3頁 二日目は、砂漠に溺れ
戻って来ました、元オアシス。
えぇ、一縷の望みは絶たれましたよ。オアシス、復活してなかった……遠目から見てもヤシの木が頭を出しているだけだったので嫌な予感はしたんですがね。
これ、どうしてくれよう。確か、ここ、行商人さん達の中休みポイントでもあったはずなんですけど……掘れと?
取り敢えず、椰子の木の実が取れる位置にあるので採取しておきます。採取できそうなものは採取したくなる、もう癖ですね。
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【砂漠椰子の実】レアリティB 品質C
砂漠のオアシスにしか生えない砂漠椰子の実。硬い果皮の中に可食部として甘い水分と固形の養分を蓄える。果皮は繊維質の塊、可食部は甘くて非常に美味しい。
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【砂漠椰子の種】レアリティD 品質C
砂漠のオアシスにしか生えない砂漠椰子の種。硬い果皮に包まれた人の顔程もある種。食べられない。埋めて緑を増やしましょう。
全く同じような姿なのに、違うようです。見分けが全くつきません。
さて、早朝に、町から逃げる様に出て来たので掘削道具なんてありませんし、どうしましょうか。その前に砂にスコップは無意味ですし…………風嵐魔法があるじゃないですか。
「「「「エアプレッシャー」」」」
空気の圧力で敵の動きを阻害する風嵐魔法です。が、これ、術者の器用さによって圧力や範囲を変えられたりするんです。私も器用さは高いので、小さめの高気圧や低気圧くらいなら創り出せます。
オアシスにはできる限りの高気圧を。その高気圧を中心に正三角形状にできる限りの低気圧を。
これだけでは砂がただ少しずつ流れるだけなので、魔法追加です。
「「「「ストーム」」」」
高気圧の目の中に入り、ストームの魔法を追加します。このストームもまた、大きさ、低気圧性、高気圧性が自分で操作が可能なので、エアプレッシャーと同じ配置でやっちゃいます。エアプレッシャーは、ストームと互助機能が働くので相乗効果で早く終わるはずです。うん、見る間に高気圧性の竜巻が砂を押し分けながら周りに拡散し、低気圧性の三本の竜巻がその砂を吸い上げて拡散していきます。エアプレッシャーで最大範囲を指定したおかげが、緩いすり鉢状にオアシスが姿を現していきます。これで傾斜がきついとまた砂が流れ込んで埋もれてしまいますからね。
生き埋めになっていた椰子の木があらわになり、さらにオアシスの泉を囲んでいた僅かな下草が現れます。
いい感じに現れてくれましたね。
「ウィンダリア、魔法を食べて来てもらえますか?」
『アルジノ マリョク!』
首にずっと絡まっていたウィンダリアが一目散に飛んで行きます。空飛ぶ蛇。不思議な図です。
それはさて置き、この魔法、効果が長いので、ウィンダリアに止めてもらおうと言う魂胆です。私は魔法が止めてもらえて万歳、ウィンダリアは私の風嵐魔力が食べられて万々歳とウィンウィンなわけですね。
「さて……掘り起こしたのはいいものの……水が出て来ませんね」
私も、水流魔法は持ってないんですが……どうしましょうかね?
まぁ、しばらく様子を見ましょうか。
ここまでしたんですから、何かあると思うんです。まぁ、ゲームですから。
『アルジ〜』
「はい?」
『マイゴ ミツケタ ツレテキタ』
『アタシ マイゴジャナイ!!』
魔法を食べ終えて帰ってくるウィンダリアに連れられて飛んでいる来るのは、薄青色の幼女です。髪も、肌も、衣も薄青色に揺れて煌めいています。……揺れる? 水精霊じゃないですか、それ。
『シニカケテタ』
『ダッテ オアシスガ ウマッチャッタンダモノ!』
この水精霊、ウィンダリアよりも言葉遣いが大分流暢です。中級くらいでしょうか。
「今さっき掘り起こしはしましたけど、これでいいんですか?」
『!!!』
私の後ろにあったオアシスよりもウィンダリアとの言い争いに集中していたんですかね、漸く枯れた状態のオアシスに気づいてくれましたよ。
目を輝かせてオアシスがあったらしい辺りを飛び回り、帰ってきました。
何も起こりませんね。
『コレダケジャ ダメ
オアシスノ ゲンスイガ ナイ』
「オアシスの、ゲンスイ? 水源ではなく?」
水源を掘り当てろって言われたら無理ですけど、違うなら何とかなりますかね。
『オアシスノ モトトナル ミズノコト』
「今手持ちの水は、【おいしい水】と【湧水】くらいなんですが、ダメですか?」
『【ワキミズ】モ 【オイシイミズ】モ ヤマノ モノ
ココノ オアシスノ ミズジャナイ』
これは、ちょっと、難しいですかね……ん?
