4頁 二日目は、現実逃避
人が乗っても大丈夫なほどの水柱を作っている主は、この薄紅色のヒラヒラした巨大魚なのでしょうか。私の頭、飲み込まれそうな感じです。
水柱は私を乗せたまま、私が椰子の実を削った下草が生えていた場所近くまで寄り、浅瀬に私を立たせるまで介助してくれました。
『アルジ〜ッ!!』
ウィンダリアが絡んで来ます。苦しい、締まる、締まってます。ウィンダリアの体を捕まえて解き、その頭を撫でながら、息を整えます。
「このオアシスの……いえ、泉の精霊、ですか?」
『否、泉精霊の守り役である』
『ババサマヲ タスケテクレテ アリガトウ』
『うむ、妾も感謝する』
溺れたせいなのか、頭が回りません。失礼して鑑定させてもらいましょう。まずは、幼女な精霊のほうから。
!NEW!
【泉精霊の幼体】
湖精霊の新しい湧き水が人によって運ばれ、新天地に作った泉から生まれたまだ幼い泉精霊。泉となってから日も浅いため、他の生物の手助けを必要とする。泉に宿る精霊の力によって、その周囲は安全地帯となり、様々な効力のある植物が生える。
《スキル【鑑定】のレベルが上がりました》
あ、貴方の方が泉の主でしたか。失礼しました、後で水を汲ませてください。そして水精霊ではなく泉精霊なんですね。
続いて、綺麗なお魚さんの方です。まぁ、半分は想像がつくんですがね……その正体が全くわかりませんよ。
!NEW!
【泉精霊の守り役】【天女龍】
泉精霊を守護する者。小さな泉が大きな湖となれるように泉精霊と契約した守護者。契約の証として、体表の何処かに水が湧き出る泉を模した契約紋が浮かぶ。
《スキル【鑑定】のレベルが上がりました》
!NEW!
【天女龍】☆☆☆
薄紅色の美しい鰭を持つ宙空を泳ぐ魚に見えるが実は龍。その美しさとは裏腹に、敵対するものに対しては全く容赦がない。剥がれたりした自分の一部を大事に取っておく習性があり、盗まれると怒り狂い災害級の暴風雨を起こすため、非接触型天災級龍と指定されている。が、友好関係を築けば素材を分けてもらえるため、もしも出会えたら素直に理由を話してお願いする方が吉。
《スキル【鑑定】のレベルが上がりました》
私が樹精霊にしたことと同じことをした人がいるということでしょうか。
と言うか、生まれてすぐにしてはオアシスも泉も大きくないですかね?
ってか、☆三つって、あかんでしょ。★三十ってことですよね、なんじゃそりゃ。竜じゃなくて龍ってところがミソですか、そうですか。あれ、幻霧龍はそんなに強くなかったきがするんですがね? なんか、天災指定とかなってますけど? また現実逃避したくなるんですが?
『このオアシスは元々妾の住処だったが、行商人がこの子を運んで来ての。共存しておるのよ』
『ババサマ スゴイノヨ!
スナノ ナカデ アタシヲ マモッテクレテタノ!』
あの真球結晶が、この龍が変化した姿で、中の水が精霊の本体だったということでしょうか。と言うか、分体が迷子って、大分逼迫してたってことなんですかね? 分体探すのもイベントの一部な気がしてきましたよ? 私、大分端折ってますよね。
『何か礼をせねばな。何か要り用はあるかや?』
「砂漠越えのために、水を汲ませて欲しいです」
『余るほどある、自由に汲んでゆけ。他には無いのか?』
「あとは……」
何かありましたっけ?
『アルジ カタナ!』
「…………そうでした」
本当にすっかり逃避して、半分忘れかけていました。【漣】、折れたんでした。
足元を見回すと、少し離れた所に、折れた刃先と柄の方が寄り添うように落ちていました。拾って見ますが、これは直せそうにないです。綺麗に真っ二つです。梃子の原理で力がかかっちゃったのかもしれません。あの貫通攻撃が響いていたのかもしれません。
『ソノ ゴメンナサイ』
「いいんです。謝罪より感謝の方が【漣】も喜ぶでしょうし、私も嬉しいです」
『ウン ホントニ アリガトウ』
小さな精霊の手が、折れた【漣】の刃を撫でます。切れ……ないですね、水ですもの。
大きな魚が……いえ、天女龍が【漣】を覗き込んで来ます。いきなりのどアップは、ちょっと心臓に悪いですね。
『ふむ……なるほど、次々と押し寄せる波のように細かい刃紋をしておる。故に【漣】か……我等に縁ある良い銘だ」
「この子を打つのは本当に大変でした。何枚刃金を重ねたか覚えていません」
『うん?』
「なんですか?」
『旅人は鍛治をするのかや?』
「えぇ、します」
しないと、あんな過酷な場所で生きていけません。矢尻なんて石だけじゃ攻撃力足りないし、槍先なんて骨じゃ皮を貫けませんし、斧だって石斧とかいつの時代の話ですか、的な感じですよ、私の故郷は。
【精霊人】は金属に触れない? いえ、普通に触れますが何か? 今まで私、普通に触ってましたよ? 金属が触れなかったら、ドアノブとか食器とか触れないじゃないですか。
『ふむ、ならば……アレとアレじゃな』
『ソウダネ ババサマ』
何かを考えていたらしい一人と一匹……は、同時に泉の中心を見据えます。すると、シャボン玉のような水膜に包まれて薄青色の金属っぽいものと、薄紅色の細長く平らなキラキラしたものが運ばれて来ました。
『妾の鰭骨と精霊鋼じゃ』
『ババサマノ ホネト アタシノ ハガネ ダイジニ ツカッテネ』
慌てて鞄から革袋を二つ取り出してその中にそれぞれ受けます。鋼、ちょっと重いっす。
色々と恐ろしいんですが、仕方ありません、鑑定してみましょうか。
!NEW!
