げます。
忠告、しましたからね?
それでは、【自己責任】で、続きをどうぞ。
お願いした通り、スタートと同時に、後方から土が盛り上がる独特の音が鼓膜を揺らします。
土魔法【アース・ウォール】の応用です。本来なら厚さ三十センチ、幅1メートル、高さ二メートルの壁を作るだけですが、彼はそれを同時に平行に隙間なく並べて何枚か発動し、さらにその上にもう一段重ねた形です。
一方、私はともえさんと並走して三人組に一直線です。
三人組も同じように走ってきますから、邂逅まであと少しと言う所で、ともえさんがブレーキをかけ、前足を地面に踏ん張り、仰け反ると同時に音でわかるほど大量に息を吸い込みます。
「咆哮くるよっ!」
『GAAAAAA!!!』
誰かが叫んだ通り、スキル【咆哮】です。レベルの差によって効果が違うスキルになります。敵のレベルが自らよりも低い場合はすくみ上がらせ、敵のレベルが自らよりも高い場合はヘイトを自らに集めます。レベルの差があればあるほど効果は上がります。
対処方法としては耳を塞ぐこと。大音量で聞こえなければ意味が無いわけですから。耳を塞いでしまえばある程度の音量は抑えられますから、効果は消えてしまいます。それだけで成立しなくなるスキルです。耳を塞げなかったらしい一人はその場で足を止めてしまいました。私の目の前の隠し爪の方ですね。ファイティングポーズのまま、膝が生まれたての子鹿のようにプルプル震えているのが丸見えです。
氷属性はともえさんが不利になるので、最優先の排除対象ですから、丁度良いですね。
「まず、一人」
相手がすくんで動けない隙に後ろへ回り込み、顎先を捕まえて仰向かせ、露わになった顎下から脳へ向けて一気に苦蓬を刺し込みます。
抜くと同時に、傷口から派手に鮮血エフェクトが飛び散ってキャラクターアバターが地へ崩れ落ちます。このゲームには一撃必殺な急所が設定されています。そこを狙ったわけです。血エフェクトは本人年齢によってリアルなものに設定出来たりします。リアル設定にしない限りダメージエフェクトになりますから、グロテスクなものが苦手な方は安心してくださいね。かく言う私はリアル設定ですから、私の苦蓬を持っていた右手は真っ赤、目の前の地面も今倒した彼を中心に真っ赤です。
「ユキっ!!」
「お、おまえぇっ!」
脳へのダメージを与えるには刺す場所が限られています。目、口、耳、こめかみ、顎下ですね。目、耳、こめかみは隙間はあるものの骨に囲まれていますから、刃が広く厚い苦蓬では少し難しい場所になります。が、顎下は別です。骨もなく、筋肉も舌筋がある程度で刺しやすい部分になります。その代わり、流血量が激しいのが難点ですかね。
なんて言っている間に咆哮の効果を免れた二人が同時に迫ってきます。やっぱり、馬鹿なんですかね、この人達は。一応、声掛けしてあげましょう。
「私ばかり見ていて良いのですか?」
「はぁ?」
「バカっ!」
足を止めた苦無の子の肩に、後方からもふもふの太い腕が乗り、肩に鋭い爪がめり込みます。
「ぎっ、ぃ……っ」
彼が振り向く間も無く後方から鋭い牙が並んだ口が迫り、首根に噛み付くとそのままあらぬ方向に曲げられて、はい、おやすみなさいませ。
ともえさん、お顔が真っ赤です。後で一緒に水浴びしましょうね。
さて、最後の一人と相成りました。
「シノブ……っ、くそがぁ!!」
今更後退しても、ここはゲーム内の隔離空間、円形のコロシアム。奴隷同士を闘わせ、獣同士を闘わせ、奴隷と獣を闘わせた、古代の人々の娯楽場。逃げ場など、何処にもありません。やはり、笑えますね。人に刃を向ける覚悟など、無いのでしょう。まぁ、死に戻り出来るゲームですから、無くても良いですけど。
壁に囲まれていることを思い出したらしい最後の一人がやけくそ気味に突っ込んで来ます。滅茶苦茶にフランベルジュを振り回して斬りつけてきますが、怒りに任せているせいで振りかぶりからの太刀筋は一直線になり、非常にわかりやすいものになっています。
さて、武器には耐久値というものがあります。マスクデータですから、あまり知られていませんが。初期装備の武器とユニーク武器、さらにレア度Lとレア度Sのものは破壊不能となりますので耐久値が存在しませんが、それ以外の武器には存在します。この耐久値が0になると、鍛冶屋に持って言ったとしても修復不可能になるので注意が必要です。
フランベルジュはレア度B。耐久値が存在する武器になります。
対する私の苦蓬はレア度Sのユニーク武器です。
そこから導き出される答えは、論理式に当てはめることも烏滸がましいほど、単純明快です。
「ただ受けるだけなら、絶対に負けません」
「!」
苦蓬の背に並ぶ凹凸でフランベルジュの刃を受けます。元々その為にある凹凸ですから、受けるだけなら、いくらでもできるわけです。破壊不能武器ならではですね。耐久値がある武器であっても可能でしょうが、恐らく耐久値がごっそりと減ることでしょう。
そして、この刃受けの凹凸ですが、少し深めになっているのです。そこが苦蓬の形状のミソなのですが……
「っ、ソードブレイカー?!」
「気付くのが遅過ぎましたね」
慌ててフランベルジュを引き下げようとしていますが、逃がしません。漣を相手の右腕に突き立て、確実に捕獲します。貫通させるのは、刃こぼれのリスクが高いのですが、まぁ、こればっかりはしょうがありません。鍛冶屋で研ぎ直してもらいましょう。
「ぎゃああっ?!」
叫ぶと言うことは、痛覚設定がされていると言うことでしょうか。その設定パーセンテージも高めのようですね。
さて、波打つことによって切り口を増やし、状態異常流血を引き起こすフランベルジュは製作が非常に難しい武器です。複雑に波打ち過ぎていますから、日本刀のように鍛造で打ち出すことはできませんね。
その複雑過ぎる波刃故に、欠点がいくつか。布、皮、肉などに対しては非常に有効な刃物ではありますが、同程度の硬度を持つ存在に対しての攻撃力が低いと言うことです。甲冑などのフルプレート系を相手取った場合、関節部の隙間を狙う以外攻撃が出来ないわけです。そして、単純に、耐久度が低いということ。
対して、苦蓬の背にある深めの凹凸は、刃受けであると同時に、受けた刃を折るために出来たものです。ソードブレイカーと呼ばれるものです。この形状に至るのにどれだけかかったことか……。
「あなたの心根、折らせて頂きます」
凹凸に刃がはまったままのフランベルジュ。てこの原理を意識して、苦蓬を少し動かすだけでその作業は終了します。
楽しいですねぇ。
本当に愉しいです。