5頁 初日から、賞金首狩人
「こんな場所に辿り着くとは幸先いいね」
「鑑定できない草だらけ……あの真ん中の木も鑑定出来ないから、レア度高いのばっかだぜ、ここ」
「うわー、木に印付けてくれば良かったー」
「帰りに付ければよくね?」
「あー、それもそうだねー」
「鎧熊と、女と、子供……ヤっちゃいましょうか」
「「応!」」
鎧熊であるともえさんは、実際にいるモンスターですからわからないでもないですが、私と樹精霊の彼も含めて言っている辺り、プレイヤーキラーのようですね。
際限の無い自由を冠するこのゲームはプレイヤーキラーが可能です。それは街中であれ、野外であれ、街道であれ、例え安全地帯であったとしてもです。プレイヤーキラーは成功する度に【業】と呼ばれる隠しステータスが上がります。それが一定値を超えると所謂闇落ちの職業になるのです。街中の自警団が見回る場所では即座に取り押さえられ犯罪者となりますが、こんな森の中なら、あちらからすれば飛んで火にいる何とやら何でしょうかね。ちなみに、被害を受けた側はリスポーン場所まで戻りますが救済措置としてデスペナルティはかかりませんし、アイテムなどをロストすることはありませんから、ご安心ください。
さて、私に聞こえるように、会話したのは、私が丸腰のように見えるから、でしょうね。
「まずは、鎧熊からな!!」
「言われずとも!」
「二人は後でのお楽しみー」
『ガアアアッ!!』
……私たちが逃げるとは考えていないのでしょうか。実際、樹精霊の彼はこの場を動けませんが、姿を木に戻してしまえば良いわけですし、私も荷物を持って森の中に入ってしまえば良いわけです。ともえさんが、初期装備のプレイヤーに負けるはずがありませんし、大丈夫でしょう。
『ギャウンッ!グルルル……ッ』
「何、この熊……普通の鎧熊より腕甲硬くね?」
「ダメージが通りにくい感じはあるけど?」
「普通のは苦無三回投げれば二回は刺さりましたー。こいつは一回切り傷付けただけで……あ、麻痺ってはいるみたいだけど、刺さってないから持続時間短いかもー」
「普通の鎧熊じゃねぇのか」
「かもねー」
麻痺が付加できる武器はまだ出回っていないはずです。さらに、鎧熊はフトウの山脈にポップするモンスターです。初日である現段階で倒せるはずがないのですが、どうにも雲行きが怪しいです。
『アイツラ ケイケンシャ
ブキ ショキソウビ チガウ』
経験者。それは、テスター。テスターはテスター時代に得たアイテムを一つだけ本サービスに引き継げます。武器が初期装備ではないと言うことは、その武器が引き継いだアイテムだということでしょう。
【炎小剣】レアリティB
小剣。刃が揺らめく炎のように波打つ形をしたもの。その切り傷は血が流出しやすいものとなる。
【苦無】レアリティC カスタム
投擲用小刀。忍が使う暗器の一種でとても万能。投げてよし、刺してよし、切ってよし、掘ってよし、抉ってよし、壁面登りのお供にも出来る。
刃金カスタム:???
!NEW!
【白雪豹の隠し爪】レアリティB
バグ・ナウ。拳を握ることで小さな刃が敵に向かい飛び出る暗器の一種。刺すよりは斬りつける方が得意。
属性:???
他者の装備は【鑑定】のレベルが高くなればなるほど覗くことが可能です。私のレベルではここまでが精一杯ですね。と言うか、見事に暗器系統で揃っています。これは、テスターの頃からプレイヤーキラーをしていたか、本サービスでプレイヤーキラーを予定してテスター時代を送ったかのどちらかでしょう。武器の選択もそうですが、状態異常付加効果が抜かりがなさすぎます。
白雪豹は名の通り寒い場所に住む豹のモンスターです。その爪や牙は武器に加工すると氷雪属性がつきます。属性が鑑定できませんでしたが推測補完が可能な範囲でしたね。氷雪属性は状態異常付加として凍結や凍傷を引き起こすことがあります。熊系のモンスターはこの氷雪属性が特に苦手です。 冬眠したくなるのかはわかりませんが、動きが見るからに鈍るようになります。
また、先程の口振りからして、苦無の方のカスタムは状態異常付加・麻痺が付随するものでしょう。一太刀で麻痺を付加させているところを鑑みるに確率は高めなようです。
フランベルジュはカスタムせずとも状態異常付加・流血が高確率で発生する武器です。
麻痺で動きを制限し、氷雪でダメージを蓄積、あわよくば動きを鈍らせ、流血の状態異常でさらにダメージを重ねる。この状態異常の組み合わせは非常に有効と言えるでしょう。ましてや初期装備には属性耐性も状態異常耐性もありません。スタートダッシュするには十分過ぎる武器と言えます。
『トモエッ!!』
『ガウゥ……ッ』
樹精霊が割って入ります。と言っても肉体的にではなく、精霊の力を使って、木の根を地中から突き出しともえさんを庇った形です。
「……植物の、魔法?」
「テストの時には発見されて無いんじゃないかなー」
「あの子供が使ったのか?」
「女の方は動いてないし、そうだろ」
本来ならこの戦闘に私は介入出来ない立場の存在です。彼等は精霊を守る守護者に対して攻撃しているわけですから。今の私の立ち位置はただの遭遇者でしかないわけです。
「お姉さんは、もう少し待っててねー。栄えある僕達の最初の獲物なんだからー」
「プレイヤー狙うのもいいけど、やっぱりNPC相手は楽しい」
「なんで区別アイコン消したかなぁ……あれ、すげぇ便利だったのにさぁ。NPC狙い放題だったもんな」
これでは、まだ、足りません。もう少し……明確でなければ……
「抵抗した餓鬼を先にヤったら、どんな顔してくれるのかなー……早くヤりたいなー」
「本気で抵抗して貰わんと、人をコロす楽しみが無いもんなぁ。女は特に泣き喚いてるところヤるのが良いんだよ」
《プレイヤーキラー言動を確認》
《リベンジ条件を満たしました》
《リベンジPvPを発動できます》
《キラーパーティ【真黒き幻影】vsリベンジプレイヤー群【樹精霊】【樹精霊の守り役・トモエ】【賞金首狩人・アルテミシア】》
《リベンジPvPを発動しますか?》
《→はい》
《 いいえ》
この瞬間を待っていました。勿論、即決です。
さあ、楽しい愉しい、狩猟のお時間の始まりです。