1頁 二日目は、砂嵐を抜けて
失敗する理由がわかりましたよ。
異邦人の皆さん、砂嵐によるスリップダメージ対策をされていません。
「いて、って、いってぇ!」
「地味に蓄積するんだけど……」
「砂嵐ってダメージ食らわないんじゃなかったの?!」
「なんであの女は平然としてんだよ!」
大分後ろの方から文句が飛んできてますが、知りませんよ。
そう言えば、テストの時は異邦人の方々には砂嵐ってダメージ無かったんでしたっけ。忘れてました。我々NPCはテストの時からダメージがありましたし、砂嵐のスリップダメージを打ち消せる装備を知っていますから、あまり気にしていませんでした。
「対策考えるのに出直すぞ!」
「うわぁ〜ん、砂が目に入ったぁ!」
「口がジャリジャリだ……」
「なんであの女、平気なんだ……」
聞かれれば答えるんですけどね、既に結構距離がありますし、自分から教えてあげる義理はありませんよ。そこまで私は優しくありませんから。
【防塵外套】レアリティD
様々な塵を防ぐ外套。これさえあれば砂嵐の中でも痛くない。
物理防御力+10
【防塵眼鏡】レアリティD
様々な塵を防ぐ眼鏡。これさえあれば砂嵐の中でも視界良好。
物理防御力+8
【防塵布】レアリティD
様々な塵を防ぐ布。これさえあれば砂嵐の中でも快適呼吸。
物理防御力+3
防御力は低く、見た目もなんか、これから鉱山にでも行くんですか? みたいな感じになってますが、これくらいないとダメなんです。因みに、冒険者用品店で普通に売ってます。防御力の割に値段が高めですから、買わない人が多いかも知れませんね。でも、防具の上から着れますから、少し動きにくくなるだけで全然平気ですけどね。
「さて、そろそろオアシスのはずなんですが……」
椰子の木が何本か、見えてきましたよ。……葉っぱの頭1メートルくらい出した姿で完全に生埋もれてます。確か、5メートルくらいの椰子の木だった木がするんですが?
「これ、キャンプ張れないじゃないですか」
依頼失敗率上昇要因がここにもあったみたいですね。テストの時はここにキャンプを張って一時的な拠点にできたんですが、これではここに死に戻りができません。死んだら町まで帰ってしまうことになります。……一回戦で決めろと、そういうことになります。
「仕方ありません、行きましょう」
砂嵐が酷くなる方へ進んで行きます。砂塵竜は砂嵐の目にいるはずです。この強さですから結構大きな目になるはずです。目にさえ入ってしまえば、防塵装備は外せます。目は無風で、空を見上げれば青空が見えるような穏やかな場所ですから。
空を見上げると、ぽっかりと蒼空が覗いている場所が薄く見えてきました。
矢を番えておいたほうがいいかも知れません。
今回は的が大きく、そこまで俊敏でもないので弓矢で戦います。一応賞金首扱いになるかもしれないので苦無もベルトに装備済みです。
弓は言わずもがな【古代樹精霊の狩猟弓】、今回は矢を替えてきました。
【軽鋼の矢】レアリティB カスタム
矢尻に軽鋼を使った短弓用の矢。
物理攻撃力+30
貫通力+50
矢羽カスタム:飛翔鶏フライングクックの風切羽
カスタム効果:飛距離+3〜5メートル、消音・小
矢尻カスタム:ヤドクイモリの毒
カスタム効果:状態異常付加・毒(確率大)
軽鋼は腐食に強いので薬品などでカスタムする際に役に立ちます。少し高価ですが、背に腹変えられません。ヤドクイモリの毒は元々持っていたものです。ご都合主義? 備え有れば憂い無しですよ。
大分目が近くなってきました。目と砂嵐の境目である壁が目視で確認できます。
中に異邦人はいないようです。目の中で丸くなって眠っている砂塵竜が確認できます。耳からウーパールーパーみたいにエラを出して熟睡しているようです。レベルアップした【暗躍】と【隠遁】の出番のようですね。耳が良い砂塵竜に第一撃を与えたら、戦闘開始です。
まだ目の中には入りません。毒カスタムした矢を番えて、狙いを定め、目の壁から矢先だけ出してさらに集中します。【鑑定】先生のお陰でエラの中に隠れた耳穴が丸見えですから。
「っ!!」
声は出せません。出した途端に警戒されるのが目に見えています。矢は空を切って砂塵竜に。耳に刺さると同時に赤黒い煙を立ち上らせます。劇毒のエフェクト効果です。動かない的だったら十中八九の確率で当てられますから、最初の一撃としては良いところに入ったんじゃないでしょうか。
『キャアアアアアアァァアア!!!』
体に似合わず甲高い女性の悲鳴のような鳴き声をするのがこの砂塵竜です。毎回この声のせいで攻撃の手を緩めてしまう異邦人の方が何人かはいらっしゃるんですよね……本当に困った声です。ですが、今回は一人ですから、頑張りますよ。
砂塵竜と目があいました。いつもの黒曜石の矢を番えます。吐き出してくる砂玉を回避しながら、矢を打ち込みます。流石に胴体は硬いですね。ですが最初の矢で片耳を破壊できたおかげか、動きがフラフラでこちらへの攻撃も緩いですから、余裕で避けられます。
毒の効果もまだ続いています。砂塵竜の頭上にはブクブクと泡立つ毒状態のエフェクトが赤黒く浮いています。劇毒ですからそのダメージは半端なものではないはずです。このまま回避を続けながら、毒のダメージを継続させて体力を削る方向で行きましょう。
『キャアァ!!』
「うるさいですよ!」
弓の特殊攻撃として、矢を番え弓を引いたままいると、力を溜めた一矢を放つことができます。古代樹精霊の狩猟弓の溜め攻撃は二段階あり、一段階目が痛撃矢、二段階目が貫通矢となり、正面から狙えば多段ヒットを狙えます。鳴き声を上げるべく口を開けた瞬間に放った矢が竜の喉目掛けて飛んでいきます。
『キュアアァ……』
尾鰭の方まで貫通したのかダメージエフェクトである赤い血がいくつも飛び散ります。心なしか声も小さく……なんか、可愛らしい……?
「……なんなんですか、一体」
何故か、目の前でお座りしだしました。これは一体……あぁ、砂塵竜の頭上の毒エフェクトが消えてしまいました。ん、何か代わって現れましたよ。……ピンクのハートが大中小と三つ上から下に並んでいます。
「これが魅了ですか……戦闘中にここまでおとなしくなられるとトドメをさすのが躊躇われませんかね」
まぁ、そんなこと言ってもトドメはさしますがね。残酷? ここは、ゲームの世界ですよ?
「さぁ、反対側の耳を開いてくださいな」
『キュア?』
まるで、これでいい? みたいな声です。そんな魅了状態の砂塵竜に再び毒カスタムの【軽鋼の矢】を番え、打ち込みます。
『キュルアァァアア?!』
打ち込んだと同時に魅了状態が解けてしまったようです。そうですよね、魅了状態に関してはスキルの補助がありませんから、そんなに長い時間保持ができるとは思っていませんでした。
両耳を壊された竜がフラフラと無秩序に暴れまわります。十分距離をとって、装備の胸元を寛げます。
『ピィ?』
「今のあれを攻撃すればレベルアップのチャンスですよ?」
『ピィピピィ!!』
実はこれを狙っていたと言っても過言ではありません。