「ここの、オアシス生まれの水分なら……甘くなってても良いんですか?」
『アジハ カンケイナイ
スイブンナラ ソレデイイ』
ご都合主義万歳。採取しておいて良かったですよ。木登りは得意ですけどね、椰子の木登りは勝手が違いますからね。……揺らして落ちるようなつき方してませんでしたしね。取り損ねてたらスタミナが急加速度的に消え去るところでしたよ。
取り出すのは、先程採取した椰子の実ですよ。【鑑定】先生、甘い水分が入ってるって言ってましたものね。これが答えじゃないですかね。
「少し待っていてくださいね」
椰子の実の剥き方なんて知りません。まぁ何とかなるでしょう。取り敢えず、下草に腰を落ち着けて、ヤシの実を脚で抱え込みます。腰ベルトの鞘から【漣】を抜いて、まずは外皮を削ってみますか。おや、結構削れるものですね。頭の部分を集中的に削っていきます。
『ヤシノタネ?』
「まぁ、見ていてくださいよ」
水精霊も、ウィンダリアも不思議そうに私の手元を見つめています。まぁ、種、レアリティDでしたからね、いっぱいあるんでしょうね。その中のBですから、相対的に少ないのかもしれません。
考えている間に、比較的柔らかい層が終わって、ガリガリ言う層が出てきました。もう少しですよね、多分。
『アレ? タネジャナイ?』
水精霊は何か気づいたみたいですね。ですが、この硬い層を越えないと水分は出てこないはずです。もう少し、削らないと。
……ガリガリと切っ先でほじくり返していたら、比べ物にならないくらい柔らかな白い固形の層に変わりましたよ。切っ先でさらに穴を広げ
キイィン……ッ
たら、満タンに詰まったココナッツジュースが少し溢れてしまいました。
『アルジ カタナ!』
「この水分でどうでしょう?」
『エ ア ウン コレ ココノ ミズノ ニオイガスル!』
固まっていた水精霊がフワリと近寄って椰子の実中身を確認した途端に興奮状態です。体から小さな水飛沫が飛んでキラキラ輝いています。綺麗ですねぇ。
「どうすればいいですか?」
『アレニ カケテ ホシイノ』
精霊が小さな指を指す先には元はオアシスだったであろう窪み……改めて見ると結構デカイですね泳げそうです……と、その中心に、周囲の砂から浮いている色合いの、薄紅色の真球結晶が鎮座していました。あれ、さっき見たときは無かった気がしますが……。
近づいてみると、この薄紅色の結晶、中に水を封じているみたいです。あの精霊の依り代か何かでしょうか。まぁ、触らぬ何かに何とやら、言われる通りにしますよ?
「ふむ、こうですか?」
結晶の頂点から、ココナッツジュースをかけていきます。……一口、飲んでみたかったですが、仕方ありません。
『旅人よ、感謝する』
「?」
何か、精霊にしては流暢な言葉が聞こえたんですが?
『ババサマ!』
あ、片言に戻って……ん? 声質がだいぶ違う? とか考えてた内に、目の前の結晶が浮かび上がって、急激に大量の水が! 質量保存の法則はどこに?!
って、ちょっと待って、私、泳げないんですけど!!
頭上から強烈な勢いで落ちてくる水の中でもがくことしかできません。いつのまにか、水位は私の身長を超えています。体が浮いています。脚がつかないです、深いです、誰か助けて、マジでこんなことで死に戻りとか、勘弁してください。あ、雛、やばい、胸の中のままです!
あ、慌てすぎたせいで、息が……まじ、ですか……こんな、嘘でしょ……
『おやおや』
目の前に、薄紅色の何かがフワリと現れると同時に体が水中から勢い良く押し上げられます。
「げほっ、ぅ……ごほっ」
一気に水上へ。求めていた空気に、肺が水を吐き出します。同時に外套の前を急いで寛げ雛を確認します……が、寝たままって、嘘でしょ。いや、まさか死んでませんよね? ……息があります。触ってみたら、雛は濡れてません。不幸中の幸いとでも言うべきなんでしょうかね? くそぅ……慌て損ですか。
はぁ……でも、本当に死ぬかと思いましたよ……【潜水】と【水泳】を取得する暇もありませんでした。あとで、少し考えてみましょうかね……。
『すまぬ。まさか泳げぬ者が封を破るとは思わなんだ』
「げほっ、貴方……っ一体、何ですか?」
まだ若干噎せながらも、声の主に目を向けます。
目の前の宙空には、薄紅色の鰭をヒラヒラと揺らす綺麗で大きな魚が飛んでいました。