【精霊鋼(泉)】レアリティR 品質A
泉精霊が宿る場所で、精霊に譲られない限り手に入らない聖なる鋼。精霊に認められた者のみがその手にできる。
泉精霊の加護を受けているため薄青色に煌めいている。
《スキル【鑑定】のレベルが上がりました》
!NEW!
【天女龍の鰭骨】レアリティS 品質A
天女龍の体から自然に抜けた背鰭の骨。先端に行くほど薄紅色が濃くなる美しい色合いをしている。非常に軽いが同時に非常に硬く、その強度には粘りがあるため人力で曲げたところでビクともしない。加工は困難を極める。耐水耐熱と非常に優れている。
天女龍の加護を受けているため薄紅色に煌めいている。
《スキル【鑑定】のレベルが上がりました》
これは、鰭骨を芯に精霊鋼で刀を打てと、そう言うことでしょうか? どう見てもそうとしか考えられないのは、私の頭が今、鍛治脳だからなんでしょうか。骨と鋼は融和性があまり無いんですが、でもこの骨だけでは刀になりそうに無いですし、二人の言葉からしてそう言うことなんでしょうか。
いえ、その前に、レアリティがなんかやばいですよ? 私の目の錯覚じゃないですかね?
『代わりと言っては可笑しいかもしれぬが、その鞄に入っている種を妾にくれぬかの? その種が妾の好物でのう』
『アタシ 【サザナミ】ガ ホシイ!
ババサマト アタシヲ タスケテクレタノ!』
「そう、ですね……種は埋めようと思ってましたし、【漣】はもう直せませんし……」
もう直せない刀は鋳潰すしかありません。鋳潰して新たな刀に混ぜることも出来ますが、それは、何か、違う気もします。
そして、種。これ、荷物になるだけなんですよね。重量でも大きさでも鞄を圧迫しています。うん、要りません。
右手に【漣】、左手に【砂漠椰子の種】を乗せて差し出します。
刃と柄がそれぞれシャボン玉に包まれ、泉精霊と天女龍の元に浮かんでいきます。
二つに別れた【漣】が光の粒に変わり、シャボン玉の中で薄青色の紋章が紡がれていきます。同時に【砂漠椰子の種】も光の粒に変わり、こちらは薄紅色の紋章に紡ぎ変わっていきます。
これ、なんか見覚えがあるんですがね。あれは……γ時代でしたかね、古代樹精霊の森に行った時のような、気がしますが。なんか、あんまり良い記憶じゃないのか掘り起こせません。
『イマココニ ユウギノ チギリハ ナッタ』
『今此処に友誼の契りは成った』
あー……。薄青色と薄紅色の紋章が、私の体に入ってきます。思い出しましたよ、これ。あれです。
《称号【泉精霊の友誼】を取得ました》
《スキル【水流魔法】を取得しました》
《スキル【水瞳】を取得しました》
《スキル【樹耳】【風声】【水瞳】が統合され【精霊話】になりました》
《称号【天女龍の友誼】を取得ました》
《スキル【天女の羽衣】を取得しました》
《スキル【天女の羽衣】に未取得スキル【飛行】【空中機動】が統合されました》
《スキル【天女の舞】を取得しました》
《スキル【天女の舞】に未取得スキル【舞踊】【舞闘】が統合されました》
《安全地帯を解放しました》
《スキルポイントを5ポイント付与します》
《ネッフーサの荒地エリア安全地帯【ウスベニのオアシス】を解放しました》
《名前を世界の声に載せますか?》
《 はい》
《→いいえ》
『いいえ』ですよ、当たり前じゃ無いですか。
〔ネッフーサの荒地エリア安全地帯【ウスベニのオアシス】が解放されました。〕
〔鍛冶の町【カネシュの町】との交易成功パーセンテージが加算されます〕
もう、色々と現実逃避していいですよね?
それと【鑑定】、一々上がりすぎです。




